バスの降車ボタンが、大きな進化を遂げています。
【好きなだけ押せます!】東急バス公式の「降車ボタンキット」です(写真)
バス用機器大手の「レシップ」が開発した無線式の降車ボタンは、配線だけでなく電池すら不要。
こうした最新技術は、乗客がより押しやすい位置にボタンを設置できるようにするものですが、そもそも日本のバスには、なぜこれほど多くの降車ボタンがあるのでしょうか。
その歴史は、かつて主流だった車掌が乗務するツーマンバスから、運転士ひとりで運行するワンマンバスへの移行期にさかのぼります。車掌がいなくなったことで、乗客が自ら降車の意思を伝える必要が生まれたのです。
現在では当たり前の押すと光るボタンも、実は海外ではほとんど見られない、日本で独自に進化した機能です。
ボタンを押した本人だけでなく、ほかの乗客にも信号が伝わったことが、ひと目でわかるこの仕組みは、不要な重ね押しを防ぎ、乗客の安心感を高める工夫と言えるでしょう。
では、こうした多さや配置の背景にある基準や思想は何なのでしょうか。
法律で定められた「皆に優しい」という思想ボタンの数と配置に大きな影響を与えたのが、2000年に制定された「交通バリアフリー法」の理念です。
バスの降車ボタン(画像:写真AC)
この理念を具体化し、バスの普及を促進するために国土交通省が2003年に定めたのが「標準仕様ノンステップバス認定要領」という制度です。
この要領では、ボタンは「体を大きく捻ったり、曲げたりする」ことなく押せる位置に設置することが求められています。これは、走行中のバス車内での転倒事故を防ぐための安全上の配慮です。
さらに、ボタンの色は「朱色または黄赤色」と定められており、これは高齢者やさまざまな色覚を持つ人にも識別しやすい「カラーユニバーサルデザイン(CUD)」の考え方を採り入れたものです。
こうした規制の根底にあるのは、「どんな乗客でも、どこにいても、体に無理なく安全にボタンを押せなければならない」という大原則です。
子どもからお年寄り、車いすの利用者まで、すべての人に対してこの条件を満たすためには、必然的に車内のあらゆる場所にボタンを設置する必要が生まれたのです。
ボタンそのものにも、人間工学に基づいた工夫が凝らされています。例えば、誰もが押しやすく、かつ誤操作しにくいよう考慮された設計や、視覚だけでなく触覚でも位置がわかるような配慮がなされています。
また、押した後のフィードバックも、ボタンの点灯(視覚)、チャイム音(聴覚)、前方の「次、とまります」表示(文字情報)という三位一体のシステムにすることで、あらゆる乗客に情報を伝えています。
バスの降車ボタンの多さは、単に便利なだけでなく、法律とユニバーサルデザインの思想に基づき、すべての人の安全と公平なアクセスを追求した、日本の公共交通が誇るべき緻密な設計の結晶だと言えるでしょう。
なお、この認定要領は一度定められただけでなく、社会のニーズに合わせて定期的に見直されており、ベビーカーのスペース確保など、誰もがより利用しやすいバスを目指して、今も進化を続けています。

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