人間の情報処理資源には限界がある

 運転中のケータイ操作は法令で明確に禁止されています。2019年にいわゆる“ながら運転”が厳罰化され、それによって交通の危険を生じさせた場合、1年以下の懲役または30万円以下の罰金、違反点数6点(普通車)という重大な違反となっています。

【え…!】これも違反になる可能性が!?(写真で見る)

 一方、運転中の「ハンズフリー通話」は法律で認められていますが、交通心理士で近畿大学・理工学部の島崎 敢准教授によると、通話をしないときよりはるかにリスクがあり、特に高齢者は体調次第で控えるべきだと指摘します。

 ハンズフリー通話なんて「運転中に隣の人と会話するのと同じでは」と思うかもしれません。リスクの根拠について、島崎教授は次のように解説します。

「『クルマの運転をしながら会話できるのか』『別の行動ができるのか』という問いは、心理学的には『人間の情報処理資源に限界がある』という点に関係します。クルマの運転には『空間認知』『注意配分』が必要で、一方の会話には『言語処理』が必要です。これらは比較的独立した処理能力であるため、健康な若い人であれば、『運転と会話を同時にこなすこと』はできるでしょう。実際ラジオを聴いたり、同乗者と話したりしながら運転することは日常的に行われています。

 しかし、認知機能が低下している場合は話が変わってきます。加齢により認知機能が低下すると、情報処理資源が減ってしまいます。もちろん、この変化には個人差がありますが、人によっては『空間認知』『注意配分』に対して『言語処理』の影響が大きくなり、例えば危険な場面に遭遇した場合、対応に時差が生じる可能性があると考えられます」(島崎准教授)

 また、ハンズフリー通話の先にいる人は、ドライバーが運転する道路状況までは当然見えていません。危険な場面に遭遇しても遠慮なく会話を続けてしまう場合もあり、こういったこともドライバーの「注意配分」を奪ってしまうリスクが隠れているといいます。このため、「同乗者との会話よりも、ハンズフリー通話のほうがリスクはやや高くなると考えられます」とのことです。

特に高齢者は自主的に「ハンズフリー通話」を控える選択を

 島崎教授は、こういったリスクの可能性を前提とした場合、特に高齢者は自主的に「ハンズフリー通話を控える」ことを推奨します。

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運転中のスマホ操作よりはずっと安全なハンズフリー通話だが、特に高齢者は体調次第で行動を控えるべきだという(画像:写真AC)

「情報処理資源が減っている状態、つまり加齢により認知機能が低下している方や運転が苦手な方、あるいは交通量が多い・天候が悪いなど運転に余裕がない状況では、その日の自分の体調や注意力を自己確認し、『今日は会話がきつい』『この状況では厳しい』と少しでも感じるのならハンズフリー通話を避けるのが賢明です。言うまでもなく、大事なことは『ルールを守ること』以上に『自分が事故を起こさないように調整すること』です」(島崎准教授)

 また、運転中の「電話にまつわる危険」は、通話中よりも、着信時のほうが顕著に現れるとも話します。「着信があると、運転中に限らず誰しも『今すぐ出ないと切れてしまう』というプレッシャーを受けるものですが、こういった場面での運転は『空間認知』『注意配分』をいくらか削ぐことになる」と指摘します。

 そのうえで、島崎教授は高齢ドライバーに対して「運転中は『電話に出ない』と決めておく。『電源を切っておく』というのも防衛手段になるでしょう」と話しました。

 今回は主にハンズフリー通話に対する解説でしたが、「運転中の飲食」「運転中の喫煙」といった広義の“ながら運転”全般に言えるでしょう。なお、こうしたことによる前方不注意や安全不確認は「安全運転義務違反」に問われる可能性もあります。

 認知能力の変化には個人差があり、また自分ではなかなか気づくことが難しいものです。だからこそ自分の状態や運転する状況を意識的に考え、無理のない運転行動を心がけることが賢明かもしれません。

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