上品な外観「防弾センチュリーSUV」の正体

 2025年10月下旬、アメリカのドナルド・トランプ大統領が来日した際、東京の街中を移動する車列は多くの注目を集めました。大統領専用車である通称「ビースト」はアメリカから空輸され、その前後を警視庁の白バイやパトカー、そして日米の黒塗り車両が鉄壁の警護体制を敷いていました。

【写真】これが「防弾センチュリーSUV」の識別点です

 その車列の中に、ひときわ存在感を放つトヨタの最上級モデル「センチュリーSUV」の姿がありました。

 同車は仮ナンバーを付けた状態で走行しており、SNSなどでも「センチュリーSUVが存在感スゴい!」「超カッコいいじゃん!」などといった声があがっていましたが、実はこのセンチュリーSUV、防弾仕様車であった可能性が極めて高いのです。

 その根拠となるのが、窓ガラスの縁(ふち)に見られる特徴です。側面のドアガラス部分を見るとわかりやすいですが、サッシュの内側に、さらに大きく縁どられた黒い部分があります。前後のドアはもちろん、フロントガラスにも同様の処理が施されており、これらは分厚い防弾ガラスを取り付けた特殊車両に見られる特有の構造と言えます。

 警視庁をはじめとした警察組織には、これまでレクサスLSやランドクルーザーなどの防弾車が警護車として配備されてきました。また、センチュリーのセダンタイプは総理大臣専用車などで防弾仕様が採用されていますが、センチュリーSUVの防弾仕様が公の場に出たのは、おそらく今回が初めてでしょう。

 新たにセンチュリーSUVの防弾車が採用された背景には、「日本の技術で要人を守る」という明確なメッセージがあるとみられます。防弾仕様のセンチュリーSUVは、見た目こそ一般モデルとほぼ変わりませんが、内部には徹底した改造が施されており、銃撃や爆発にも耐える“要塞級”の防御力を持っています。

 具体的には、ボディには防弾鋼板や特殊素材が組み込まれ、窓は多層構造の防弾ガラスへと変更されています。これにより、攻撃への耐性だけでなく、車両の静粛性も高まっていると考えられます。

 また、装甲の重さに対応するため、サスペンションやブレーキ系統も強化されているはずです。

タイヤには、パンクしても一定距離を走行できる「ランフラットタイヤ」を採用していると推察されます。さらに、燃料タンクや電子制御系も厳重に防護され、最新の通信・警報システムが追加されている可能性も高いでしょう。

ひょっとしたら総理大臣専用車になるかも

 トランプ大統領が来日した際、この防弾センチュリーSUVは、フラッグポールにアメリカ国旗をたなびかせながら走行していました。また、フロントガラスには外務省のマークを印刷した紙と、「AMBASSADOR(大使)」という文字が印刷された紙がそれぞれ貼られていたことから、ジョージ・グラス駐日大使をはじめとした大使館関係者の車両として使われていたようです。

トランプ大統領の車列になぜ!?「仮ナン付きセンチュリーSUV...の画像はこちら >>

2025年10月下旬、来日したトランプ大統領の警護車列の中にいた仮ナンバー付きのセンチュリーSUV(深水千翔撮影)。

 さらに、助手席側のドアミラーにはナビミラー(補助ミラー)が設置され、フロントグリルの内側には青灯も装備されていました。SNSなどではそれを点灯させている様子も確認できます。こうした特徴を考慮すると、総理大臣専用車として正式採用する前段階の「テスト運用」として、今回大使館関係者の警護任務に用いられた可能性も捨てきれません。

 防弾センチュリーSUVの装甲レベルや詳細な構造は、安全上の理由から公開されていません。しかし、日本企業がこうした高度な車両を開発・提供できるという事実そのものが、日本の自動車産業の高い技術力と信頼性を物語ります。

 今後、電動化や自動運転支援といった次世代技術を組み合わせた“防弾EV”の開発も進む可能性があります。また、企業や自治体が防護車両を導入する動きも広がりつつあり、国産防弾SUVの需要拡大も見込まれます。

 外交の舞台で堂々と走るセンチュリーSUVの姿は、日本の「安全」と「品格」を象徴する存在といえるでしょう。国産防弾車の進化は着実に進んでいます。

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