4タイプもある韓国製ジェット練習機

 今年(2025年)9月に韓国の首都ソウルで開催された防衛展示会「ソウルADEX 2025」。週末にソウル空港で開催されたパブリックイベントでは、韓国のKAI(韓国航空宇宙産業)製ジェット練習機T-50「ゴールデンイーグル」が様々なデモフライトを実施しつつ、地上展示でも披露されていました。

【写真】全部同じじゃないんです! これがTA-50とFA-50の見分け方です

 同機は、アメリカのロッキード・マーチンの技術支援を受けてKAIが開発した機体であり、会場にはタイプの異なる4種類のT-50が展示されていました。これらは、カラーリングの違いこそあれ、その外見はほぼ同じで、並べて展示されていれば軍用機マニアでもその違いがわからないでしょう。

 しかし、見た目が似ているからといって、中身や任務が同じというわけではありません。機内装備や任務がそれぞれ異なるため、運用上の位置づけや運用コストには大きな違いがあるのです。

 白と赤の塗装の機体が、オリジナルの T-50 です。本機は学生パイロットの高等訓練を目的に設計された純粋な練習機で、アフターバーナー付きのF404系ターボファン・エンジンとフライ・バイ・ワイヤを備え、最大約8Gの機動飛行が可能です。

 一方で、ミサイルなどの兵装搭載能力はなく、戦闘機用レーダーも装備していません。つまり戦闘任務に投入することは不可能で、あくまで操縦技量を習得するための機体です。

 T-50B は、このT-50 をアクロバット仕様に改修したもので、韓国空軍のアクロバットチーム「ブラックイーグルス」の専用機として用いられています。主な改修点はスモーク発生装置やフライト記録用カメラのマウント追加、専用塗装などで、機体の基本的な空力・動力系はT-50と変わりません。

残りの2モデルはマジでソックリ

 一方、T-50をベースに兵装の運用能力を追加した発展型が、TA-50とFA-50になります。「ソウルADEX 2025」の会場ではこれら2機種が並べられて展示されていましたが、両機とも同じような塗装で、さらに主翼端には空対空ミサイルの模擬弾まで搭載されていました。

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手間がTA-50で、奥がFA-50。FA-50は主翼中央のRWRアンテナの追加や垂直尾翼上部の形状が異なるのが外見的な特徴とのこと(布留川 司撮影)。

 筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)も当初、違いがわからず、機体の前にいる韓国空軍のパイロットに質問してしまったほどです。それほどTA-50とFA-50はよく似ていました。

 TA-50は固定機関砲を装備しミサイルを搭載・使用することもできますが、基本的には練習機です。T-50で操縦訓練を終えた学生パイロットたちが、本物の戦闘機を操縦するための訓練を行う導入訓練機という位置づけになります。このような性格の練習機は、「リード・イン・ファイター・トレーナー」、略して「LIFT」とも呼ばれます。

 武器が使え、訓練のためのレーダーも装備していますが、戦闘能力については限定的であり、戦力としては軽攻撃機に分類されます。

 一方、FA-50はT-50をベースに、完全な戦闘機としてアップグレードされたモデルです。TA-50と兵器の運用能力やレーダーを装備していますが、さらに敵からレーダーを照射されたときに警報を出すRWR(レーダー警報受信機)や、他の航空機とデータリンクを行なうリンク16なども装備しています。

 特にRWRの受信機は主翼中央付近に棒状の突起物として追加されており、これがTA-50とFA-50の外見上の大きな違い、両機を識別するときのポイントになります。ほかにも、垂直尾翼の形状もFA-50だけ異なるそうです。

大は小を兼ねない?

 一見すると、同じような機体を4種類も作るのは、それだけ手間とコストがかかるようにも思えます。そこで、筆者は機体の種類を教えてくれた韓国空軍パイロットにその疑問をぶつけてみました。

「全部同じじゃないですか!!」見た目そっくりでも任務は別モノ! 韓国製ジェット機の“使い分け”とは?
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手前からT-50、TA-50、FA-50の順で並べられた各モデル(布留川 司撮影)。

 すると、彼は次のように答えてくれました。

「それぞれの用途に合った機体を使うのが一番効率的です。操縦訓練をする学生パイロットは基本操縦を繰り返し行うため、レーダーなどの装備がないシンプルなT-50で飛行回数を積み重ねます。FA-50は戦闘機として能力がありますが、RWRやリンク16はメンテナンスに費用がかかり、LIFTとしては必要最低限の装備に留めたTA-50の方がコスト的に安く済みます。ここにあるT-50シリーズは同じ機体に見えても、実際には配備された部隊も、運用の方法もまったく異なります」(韓国空軍パイロット)。

 日本には「大は小を兼ねる」ということわざがありますが、高額で複雑なジェット機ともなると、その限りではないようです。

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