親戚は「成田エクスプレス」や「JRA」?

 1985年に登場したヤマハ「VMAX」は、排気量1200ccの V型4気筒エンジン搭載の大型バイクです。アメリカンのようであり、またダートトラッカーの要素も感じられたVMAXは、発売直後からアメリカで大ヒットを記録しました。

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 アメリカ市場の大型バイクは、それまでロングツーリングを楽しむためのクルーザー的モデルが一般的でした。しかし、VMAXはそれらの従来モデルとは全く違う、新しいコンセプトで開発されたバイクでした。

 特徴的なのは、いかにも“攻めそう”なドラッグレーサー風のフォルムや、タンク下の左右に設けられた巨大なエアダクトです。

 特にこのエアダクトは非常に個性的で、後にも先にもほとんど例のない意匠ですが、このデザインをまとめたのは、インダストリアルデザインの巨匠・滎久庵憲司(えくあん・けんじ)氏。滎久庵氏は「成田エクスプレス」の253系やE259系をはじめ、JRA(日本中央競馬会)のロゴマークや、キッコーマンの「卓上醤油瓶」など、さまざまな製品・ロゴマークなどのデザインを手がけました。

6000回転からは“超加速ゾーン”へ!

 初代VMAXは、登場から32年が経過した2025年の今見ても古びた印象はなく、独創的で優れたデザインを持っていますが、VMAXの独創的なポイントは、外観デザインだけではありません。

「怖くて全開にできねぇよ…!」 ライダーが恐れた「ヤマハの直...の画像はこちら >>

「走りの豊かさを追求した高性能エンジン」が謳い文句だった(当時のカタログより)

 そのもうひとつのポイントが、ヤマハが独自に開発した「Vブースト」と呼ばれるエンジン機構です。

 Vブーストは、ガソリンを空気と混ぜた混合気にしてエンジンに送り込む、キャブレター装置を制御するメカニズムです。VMAXのエンジンには4基のキャブレターが装着されていますが、Vブーストはこれらをバタフライバルブの開閉によって、2基ずつ連結して可変制御します。

 これにより、低中速時には1気筒につき1基のキャブレターから混合気が送られますが、6000回転を超えたあたりからバタフライバルブが開き始め、8000回転で全開状態に。つまり、高回転時にはキャブレターが1気筒あたり2基となり、大口径のキャブレターを装着したような加速が得られたのです。

 最高出力145psを発揮するVブースト付きエンジンは、あまりにも加速が強烈だったために、テスト走行で「怖がったライダーが最高回転までエンジンを回しきれなかった」という逸話も残っています。

日本仕様は「自主規制します…」それでも超速かった

 デカくて、強くて、派手なものが好きなアメリカのバイカーたちから、VMAXは瞬く間に絶大な支持を得ました。当初は主にアメリカ市場専用だったVMAXは、のちにカナダ仕様、ヨーロッパ仕様なども登場。世界中の大型バイクユーザーたちの心を鷲づかみにしました。

 また、1990年には遂に日本国内でも750cc以上のバイクが販売解禁となり、同年VMAXは日本でもデビュー。ただし、日本仕様はヤマハの自主規制によって、最高出力が100psに抑えられていました。

 以降、複数回のマイナーチェンジを繰り返しますが、2008年には海外輸出向けのVMAXが2代目へとフルモデルチェンジします。

 この2代目は、初代を超える排気量1700ccのV型4気筒エンジンを搭載。初代の特徴だったVブーストは廃止となりましたが、キャブレターに代わってフューエルインジェクション(電子制御燃料噴射装置)を採用するなどの改良により、最高出力は200psを達成しました。

 一方、日本仕様のVMAXも翌2009年に発売。最高出力は初代と同様に抑えられていましたが、それでも海外仕様の初期モデルを超える151psを実現し、さらなる注目を浴びることとなりました。

 他メーカーの追随を許さない独創的なモデルだったVMAXは、2017年に発売された120台限定モデルを最後に生産終了し、32年に及ぶ歴史に幕を閉じました。しかし初代・2代目ともに今も「直線番長」「ヤマハの至宝」とも称賛され、そのパワフルで独特な乗り味や個性的な外観から、“伝説のバイク”として語り継がれています。

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