実は「飛ぶことができます」

 広く航空関係者のあいだで議題になる「横田空域」とはいったいどんな空域なのでしょうか――。2025年10月、アメリカ軍横田基地に所属する第374空輸航空団では関東平野空中衝突防止会議を開催しました。

この会議は関東上空を飛ぶ小型機の操縦士を対象に2009年以来ほぼ2年ごとに開催され、今回で9回目になります。この会議の目的は関東平野上空を飛行する民間人パイロットに横田空域について理解を深めてもらう事が目的です。

【図】これが「横田空域」本当の全貌です

 会議では横田基地所属の航空機がどのような経路で飛行しているのか、機種ごとに各飛行隊のパイロットから説明がありました。そして、横田基地の管制官により同基地が提供しているレーダーサービスに関しても詳しい説明がありました。

 さて、横田空域があたかも米軍が独占している空域であるかのような記述を見ることがありますが、実はこれは“都市伝説”の一つともいえるでしょう。横田空域は関東甲信越の1都6県にまたがる広大な空域ですが禁止空域でも制限空域でもありません。

 空域は、国際的にはICAO(国際航空連合)が定めた「クラスA」から「クラスG」までの7種類の飛行可能な空域、それと軍などが飛行試験や訓練に使用する「禁止空域」と「制限空域」で構成されています。飛行可能空域は「クラスG」が飛行する時の条件がもっとも緩く、「クラスA」がもっとも厳しくなります。

 このICAOルールに基づくと、横田空域のほぼ全域が「クラスE」に該当します。「クラスE」では「有視界飛行方式」で飛行する航空機は許可なく飛行することが可能ですが「計器飛行方式」で飛行する航空機は事前の許可が必要です。計器飛行方式は天候が悪く視程が確保できない場合などに用いられる飛行方式で、離陸から着陸までクリアランスと呼ばれる許可を取得してから飛行します。この規則は横田空域に限ったことではありません。

 ではなぜ「航空会社の便は横田空域を飛ばないのか?」という指摘が出てきそうですが、これも正しい答えは、「航空会社の便は毎日横田空域を飛行しています」となります。

旅客機も実は普通に…

 横田空域を飛行する航空会社の便には大きく分けて2種類あります。

「横田空域」って結局なに? 「旅客機は飛べない場所」説は本当...の画像はこちら >>

関東平野空中衝突防止会議の様子(画像:アメリカ空軍横田基地)。

 その一つは、調布空港から運航されている離島便です。これらの便は毎回横田空域の中を飛行して運航されています。もう一つの例は南風運用時の羽田空港への到着便です。2020年3月から南風の日の午後3時から午後7時の間、都心上空を通過して羽田空港に着陸する新しい進入路が設定されました。この新しい飛行経路はその一部が横田空域を通過しています。つまり、羽田空港への到着便でさえ、南風運用時には横田空域を飛行する便があるのです。

 今回開催された空中衝突防止会議には26団体から合計63人が参加しました。自家用機による参加も許可され今回は10機が横田基地に着陸しています。米軍基地に日本の自家用機が着陸を許可されるのは特別な配慮といえます。

この裏には米空軍が横田空域では絶対に航空機同士の衝突事故を起こさないという強い決意を感じます。

 大都市の上空位置する横田空域では日米双方の民間機と軍用機など様々な航空機が行き来しています。だからこそ一元的なレーダーサービスによる交通整理を行う事が重要になるのです。 しかし、せっかくレーダーサービスが提供されていてもその空域を飛行するパイロットが利用しないと意味がありません。そこでレーダーサービスを使用することのメリットをパイロットに周知するために空中衝突防止会議が始まったという背景があります。

 諸外国では「ADS-B(放送型自動従属監視)」と呼ばれる機器が普及しており、ADS-Bを搭載した航空機は自機の位置情報を自動的に周囲に送信すると同時に、周囲に存在する他の航空機は空中と地上の如何に関わらず、画面上でモニタリングすることが可能になっています。

 しかし、日本ではこのADS-Bが普及していないため、混雑した空域においてはレーダーによる監視と航空機の位置情報をパイロットに提供されるレーダーサービスは安全確保のために極めて重要といえます。筆者は、横田基地だけではなく、レーダーサービスを提供する全ての自衛隊基地でも同様な会議が開催されることが望ましいと考えています。

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