「34」は「340度」のこと! 基準は「磁北」

 飛行機に乗ると、滑走路の端に書かれた「34」や「09」などの数字を見かけることがあります。

【使える人限られます】これが滑走路を横切る横断歩道です(写真)

 また大規模な空港だと、その数字の横にさらに「L」や「R」のアルファベットまで併記されています。

これら数字や文字は、なぜ書いてあるのでしょうか。

 そもそも、「34」や「09」といった数字は、その滑走路が向いている「方位」を示しています。

 ただし、このルールの基準は、一般的な地図が示す「真北(まきた)」ではなく、方位磁石が指し示す「磁北(じほく)」です。なぜなら、飛行機のコックピットに搭載されている方位計(磁気コンパス)が、この磁北を基準に動作しているからです。滑走路の表示と計器の表示を一致させることが、安全上最も合理的とされているので、世界基準でそのように統一されています。

 具体的には、国際的なルール(ICAO Annex 14)と日本の航空法施行規則によって定められています。ルールは「磁北を0度(360度)として時計回りに測った方位角の10分の1(小数点以下を四捨五入)」で、必ず整数で表されます。

 たとえば、滑走路が磁北から約337度の方向を向いていれば、10分の1(33.7)を四捨五入して「34」となります。同様に、真東(約90度)なら「09」、真南(約180度)なら「18」、真西(約270度)なら「27」と表記されます。

 なお、滑走路は通常、双方向から離着陸が可能です。なので、数字は両端に書き込まれるのが基本で、一方の端が「34」(約340度)であれば、その正反対の端(180度逆)は必ず「16」(約160度)となります。これは、方位は360度のため、逆方向は必ず180度(=数字上は「18」)ずれるからです。

 では、「34L」の「L」は何を意味しているのでしょうか。

管制官の指示と「指差確認」で事故を防ぐ

 羽田空港や成田空港、伊丹空港などの大規模空港では、同じ方向に複数の滑走路が平行して並んでいます。

滑走路のナゾ数字「34L」って何?「ABCD」「東西南北」じ...の画像はこちら >>

滑走路に書かれる数字の意味とは?(画像:PIXTA)

 この場合、数字だけでは区別がつかないため、Left(左)の「L」、Right(右)の「R」を使って識別します。この左右の区別は、その滑走路に着陸しようと進入してくる飛行機から見て判断されます。

 羽田空港のA滑走路とC滑走路は、どちらも約337度を向いているため、「34L」および「34R」と呼ばれています。

 ちなみに、もし滑走路が3本平行して設けられているのならば、真ん中は「C(Center)」が使われます。成田空港では2029年3月にC滑走路が完成予定であり、そうなると現在のB滑走路が「34C/16C」に変更される計画です。もしそうなれば、これが日本の民間空港で初の「C」の使用例となる見込みです。

 ちなみに、もし4本以上の滑走路が平行する場合は、方位を10度ずらして表記する(例:ダラス・フォートワース空港)といったルールもあります。

 この数字とアルファベットの組み合わせは、単なる識別に留まらず、パイロットの安全確認プロセスにおいて「最後の砦」ともいえる重要な役割を担っています。

 パイロットは、地上走行から離陸許可まで、航空管制官(ATC)と厳密なやり取りを行います。離陸許可は、例えば「Runway 34L(スリー・フォー・レフト)、Cleared for takeoff(離陸許可)」のように、必ず滑走路番号とアルファベットを含んだ形で指示されます。

 パイロットは滑走路に進入する直前、目の前の滑走路に大きく書かれた「34L」の表示を目視で確認します。同時に、コックピットの方位計(HSIなど)を見て、機首の方位が指示された方位(約340度)と一致しているかを指差確認します。

 これは、誘導路と滑走路が複雑に入り組む大規模空港で、万が一にも違う滑走路や閉鎖中の滑走路に進入してしまう「滑走路誤進入(Runway Incursion)」を防ぐための、極めて重要な安全確認プロセスです。

磁北がズレる!? 数字の書き換え結構あります

 これら滑走路の数字は、一度決まったら永遠に変わらないわけではありません。実は、地球の都合に合わせて「書き換え」が行われることがあります。

滑走路のナゾ数字「34L」って何?「ABCD」「東西南北」じゃない理由 意外すぎる修正事情も
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2本の滑走路が並行している空港のイメージ。写真はハワイのオアフ島にあるホノルル国際空港(画像:PIXTA)

 基準となる「磁北」は、地球の磁場の影響で、実は毎年約60kmの速度で少しずつ動いています。飛行機の計器は常に最新の磁北データ(偏角)を補正していますが、滑走路のペンキ数字(文字)は固定されたままです。

 このズレが長期間蓄積した末に、方位角の四捨五入の結果が変わってしまう(例えば344.9度が345.0度になる)と、滑走路の番号も変更する必要に迫られるのです。

 日本では磁気偏角の変化が非常に遅いため稀ですが、海外では多くの事例があります。例えば、アメリカ南東部フロリダ州にあるタンパ国際空港では2011年に磁北の移動により滑走路番号を「18/36」から「01/19」へ変更しました。

 スイスのジュネーブ空港でも2018年に同様の理由で番号が変更されています。

この「書き換え」は、単にペンキで塗り直すだけでなく、空港内の無数の案内標識や航空図面の修正も必要となるため、アメリカの空港では数十万ドルの費用がかかると見積もられた事例もあります。

 滑走路の数字は、単なる識別番号ではなく、「磁北を基準とした方位」という世界共通のルールに基づいた合理的なシステムです。

 パイロットはこれをコックピットの計器と照合し、管制官とのコミュニケーションにも使うことで、日々の安全運航を支えています。次に空港を訪れた際は、その数字がどの方角を指しているのか、思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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