巨大なタンカーやコンテナ船が、小さなボートに乗った海賊に襲われることがあります。映画のような話ですが、いまでもソマリア沖やマラッカ海峡などで現実に起きている脅威です。
【ドクロの旗掲げないの!?】これが現代の海賊です(写真で見る)
しかし、商船は軍艦のように大砲やミサイルで反撃することはできません。
では、丸腰の船はどうやって海賊を撃退しているのでしょうか。その方法は意外にアナログですが、徹底的に「物理的」なものでした。
まず、海賊が船に乗り込んでくるのを防ぐための”鉄壁のガード”です。
海賊は船の縁(ふち)に長いハシゴをかけてよじ登ってきます。そこで船側は、手すりの周囲にグルグルとワイヤーを張り巡らせます。
ただの有刺鉄線ではありません。レザーワイヤー(カミソリワイヤー)と呼ばれる、非常に凶悪なものです。
牧場の柵にあるようなトゲトゲではなく、その名の通り「カミソリの刃」そのものが無数についています。
衣服や皮膚を引っ掛けるのではなく、触れればスパッと切り裂くように設計されているのです。これを海側に張り出すように設置することで、ハシゴをかけようとする海賊の頭上に刃のカーテンが垂れ下がり、物理的に登れなくしています。
また、放水も有効な武器になります。
さらに、人間の心理を利用した“ダミー人形”も活躍しています。オレンジ色のつなぎを着せた等身大の人形にヘルメットを被せ、手すりに固定します。
ポイントは“双眼鏡”を持たせること。遠くから見ると「常に見張りがこちらを監視している」ように見え、海賊に襲撃をためらわせる効果があるのです。
いざという時の「開かずの部屋」とガードマンの掟それでも海賊に侵入されてしまった場合、乗組員はどうするのでしょうか。
「レザーワイヤー(カミソリワイヤー)」のアップ。これを船体の周囲に張り巡らす(画像:PIXTA)
実は船の中には、いざという時のための「シタデル(要塞)」と呼ばれる避難部屋が用意されています。
機関室の近くなど船の奥深くにあり、鋼鉄の扉で閉ざされた頑丈なパニックルームです。内部には数日分の食料や水、簡易トイレ、そして外部に助けを求めるための独立した通信機が備えられています。
そして最も重要なのが、ここにある“あるスイッチ”です。
たとえ海賊が操縦室(ブリッジ)を占拠しても、シタデルに逃げ込んだ乗組員がこのスイッチを使って船の動力を切ってしまえば、船はただの鉄の塊となり、動かすことができません。海賊が船ごと持ち去ることを物理的に不可能にする、最後の切り札と言えるでしょう。
また、危険な海域では“民間武装警備員”が乗船することもあります。
彼らは元軍人などのプロですが、いきなり撃ち合うことはありません。まずは武器を持って甲板に立ち、「この船は武装しているぞ」と姿を見せつけます。それでも近づくボートには、水しぶきが上がるように威嚇射撃を行い、警告します。
彼らの仕事は「戦うこと」ではなく、あくまで「船に近づけさせないこと」です。海賊も命は惜しいため、防備が固い船だと判断すればターゲットを変えることが多いのです。
巨大な船を守るための工夫は、カミソリワイヤーから開かずの部屋まで、徹底した“守りの技術”で固められています。

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