「オワコン」どころか対ドローンで再評価

 各国が廃止の方針を打ち出す「攻撃ヘリ」が見直されるのでしょうか。2025年11月26日、ボーイングはポーランド政府とAH-64E「アパッチ・ガーディアン」戦闘ヘリコプター96機の製造契約を締結したと発表しました。

【もう現実!?】これが「ガンダムみたいな戦い方」をするヘリのコンセプトモデルです(写真)

 2022年2月にロシアがウクライナへ侵攻して以来、ロシア軍の戦闘ヘリコプターはウクライナの攻撃で少なからぬ損害を受けており、戦闘ヘリコプターという兵器自体が、相対的に弱体化しているという見方が強くなっていました。

 その影響も多少はあると見られますが、日本は2022年に現在陸上自衛隊が運用しているAH-1S対戦車ヘリコプターとAH-64D「アパッチ」戦闘ヘリコプターを漸次退役させて、UAS(無人航空機システム)に置き換えていくことを決定しています。そんな流れの中でポーランドがAH-64Eの大量導入に踏み切った理由は二つあると、筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は見ています。

 一つの理由は、ウクライナ侵攻でも車両や地上部隊などに大きな損害を与えている「ドローン」に対する有効な迎撃手段として、戦闘ヘリコプターが再評価されつつあることです。

 今回のポーランド陸軍に先駆けてAH-64Eを運用しているアメリカ陸軍は、同機の搭載機関砲やロケット弾を使用したドローンの迎撃試験を行っていますが、その成果は良好だったと報じられています。

 2025年6月に起こったイランとイスラエルの戦いで、イスラエル航空宇宙軍の戦闘機はイランのUAS「シャヘド」を思うように迎撃できなかった一方で、AH-64Dは自機のセンサーで得た情報と、地上のセンサー、F-35I戦闘機から得た情報を合成して目標を補足し、シャヘドの迎撃で成果を挙げたと報じられています。

ヘリを守る「相棒」としての無人機

 二つ目の理由は、AH-64EがUAS(無人航空機システム)との協働能力を備えていることです。

オワコン化しつつあった「戦闘ヘリ」一転、なぜ”大量導入”へ?...の画像はこちら >>

韓国陸軍のAH-64E。韓国は新造機を導入したが、イギリスなど日本以外のAH-64D導入国の多くは、AH-64Eへのアップグレード改修を行っている(竹内 修撮影)

 戦闘ヘリコプターの新たな使い道を創出したドローンは、戦闘ヘリを含めたヘリコプターにとって大きな脅威となっています。ウクライナではロシア軍のヘリコプターに、ドローンの体当たり攻撃で少なからぬ損害が生じています。

 AH-64Eには「V6」バージョンと呼ばれる仕様があるのですが、このバージョンにはUAS(無人航空機システム)との協働機能が追加されています。

 AH-64Eは日本へのセールスも行われていましたので、筆者はボーイングから、何度か同機についての説明を受けています。

筆者が説明を受けた2019~2020年当時は偵察用UASとの協働構想しかなく、ウクライナ侵攻の前だったので、特段ドローンを意識したものではありませんでした。

 しかし防衛専門メディアの「Warzone」は、アメリカ陸軍当局者の話として、AH-64E V6と協働する偵察用UASは、ドローンの検知と迎撃の有効な手段になると報じています

 筆者はAH-64Eの説明を受けた際、偵察用UASだけでなく、攻撃用UASと協働する構想や、AH-64Eに接近してくる敵のUASやミサイルに対して協働するUASが自爆突入するといった、一種の防御兵器として使う構想の有無も尋ねました。ボーイングの担当者は、「当然そのような運用も構想している」と述べていました。

 ウクライナ侵攻でドローンがヘリコプターの生存性を脅かすと認識された現在においては、そのような運用構想がより強く求められるようになっていると考えられますし、同様の構想は韓国の航空機メーカー「KAI」(Korea Aerospace Industries)などの複数のメーカーから発表されています。

ガンダムの「ファンネル」が現実に? 日本の取り組みは

 ところで、アニメ『機動戦士ガンダム』シリーズには、「ビット」「ファンネル」という名称の兵器が搭乗します。どちらも、モビルスーツに搭乗するパイロットが脳波でコントロールして、母機の遠方に存在する敵を攻撃する兵器として描かれます。

 映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』で、アムロ・レイが登場する「νガンダム」が装備している「フィン・ファンネル」は、遠方の敵を攻撃する兵器であると同時に、νガンダムの近くでビームバリアを展開して、νガンダムを敵の攻撃から守る、防御的兵器として設定されています。

 日本が英伊とともに3国共同で行うGCAP計画で開発される新戦闘機や、アメリカが開発を進めている「F-47」などの、いわゆる第6世代戦闘機は、「CCA」(協調戦闘機)と呼ばれるUASとの協働能力が付与される見込みです。CCAはビットやファンネルと同様、母機から離れた場所まで展開して攻撃や偵察を行うUASになると思われますが、ヘリコプターと協働するUASはフィン・ファンネルのように、母機の近くに展開して、攻防両用の役割を果たすものになると思われます。

 日本でも2025年10月に防衛装備庁が、スバルの開発した自律型UASをヘリコプターから操作する実験を行っています。前に述べたようにAH-64DやAH-1Sなどは漸次退役していくことになりますが、CH-47「チヌーク」やUH-60「ブラックホーク」などのヘリコプターは今後も自衛隊の重要な戦力ですから、その生存性を高めるためのUASの有効活用方法の研究開発は、今後も積極的に進めていくことが期待されます。

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