東京メトロや住友商事と提携して首都ロンドンの地下鉄路線を運営している英国鉄道大手Go-Aheadグループ。その経営トップであるパトリック・ヴァーワー共同最高経営責任者(CEO)が単独インタビューに応じ、「東京メトロに期待すること」を明かしました。
【異色すぎる経歴】この人が「東京メトロをロンドンに呼んだ人」です(写真)
Go-Aheadグループは、ロンドンとイングランド北東部の工業都市ニューカッスル・アポン・タインに本社機能を置く従業員2万7000人の多国籍企業で、英国最大級の鉄道・バス事業者です。ロンドンの空の玄関口であるヒースロー空港に乗り入れているエリザベス線を東京メトロや住友商事と共同で運営し、3社のイニシャルを取って名付けた合弁会社「GTSレールオペレーションズ」を立ち上げました(出資比率:Go-Aheadが65%、東京メトロと住友商事が各17.5%)。
日英の鉄道協力のシンボルともいえるエリザベス線は快進撃がとまりません。2022年5月の開業から1年で1億5000万人以上が利用し、2023年度には乗客数が2億1000万人を突破しました。ロンドン交通局の調査では、乗客の9割以上が「地域に良い影響を与えた」と回答し、エリザベス線の効果で沿線に5万5000戸の住宅が新築されました。ロンドン市長のサディク・カーン氏が「大成功」と称えたのも納得です。
エリザベス線の成功の秘訣をヴァーワーCEOに問いかけると、「経営目標は、乗客に愛されること。そのためには、まず従業員を幸せにしたい。幸せでない従業員は乗客を幸せにできないから。これは、エリザベス線に限らず、バス部門も含めたグループ全体の総意。Go-Aheadグループの経営陣は全員、エゴがまったくない人たちばかりだから、従業員もみんなハッピーだ」と笑顔で答えました。
筆者(赤川薫:英国在住アーティスト・鉄道ジャーナリスト)は、今回のCEOインタビューのためにロンドンのダウニング街(英首相官邸)に近い本社に赴くとともに、後日、エリザベス線の車両基地も見学しました。事務職も、運転士など現場の職員も一貫してとても士気が高く、確かに、ハッピーに満ちている職場環境だという印象を受けました。
警察幹部も務めた人情派CEO人情派とも言える同氏の経歴は一風変わっています。オランダ第2の都市ロッテルダムの警察幹部として中央駅周辺の麻薬対策を担当していたところ、顔見知りになったオランダの鉄道会社から引き抜かれ、そこから英国の鉄道会社へと転職し、行く先々で遅延や運休などの問題に取り組み、2023年に英国最大級の鉄道・バス事業者のトップへと登り詰めたのです。
一見するとまったく違う業界への転身にみえますが、警察時代の経験は今でも活きているようです。「当時から部下には、警察は地域に奉仕するために存在すると説いていた。市民を取り締まるのではなく、市民のためにできることはないか聞いて回るように指導していた。その基本理念は鉄道業界に移ってからも変わらない」と同氏は回顧します。
「鉄道を通じて人々の人生を良くしたい」と言う同氏のモットーは、インタビュー中、随所ににじみ出ました。
2025年11月1日、ロンドン郊外の特急列車内で30歳代の住所不定の男性が11人に重軽傷を負わせる事件が発生し、英国中に衝撃を与えました。こうした事件を防ぐためにできることを尋ねたところ、「鉄道は社会の一部だから、鉄道の警備を強化しても無駄だ。それよりも、こうした事件を起こしがちな貧困層や社会的マイノリティに手を差し伸べて、不満のない社会を作ることが大切だ」と答え、「防犯カメラを増やす、駅構内の警官を増やす」という筆者の浅い想定を一蹴しました。
チャールズ国王が立ち上げた慈善団体「ザ・キングス・トラスト」(旧ザ・プリンスズ・トラスト)とともに「人生の目標を見出せずにいたり、定職に就けなかったりする人々に、運転士としての職業訓練の機会と就職の機会を与えている」そうです。
また、Go-Aheadグループはノルウェーやスウェーデンなど世界5か国の鉄道運行に携わっていますが、進出先はどのように決めているのかと問うと、「ポリシーは一つだけ。人権侵害を行っている国には展開しない」と即答。人情と欧州リベラリズムが交錯するのを感じました。
総合デベロッパーとしての東京メトロそんなヴァーワーCEOがエリザベス線の運行パートナーである東京メトロに期待することは何でしょうか。注目するのは、意外な点でした。
「日本の鉄道会社は単に鉄道を運行するだけの会社ではなく、むしろ総合デベロッパーみたいな存在だ」と指摘します。
「鉄道会社が(線路や駅の)不動産を所有しているうえ、(駅周辺に)劇場、ショッピングセンターなどを含む商業施設も運営している」、つまり「エンターテインメントやショッピングで人々を楽しませる」という役割を担い、「人が集まったところに鉄道を通して各家庭をつなげる」という貢献をしているとみているのです。東京メトロも、渋谷マークシティや渋谷ヒカリエなど、数多くの不動産事業を通じ沿線地域の活性化を推進しています(東京メトロウェブサイトによる)。
むろん鉄道会社は営利企業ですから、社会貢献だけではやっていけません。しかし日本式の鉄道会社は「商業施設の収益を鉄道事業に回してより良いサービスを乗客に還元できる利点」があるため商業的な成功も見込めると同氏は分析しています。
乗客が鉄道をストレスなく利用できるために必要不可欠なのが、定時運行率(予定時刻から5分以内の時間で発車できた割合)の向上ですが、これには日本人特有の「完璧を追求する姿勢」がとても参考になるそうです。
エリザベス線の時刻表作成にあたっては東京メトロのアドバイスも受けています。エリザベス線の2024年度の定時運行率は89.5%(ロンドン交通局による)と、遅延・運休が日常茶飯事の欧州では驚異的な良さを誇っていますが、東京メトロの定時運行率99%(東京メトログループ サステナビリティレポート2024による)に到達すべく努力しているそうです。
日本では当たり前のルールもロンドンだと「導入は厳しい」?もっとも苦労はあります。定時運行率の改善には乗客の整列乗車を導入するのが有効ですが、「多国籍なロンドンではルールを守るという文化が希薄な人もいる」と指摘します。
「乗客をホームで3列に並ばせること自体がそもそも大変。その上、次発の1本後の電車に乗りたい人は次々発の人用の列に並んで、次発の電車が発車したらその列を崩さないまま平行移動して次々発のレーンから次発のレーンにずれるとか、そんなルールをロンドンの地下鉄で導入するのは厳しい」(ヴァーワーCEO)
それでも日本の鉄道業界から学ぶことは多く、今後も東京メトロとは協力を深めたいと期待しているそうです。同社はオーストラリアとニュージーランドの鉄道運行への参入を目指しており、「メルボルンに拠点がある(同社の)協力企業に東京メトロを見学してもらった」と明かしました。
もともと同社の理念は国境の垣根を越えて学び合うことにあるそうです。スウェーデンやノルウェーなど日本以外からも知見を得ることが多いと言います。
「グループ内で国境を越えて成功体験をシェアしていきたい。理想を言えば、企業の垣根を越えて交流を持ち、対話を深めたい」「お互いの国を訪問しあい、電車に乗って、駅周辺で買い物をしてみるだけでも気が付くことは多く、学びがある」と、人情派らしい考えを示しました。
こうした細かい努力と高い理想があるからこそ、9割以上の乗客が、「エリザベス線は地域に良い影響を与えた」と回答する結果に結び付いているようです。

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