現代の旅客機は、円筒状の胴体に主翼、水平尾翼、垂直尾翼を備えた形状が一般的です。機種によって翼やエンジンの配置に違いはあるものの、基本的なスタイルはほぼ共通しています。
【画像】えっ…これが「エイみたいな旅客機」驚愕の全貌と客室です
このBWB旅客機は、既存の旅客機よりも優れた点があるとされています。それにもかかわらず、なぜ実用化には至っていないのでしょうか。
アメリカのスタートアップ企業であるJetZeroによると、BWB旅客機は混合翼設計を採用することで、胴体そのものが翼の一部として揚力を生み出す構造になります。これにより空力性能を高めることができ、小型のエンジンでも飛行が可能になるといいます。その結果、燃料消費量や二酸化炭素排出量を、現在主流の旅客機と比べて半分程度まで削減できる可能性があるとしています。
さらに同社は、客室設計の面でもメリットがあると説明します。円筒状の胴体を持つ現行機と比べ、客室空間を横方向に広く確保できるため、乗客や乗員の居住性が向上します。また、客室内の通路を増やすことができるため、搭乗や降機がスムーズになり、ターンアラウンドタイム(到着から次の出発までに要する時間)の短縮にもつながるとしています。
このように多くの利点が指摘されるBWB機ですが、軍用機ではすでに実用化されている一方で、旅客機分野ではなかなか実現していません。
その理由について、次世代航空機の研究を進めているNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の担当者は、2025年11月に開催された「ロボット・航空宇宙フェスタふくしま2025」で次のように説明しています。
「エイみたいな旅客機」なぜ実現が難しいのか「BWBは軍用の爆撃機などでは存在しますが、旅客機とは求められる仕様がまったく異なるため、単純に転用できるわけではありません。
さらに同担当者は、空港側の課題も大きいと指摘します。
「現時点ではBWB旅客機は就航していないため、搭乗橋(ボーディングブリッジ)をはじめとする空港インフラを、根本から見直す必要があります。機体形状が大きく変わることで、既存の設備がそのまま使えなくなる可能性が高いのです」
一方で、BWB旅客機と密接に関係しているのが、燃料に水素を用いることで二酸化炭素排出量を実質ゼロにする「水素旅客機」の研究です。
「液体水素を燃料とする航空機では、燃料タンクをどこに配置するかが大きな課題になります。液体水素はマイナス253度という極低温で保存する必要があり、非常に高い断熱性能が求められます。例えば、熱湯を入れて1か月放置しても温度が1度下がるかどうか、というレベルです。また、液体水素は従来のジェット燃料と比べて体積が約4倍になるため、タンク自体も非常に大型になります。このタンクを翼の中に収めようとすると、翼が厚くなりすぎて航空機として成立しません。そのため、燃料タンクの配置が機体形状そのものを左右するのです」
将来の旅客機開発において、現在と同程度の輸送能力を維持しながら、大型で高性能な燃料タンクを搭載するという観点では、BWB旅客機は理にかなった選択肢のひとつといえるでしょう。

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