「日本最北の駅そば」はどこ?

 駅構内の立ち食いそば、いわゆる“駅そば”は、出汁や麺にそのご当地ならではスタイルを採用していることもあり、乗り継ぎの合間などで手軽にご当地グルメが楽しめます。しかし、かつては全国各地の主要駅にあった駅そばも、その数は年を追うごとに少なくなっています。

【え…!】これが「“常設”日本最北の駅そば」と、その「本場」です(写真)

 それは北海道でも同様で、「日本最北の駅そば」の称号が揺れています。

 よく知られていたのが、宗谷本線の音威子府駅(音威子府村)で名産“音威子府そば”を提供する「常盤軒」です。2021年に閉店しましたが、2025年には有志の手により「駅そば音威子府」として同年12月までの期間限定で復活しました。その当初の営業期間終了後、2026年1月から3月まで週末を中心に期間の延長が決まりましたが、村の支援がいつまで続くかはわかりません。

 一方、2021年の音威子府の閉店後に「日本最北の駅そば」としてクラウドファンディングで資金を集め、2025年4月に復活したのが、石北本線 遠軽駅(遠軽町)の「北一そば」です。しかし、半年後の12月22日に閉店しました。

 では、音威子府、遠軽を除く、常設の駅そば店で最も北にあるのはどこか。それはJR旭川駅の「旭川駅立売商会」です。

常設「日本最北の駅そば」は別の地域の名産そば

 旭川駅は1Fに改札口、3Fに4面7線のプラットホームを持つ高架駅ですが、旭川駅立売商会の店舗は改札外の1Fコンコース、北口(中央)から入ってすぐ、みどりの窓口に隣接しています。イオンモールに近い多くの人が利用する北口(西側)からは、駅に入ってすぐ左に曲がり、駅前広場を左手に見ながら進むと、1分ほどの右手となります。

 店頭には「幌加内そば」の幟が立ち、向かって左側が駅弁などの売店、右側が立ち食いそばのカウンターになっています。メニューは多彩で、そばのほか「手作りおにぎり」も用意されています。

 実際に入店し、注文したのは「かけそば」です。店内のカウンターのほか、駅前ロータリーが見えるコンコースのテーブル席も使えるようですが、やはり立ち食いで“雰囲気”を味わいたく、カウンターでいただきます。

 つゆは色が濃いめですが、塩味はそれほど強くはなく、甘さと出汁感が立った印象です。そして“幌加内”、つまり道北のそばの産地を謳う麺は、柔らかさが印象的です。そばの名産地として知られる長野県や群馬県によくある“滑らか系”とは異なる美味しさです。

 ただ、時間に追われる駅そばゆえ、生麺から茹で上げるわけにはいかないためか、やや柔らかさが勝った印象が心に残りました。

「常設の日本最北の駅そば」の“本場”に行って食べてみた

 旭川駅で駅そばを味わった翌日、“本場の幌加内そば”を食べたくなり、旭川からさらに北に向かいます。目的地とするお店は幌加内市街から約25km、1995年に廃止となった深名線の旧添牛内(そえうしない)駅のそばにある「霧立亭」です。旭川市街からは雪降る道を1時間20分のドライブでした。

「日本最北の駅そば」は結局どこ? “常設の日本最北”を食べて...の画像はこちら >>

「旭川駅立売商会」は、この「幌加内そば」の看板と幟が目印。駅弁も扱うが、午後には売り切れることもあるようだ(植村祐介撮影)

 お店に着いたのは12時を回った時間、幌加内市街を過ぎてからはすれ違うクルマもほとんどなかったにもかかわらず、店舗前の駐車場には何台ものクルマが止まっていて、その人気がうかがえます。ただ積もった雪のため「どこまでが駐車場なのか」を判断するのにひと苦労。

同行者がいれば、降りてもらい誘導してもらうのが早道で、かつ安全でしょう。

 こちらでも掲げられている“幌加内そば”の幟を横目に店内へ。店内にはオーナーの趣味でしょうか、深名線にちなんださまざまなグッズが売られています。

 席につき、卓上のメニューを見ると、田舎のお食事処らしく、そば以外にも牛丼や天丼といった品々が。もちろんいただくのはそば、なかでも“そばの実蒲鉾の天ぷら”という謳い文句が目にとまった「そばかま天そば」を1.5人前の「ちょい盛り」でお願いすることにしました。

 しばしの待ち時間のあと、運ばれてきたおそばとご対面します。丼はかなり大きめ、しかし4つ並ぶかま天はその丼のほぼ半分を占め、圧巻です。

 おつゆはこちらもやや濃いめ、そして甘めの味付けで出汁感がたっぷり。麺は太めで、もっちりとした食感、この甘いおつゆと柔らかい麺の組み合わせが、幌加内そばの特徴なんでしょう。柔らかさが立った旭川駅の駅そばに比べ、こちらはもっちり感のなかにコシ、歯ごたえがあります。そしておつゆのうま味との相性はばっちりです。

 ただ1.5人前のちょい盛りは、それほど小食ではない自分にとっても十分すぎるほどの量で、たっぷりの蒲鉾天のトッピングとも相まって、食べ終えたら満腹で苦しいほどでした。

たぶんたいていの人なら、素直に1人前(メニューによると180g)で足りないことはないでしょう。

 旧添牛内駅は廃止から30年経ったいまでも、駅舎が美しく保存されています。旭川からはるばるクルマを走らせ、いただいたおそばは、自分にとってそのドライブの価値を存分に感じさせるものでした。と同時に、期間限定とはいえ現時点での「日本最北の駅そば」である「駅そば音威子府」にも思いを馳せました。

編集部おすすめ