「頭だけ」で走っているのはトラックではない!

 トラックは「運転席があり、その後部に巨大な荷室スペースがある」という姿が一般的なイメージです。しかし、トラックの荷室スペースを外し「頭(運転席部分)だけ」の状態で走っているトラックを、街中でときどき見かけることがあります。

【頭だけでも2タイプある!?】これが「頭だけトラック」の正体です(写真で見る)

 トラックのイメージとは裏腹に“あまりに短い”姿は、不自然で妙な笑いも込み上げてきますが、こうした「頭だけトラック」は、果たしてどんな目的で走っているのでしょうか。元トラックドライバーの交通心理士で、近畿大学・理工学部の島崎 敢准教授に聞きました。

「まず解説しなければいけないのは、『頭だけ』で走っているのはトラックではなく、トラクターと呼ばれる牽引車だということです。

 一般的に私たちは、あの大きな連結車両全体を指して『トレーラー』と呼びがちですが、厳密には後ろの荷室部分のみをトレーラー(被牽引車)と呼びます。正確には、前側の『トラクター』と後ろ側の『トレーラー』が合体した連結車両の一部、というのが正しい捉え方です。

 いわゆるトラックは運転席と荷室が一体になっているのに対して、トレーラーは運転席部分であるトラクターと、荷室部分であるトレーラーが分離された構造です。わかりやすく言うと、運転席部分がトレーラーという別のクルマを引っ張っているイメージです」(島崎准教授)

 この状態で走るクルマは一般的に「トレーラー」の名で総称されます。1台のクルマ(単車)が運べる総重量の上限は決まっていますが、トレーラー車はトラクター部分とトレーラー部分で“2台分”のカウントとなるため、トラックのような単車より、たくさんの荷物を積むことができるのが利点です。

 つまり、たまに見かける「頭だけトラック」は、厳密に言うと“頭だけ”というより、元々分かれているトレーラーのトラクター部分のみで走っている状態であり、なんらおかしいことはないわけです。

なぜ「頭だけ」で走るの?

 では、なぜトレーラー車は荷室に別れを告げ、トラクター部分のみで走っていることがあるのでしょうか。島崎准教授は、「さまざまな事情があるはずなので一概には言い切れませんが、主に想像できるのは以下の2つです」と解説します。

あれ、荷台がない… たまに見かける「頭だけトラック」なぜ走っ...の画像はこちら >>

実は驚異的に“速い”クルマでもある!?(画像:PIXTA)

 第一の理由は「整備・修理のため」ではないかとのこと。

「トラクターとトレーラーは別々のクルマなので、トラクターだけ車検や整備を行うために修理工場まで走るということはあるでしょう」(島崎准教授)

 そして第二の理由に「運用上の戦略的な切り離し」を挙げます。「積み降ろしの最中はエンジンや運転席は不要です。荷室のトレーラー部分だけあれば良いため、積み降ろしの作業中はトラクターのみ他の荷物を取りに行って運ぶなど、効率的な運用をすることがあります」とのことですが、島崎准教授は「こうした運用は日本では限定的」であるとも説明します。

「欧米では『ドライバーは運転に専念し、積み降ろしは別の作業員が行う』という分業文化があります。そのため積み下ろし中にドライバーが待機して、車両を遊ばせておくのはもったいないという理由から、トラクターを切り離して他の作業に向かう運用が積極的に行われています。一方、日本では伝統的にドライバーが積み降ろしも担当することが多いので、こういった運用戦略は欧米ほど一般的ではないのです」(島崎准教授)

実はメチャクチャ速いんです!

 ここまでの解説で「頭だけトラック」の謎が解けましたが、さらに筆者が気になったのが、トラクター部分とトレーラー部分の分離についてです。あれだけ大型のクルマかつ、相当な重量の荷物を運ぶトレーラー車の分離・連結は、相当な手間がかかるのではないのでしょうか。島崎准教授はこのように解説しました。

「トラクター部分とトレーラー部分の着脱は、例えば電車の連結などよりも相当に面倒でしょう。位置や高さを合わせて連結しなければならないほか、物理的な接続だけでなく、ブレーキのホースや灯火類のケーブルなど、保安部品も接続する必要があります。

 当然これらの作業に伴い、ブレーキや灯火類が正しく動作するか点検も必要なので、慣れたドライバーが慣れた場所でやったとしても、最低5~10分程度の作業時間は必要かと思います」(島崎准教授)

 ちなみに、島崎准教授は意外な話も教えてくれました。「余談ですが、『頭だけトラック』は、重さ数十トンのトレーラーを引っ張っているトラクターが、荷物から解放された状態なわけですから、本気でアクセルを踏み込めば、スポーツカー顔負けの物凄い加速力を発揮します」とのことでした。

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