オーストラリア国防省が次期汎用フリゲートに、もがみ型護衛艦の能力向上型(新型FFM)を選定したことで、一躍注目を集めるようになったのは記憶に新しいところでしょう。
【ヘリが入らない!?】さくら型哨戒艦の後ろやマストの形状をイッキ見!(写真)
じつは同国は世界第2位の排他的経済水域(EEZ)を有しており、本土と周辺離島だけでも820万平方キロメートルと非常に広大です(1位はアメリカ)。
そのため、オーストラリア海軍は軍事的な活動だけでなく、漁業保護や入国管理、税関、麻薬取締り活動など、日本では海上保安庁が担っているような役割も受け持っています。
加えて国境警備では、追跡、阻止、停船、立ち入り検査を含む法執行活動にも従事しており、場合によっては乗組員や乗船客の逮捕や貨物の押収なども、平時においても行っています。
近年は海上からの不法移民と密輸、人身売買の阻止を目的とした軍・警察・国境警備隊による合同作戦「オペレーション・ソブリン・ボーダーズ(主権国境作戦、OSB)」に加わるとともに、違法操業の取り締まりや、パプアニューギニア、フィジー、ソロモン諸島といった太平洋島嶼国へのプレゼンス維持(親善訪問や災害救援)なども実施しています。
そこで、こういった任務に高価なイージス艦やフリゲートを投入するには費用対効果が悪いため、安価で稼働率の高い専用の哨戒艦艇を早い段階から調達し、運用してきました。
オーストラリア海軍は2026年1月現在、大型のアラフラ級哨戒艦と小型のエボルブ・ケープ級哨戒艇を主な哨戒戦力として運用しています。
これまで使われていたアーミデール級哨戒艇は、国境警備と漁業哨戒というオーストラリア海軍特有の任務に合わせたアルミ合金製の艦艇として導入が決まりました。全長は56.8m、満載排水量は約300トンで、速力は25ノット(46.3km/h)を発揮可能。固定装備として25mm機関砲1基と12.7mm機関銃2丁を備えます。
工期の遅れと調達削減の影響は大きくなかった!アーミデール級哨戒艇は2005年から2008年にかけて計14隻が引き渡されましたが、艦内における有毒ガスの発生や、船体の亀裂および腐食、排気系への浸水といったトラブルが頻発し、2021年以降次々と退役。2025年12月4日に最後の3隻が引退しました。
アーミデール級哨戒艇の4番艦「アルバニー」(画像:アメリカ海軍)。
ただ、その一方で不法入国の阻止をはじめとした多様な任務への対応が増大しており、この種の艦艇の増備が要求されました。
そこで建造されたのが、アラフラ級哨戒艦です。同艦はドイツの造船大手リュルセングループ(現NVL)が開発した「OPV80」をベースとしており、2025年6月に1番艦の「アラフラ」が就役しています。
アラフラ級の満載排水量は約1640トン、全長は80m。船体は鋼鉄製で、荒天時の安定性と抗堪性が大幅に向上しました。これは広大な国境の哨戒任務を遂行するとともに、地域の安全保障への関与、人道支援、災害救援、法執行活動など、より広範な任務を支援するためのもので、従来は帰港を余儀なくされた海象下でも任務継続を可能にしました。
艦尾には広大なミッションデッキを備え、コンテナ化された無人機システム(UAS)、機雷戦用機材、ダイビング支援ユニット、もしくは災害救援物資などを搭載可能。艦尾には飛行甲板が設けられ、中型ヘリコプターの発着艦ができます。また、無人航空機(UAV)の運用能力も付与されています。
国境警備の要となる臨検能力に関しては、艦尾に2隻の大型複合艇(RHIB)を搭載し、専用のスターンランプ(滑走台)から即座に展開・揚収が可能です。
一方でアラフラ級の調達数は当初の12隻から6隻に削減されています。40mm機関砲の搭載もキャンセルされ、主武装は25mm機関砲1基と12.7mm重機銃2丁へ変更。
ただ、これではオーストラリアが望む海洋哨戒能力の維持は無理です。実際、アラフラ級の納入遅れとアーミデール級の深刻な老朽化に直面した同国海軍は2020年5月、オースタルにエボルブ・ケープ級哨戒艦6隻を一括で発注しました。
哨戒艦調達のゴタゴタを「他山の石」と捉えよエボルブ・ケープ級はオーストラリアが独自設計したもので、全長は57.8m、満載排水量は約580トン。アルミニウム合金製で速力は25ノット(46.3km/h)以上となっています。武装は12.7mm重機関銃2丁で、7.3m高速複合艇(RHIB)2隻を搭載できます。
アラフラ級哨戒艦の2番艦「エア」。2025年10月に就役したばかりの最新艦だ(画像:オーストラリア国防省)。
乗員数は最大32人まで収容可能です。これにより、通常の乗員に加え、訓練生や臨検チーム、あるいは便乗者を乗せる余裕が生まれています。
海軍向けのエボルブ・ケープ級は当初、つなぎの予定でしたが、ニーズの高まりとアラフラ級の調達削減を受け、現時点で10隻の導入が決まっています。なお、豪州海軍はケープ級哨戒艇も2隻、オーストラリア国立銀行(NAB)からリースして運用しています。
さて、アラフラ級の調達削減の背景には日本の護衛艦輸出にも関わってくる、中国の海洋進出によるインド太平洋地域の急速な緊張高まりがあげられます。
事実、オーストラリア政府は2024年2月、「水上艦艇レビュー(Surface Fleet Review)」において、中国の台頭など安全保障環境が厳しさを増す中で、アラフラ級の能力が不足しているという指摘をしています。
実際、同じ「OPV80」をベースとするブルネイ海軍のダルサラーム級哨戒艦が57mm単装速射砲とエグゾゼ艦対艦ミサイルのランチャーを積んでいるのと比べると、アラフラ級が軽武装であることは否定できません。とはいえ、そもそもアラフラ級が携わるのは国境警備と漁業哨戒であり、こうしたコンセプトのズレが調達を巡る混乱につながっているともいえるでしょう。
今後、日本はオーストラリア海軍の次期汎用フリゲートのプロジェクトで同国と深く関わっていくことになりますが、突然の仕様変更や調達数減少といったトラブルに直面する可能性は十分にあります。
アーミデール級哨戒艇とアラフラ級哨戒艦を巡るゴタゴタを鑑みると、日豪両国の思惑にズレが生じることを認識しつつ、摩擦を最小限に抑えることが艦艇の輸出を成功に導くことになると筆者(深水千翔:海事ライター)は捉えています。

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