東京観光を手軽に楽しめるのが、黄色いバスでおなじみの「はとバス」のツアーです。東京駅丸の内南口には多くのバスが並び、東京タワーや浅草寺、お台場などの幅広い方面への定期観光バスが出発していきます。
【マジで同姓同名!?】はとバスガイドの「毛利」さん(写真15枚)
ツアーに参加する大きな醍醐味が、先頭でマイクを持って途中の名所などを教えてくれるバスガイドさんの案内です。はとバスはバスガイド職を積極的に採用しており、2024年入社が24人、25年入社が21人、26年入社予定が10人となっています。
筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は日本大学国際関係学部の矢嶋敏朗教授と鈴木和信教授が引率する校外学習に同行させていただき、はとバスの2024年入社のバスガイドさんが案内するバスに乗り込みました。すると、笑顔を交えながら明るい表情で聞き取りやすいように語りかける話術や、参加者に配慮した所作など「さすが」とうならされる場面の連続でした。
ツアーは静岡県三島市の日本大学国際関係学部を出発して東京・渋谷のセルリアンタワー東急ホテルを訪れた後、東京都大田区のはとバス本社を訪問、横浜市の中華街に立ち寄って大学に戻る行程でした。筆者は東急ホテルからはとバス本社まで参加しました。
東急ホテル地下1階の出入り口に横付けされていたのは、伊豆箱根バス(静岡県三島市)の日野自動車の大型バス「セレガ ハイデッカ」でした。西武グループらしく白い車体に青と赤、緑のラインが入った「ライオンズカラー」ですが、乗降口の隣でほほえんでいたのはなんと、はとバスの制服を着たバスガイドさんです。
この日は伊豆箱根バスの運転手さんが自社のバスのハンドルを握りつつ、東急ホテルからはとバス本社までは、はとバスのガイドさんが案内する「夢のコラボレーション」が実現したのです。これは日本旅行社員時代に特別仕様の観光バスを使って「日本一周バスの旅」を企画した経験を持ち、自身もバス愛好家である矢嶋教授が仕掛けた“演出”でした。はとバスは「今回は学生さんたちへのバスガイドの業務説明も兼ねて伊豆箱根バスに乗車しました」と説明しています。
バスガイドさんのお名前に「えーっ!?」この日のバスガイドさんの場合、名前を覚えてもらいやすい強みを持っていました。
伊豆箱根バスの日野自動車の「セレガ ハイデッカ」(大塚圭一郎撮影)
毛利さんは「よく『両親がコナン君を好きなんですか』と聞かれることもありますが、全然そんなことはないです」と明かします。ただ、「蘭ちゃんはすごく印象が良いと思います。強くて優しくて、かっこいいですね。そんな人になってほしいと両親からも後付けのように言われました」と自身が同姓同名なのをポジティブに受け止めていることを説明しました。
その上で『名探偵コナン』の主人公・江戸川コナンが毛利蘭を「蘭姉ちゃん」と呼んでいるのを踏まえて「『蘭姉ちゃん』と呼んでくれる方が多いです。ぜひそう呼んでいただけるとうれしいです」と呼びかけ、自分の氏名と愛称を瞬く間に浸透させました。
名前を覚えてもらうことは重要な営業活動ですが、毛利さんは印象の良い“有名人”とひも付けて記憶してもらえる利点を存分に発揮していました。
東京都道412号(六本木通り)を進んできたバスが六本木交差点で右折して外苑東通りを進むと、毛利さんはすかさず「正面に東京タワーが見えています」と乗降口のステップを降りました。参加者がバスのフロントウインドー越しの東京タワーの写真を撮りやすくするために身をかがめる配慮をしたのです。
毛利さんは「東京タワーは高さ333mになります。
続いて不動産大手、森ビルの複合施設「麻布台ヒルズ」の超高層ビル「森JPタワー」と隣を通ると「今、日本で一番高い超高層ビルになります。高さがなんと東京タワーとほとんど同じで、約330メートルの高層ビルです」と紹介しました。
「東京タワーとほとんど同じ」と前置きすることで、3m違いの高さ330mが聞き手にすっと入りやすいように留意しています。名所の名前と特色を暗記してすらすらと解説しながらも、参加者への細かい配慮にも余念がないことに感心しました。
バスの団体名表記にズバリ書かれた狙い東京タワーの足元を通ったバスは、増上寺や芝公園に近づいてきました。この一帯を「東京都内のオアシスといったような雰囲気も感じさせてくれます」と紹介した毛利さんは、東京プリンスホテルの建物を手で示すと、次のような“楽屋話”を打ち明けました。
東京都内を走る伊豆箱根バスから眺めた麻布台ヒルズ(大塚圭一郎撮影)
「私どもはとバスの定期観光コースで食事会場に設置されています。めちゃくちゃおいしいです。『ブッフェダイニング ポルト』というレストランで、こちらでは乗務員も同じ食事をいただくことが多く、ガイドに大人気のホテルです。なので、お仕事が決まったときに同僚たちへ『今日、東京プリンスホテルに行くんだ』と話すと、みんなに『いいなあ』と言われます」
この言葉はTPOをよくわきまえており、参加者が就職活動を控えた学生だったことがポイントです。
じつはバスの正面からフロントガラス越しに見える団体名表記(ステッカー)に「日本大学金の卵様」と記しており、ここには矢嶋教授の遊び心が見て取れます。
はとバスにとっては、自社を就職先候補として売り込む千載一遇のチャンスでもあります。毛利さんはそれをよく理解し、関心を高めてもらうためにバスガイドの仕事の意義や、やりがいを伝えるとともに“おいしい話”も披露したのです。
バスがはとバス本社の車庫に着くと、黄色いバスが並んでいる中で伊豆箱根バスの白い車体は否が応でも目立ちます。面白いのは伊豆箱根バスの日野「セレガ ハイデッカ」が駐車した際、同じジェイ・バス小松工場(石川県小松市)で製造されたため見た目がそっくりな、はとバスの日野自動車の「セレガ ハイデッカ」が隣同士になったことです。
車庫入れで毛利さんはバスの後ろに回り、しっかりと誘導していました。
「お客さまが鬼に見えた」ときもこの後、はとバス本社ではガイド技能職の毛利さんと、日大国際関係学部の卒業生で2024年に事務総合職で入った武山桃菜さんが学生に自身の就職活動について説明しました。学生時代に総合旅行業務取扱管理者資格を取得した武山さんは旅行事業部手配・販売促進・旅程管理課に所属しています。
はとバスガイドの毛利さん(矢嶋敏朗教授撮影)
毛利さんはバスガイドを志す大きなきっかけとなったのが、跡見学園女子大学在学中に学生団体「日本学生観光連盟」に入って渉外部長を務めたことだったと振り返りました。活動の中で「人前で話すということをよくしており、結構慣れていた」ことに加え、もともと神社や寺院に興味があって観光を学んでいる中で「お客さまに伝えたいという思いが強くあり、バスガイドという職業を選びました」と説明しました。
入社後初めての乗務の思い出を尋ねられると、「初期研修を1か月半ぐらい受け、試験に合格して初めて1人で乗務する時にはお客さまが鬼に見えるほど人生で一番緊張しました」と打ち明けました。
担当したのは浅草と東京スカイツリーを訪れる半日の定期観光コースで、「案内もちょっとたどたどしいところもあったかと思いますけれども、お客さまがバスを降りる時に『これからも頑張って』とか、『また来るよ』とか、『今日はありがとう。すごく楽しい思い出になったよ』とか言われてうれしくて泣いていました」と明かしました。
現在はすっかりバスガイド職が板についている毛利さんも、このように「お客様さまから直接お声をいただく機会を得られるのは大きなやりがいになっている」と強調します。
故コロムビア・ローズさんの1957年に発表された歌「東京のバスガール」には、「『発車オーライ』 明るく明るく 走るのよ」という歌詞のリフレインがあります。明るく生き生きとツアー参加者に語りかけ、楽しい思い出と知識を得てもらいたいとのホスピタリティーを持ち、機転も利かせられる毛利さんの仕事ぶりは、70年近く前の歌詞が今日も健在なのを物語っていました。

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