地方鉄道としては異例の路線長100km以上を有する富山地方鉄道(富山地鉄)ですが、最近では、一部区間での廃止と、その一時的な回避が話題となっています。廃止協議の波は電鉄富山~宇奈月温泉間53.3kmを結ぶ「本線」でも起こっています。
【めっっっちゃ古い!】しかも“クセ強” 富山地鉄本線のレトロ駅たち(写真29枚)
この本線にも、古き良き時代の面影をそのまま残す、極めて魅力的な「レトロ駅」が数多く存在します。今回はそのうち廃止協議区間(滑川~宇奈月温泉)を中心に、個人的に選んだレトロ駅を紹介します。
「開業時や大正・昭和の姿をとどめていること」「大規模な改修や近代化が行われていないこと」を条件に選抜し、「過去をフリーズドライして閉じ込めたような状態」や、昭和感・古さの「タイムスリップ度」を5点満点で評価しています。
東新庄駅 タイムスリップ度・・・★★★☆☆電鉄富山駅から4つ目、富山市の市街地にある東新庄駅。周囲には住宅が広がっており、2022年度における富山地鉄の駅別乗降人員では13位にランクインしています。富山地鉄の前身母体である富山電気鉄道の駅として1931(昭和6)年に開業しました。
駅舎は、正面庇の形状がひし形という変わったデザインを持っています。建築年は不明ですが、過去と現代の航空写真を見比べると、1961(昭和36)年には現在の駅舎が見られるいっぽう、1947(昭和22)年の写真では駅舎の向きや大きさが異なるように見えることから、昭和30年代前半頃に建てられたのではないでしょうか。
ホームは対向式で、曲線部に設置されています。上りの富山方面行きホームには、バリアフリールートのスロープ新設に合わせ屋根を増設したようですが、それ以外は、レールと木材で作られた昔ながらの屋根が使用されています。“ザ・木造”というスタイルではないものの昭和モダンを感じさせる駅舎も含め、昭和30~40年代頃の都市部近郊の小駅、というイメージが残る駅です。
浜加積駅 タイムスリップ度・・・★★★★☆滑川駅から下り方面にひとつ隣の浜加積駅は、1935(昭和10)年に富山電気鉄道の駅として開業しました。
ノスタルジー溢れる浜加積の駅舎内(遠藤イヅル撮影)
駅舎自体は開業時のままと思われますが、最近リフォームが行われ、ボロボロだった外壁と屋根・庇が綺麗に整えられました。しかし有峰口駅のように、雰囲気を大きく変えることは行われておらず、古い駅舎特有の風情をよく伝えています。建った直後は、こんな雰囲気だったのかもしれません。
しかも駅舎内、出入り口の木製引き戸、一面一線のホーム、ホームの屋根と駅舎につながる軒に関しては手付かず。往時の様子が強く感じられ、タイムスリップ気分をアップしてくれます。
なお前述の西魚津駅は、富山地鉄を代表するレトロ駅として有名ですが、こちらも近年リフォームを実施。その際、正面に現代的なルーバーが追加され、外観上では古ぼけた駅というイメージを返上しました。この駅もそれ以外は大きく手が入っていませんが、今回は浜加積駅を選び、西魚津駅を選外としました。
早月加積駅 タイムスリップ度・・・★★★★☆続いては、浜加積駅からひと駅隣の早月加積(はやつきかづみ)駅です。本線の滑川~新魚津間は「あいの風とやま鉄道」と並走しますが、先の浜加積駅、そしてこの早月加積駅もその区間にあり、横を同鉄道の521系や、JR貨物の貨物列車がビュンビュンと通過していきます。
早月加積駅の開業は1950(昭和25)年。駅舎は開業時から使用されていると考えられますが、こちらも最近になって外壁と屋根のリフォームが施され、美しく整備されました。修繕前は朽ちかけた木の板と赤茶けた屋根板が時間の経過を感じさせる風情を放っていたため、古いモノ好きには好まれていましたが、利用客としては、少しでも綺麗なほうがよいのは当然でしょう。
ところが、未更新のアルミサッシの引き戸を開けて駅舎内に入れば、この駅も完全に昭和ワールド。ガラスが細かく区切られた木製の窓や引き戸に改札口、樹脂が波打った電光式の「のりば案内」「国鉄魚津駅」表示や、1986(昭和61)年のリニューアル前の姿と思われる外観が描かれた「魚津ショッピングスクエア サンプラザ」(現在も盛業中)の看板が残っています。
改札口からホームへの通路、そして下りホーム上の待合室も整備は未着手。昭和中期頃の空気感を保っています。
なお本線では、上市~電鉄魚津間には中加積、西加積、浜加積、早月加積と「加積」を駅名に含む駅が4駅もありますが、これはかつて、このエリアに浜加積村・早月加積村・北加積村・東加積村・西加積村・中加積村が存在していた名残です。これらの村は1953(昭和28)年に中新川郡滑川町(現:滑川市)と合併したため、これらの地名は駅の名に残るのみとなっています。
東三日市駅 タイムスリップ度・・・★★★★☆黒部市の中心駅である電鉄黒部駅から1駅、宇奈月温泉寄りに設置されている東三日市駅は、1922(大正11)年に黒部鉄道の駅として開業しています。本線にはいくつか前身の鉄道が存在しましたが、現在の電鉄黒部~宇奈月温泉間は、当初は黒部鉄道の路線でした。
東三日市駅もまた、富山地鉄を代表するレトロ駅のひとつとして知られています。現在の駅舎は開業時のものではなく、昭和20年代後半~30年代前半に建てられたといわれています。
駅舎外観は、白壁+瓦の和風建築にタイルを用いておりモダンな印象。レトロな駅名の立体文字を取り付けている傾斜した壁など、特徴的な意匠も見られます。一部がアルミサッシ化されているものの、建築時の雰囲気が強く残されています。
ホームと駅舎内の高さを揃えている場合、出入り口に階段を設けることはよくありますが、東三日市駅では、その階段が正面から側面に回り込んでいるという珍しい構造を持ちます。
駅舎と連続した屋根を持つホームは一面一線で、いかにも昭和風な長い木造ベンチが備わります。手書きのトタン看板、アクリル文字を手で切り出した独特な書体の看板や駅名板なども、レトロさを強調しています。
ところで駅名に「東」と付くのは、電鉄黒部駅が開業時に西三日市駅を名乗っていたため。なお1969(昭和44)年で廃止された富山地鉄の黒部駅は、国鉄(現・あいの風とやま鉄道)黒部駅と接続しており、さらに開業時は三日市駅と呼ばれていました。
舌山駅 タイムスリップ度・・・★★★★★舌山駅も、黒部鉄道の駅として1922(大正11)年に開業しています。
舌山駅。
高い屋根が特徴的な現存駅舎は、建設時期不明とされていますが、1953(昭和28)年および1947(昭和22)年の航空写真では、不鮮明でわかりづらいものの、現在と同じような屋根形状の建物が建っているようにも見えます。1943(昭和18)年に黒部鉄道が富山地方鉄道に合併された際、旧黒部鉄道区間が600Vから1500Vへの昇圧および各施設の改修も行われたため、その際に舌山駅もなんらかの改築が行われ、現在に至っていると思われます。
駅舎は2010年頃に明るい緑色にリペイントされましたが、いかにも木造駅舎らしい設えが各部にあふれており、特にホーム側の造形は歴史を感じさせます。アルミサッシ化がほぼ行われていないことも高ポイントです。石積みのホーム、ホーム上の待合室、ホーム脇の古枕木を再利用した柵、鉄製の架線柱など、駅舎以外の「アイテム」も昭和時代で止まっており、鉄道模型で古い駅を作る際の見本になるような味わいです。
なお舌山駅は、2015年に北陸新幹線の黒部宇奈月温泉駅と地鉄の乗換駅として開業した新黒部駅から300mほどしか離れていません。ガラス張りの美しい新駅の隣が、昭和時代に没入できるような古い駅というのも、富山地鉄の面白いところでしょう。
愛本駅 タイムスリップ度・・・★★★★☆とやま近代歴史遺産100選に選出されている愛本駅。本線の終点・宇奈月温泉駅から3駅手前にあり、この駅の手前あたりから、沿線も山間部らしい風景に変わっていきます。
ホームから見た駅舎(遠藤イヅル撮影)
前述の通り、この区間は黒部鉄道が敷設したもの。1923(大正12)年に三日市から桃原(現:宇奈月温泉駅)までつながった際に、愛本駅も設置されました。
開業時から使われているという駅舎は、全体が全体的にトタン壁で覆われており、出入り口の引き戸や一部の窓がアルミサッシに換えられているため、パッと見では大正期の建築には見えません。
そして地鉄レトロ駅の例にもれず、内部は木と白い壁のレトロな空間。古い木造駅舎であることを高らかに証明しています。また、昭和時代そのままで掲出された看板も味わいを深めています。
※ ※ ※
このほか地鉄のレトロ駅には、昭和中期築の地方鉄道のターミナルらしさがにじみ出る上市駅、とやま近代歴史遺産100選にも選ばれている電鉄石田駅、駅舎正面に三角の大きなファサードを備える電鉄黒部駅、シブい駅舎を持つ稲荷町駅・越中三郷駅・経田駅(きょうでん)・荻生駅(おぎゅう)駅・浦山駅・内山駅、プレハブ駅舎の西滑川駅、古い待合室をホームに構える西加積駅・若栗駅・栃屋駅・下立駅など、雰囲気や佇まいが良い駅が目白押しです。
このように富山地鉄には、数十年の風雪を耐え立ち続けた駅舎や待合室に佇み、やがて来る電車を待つだけでとても懐かしい気持ちになれる、そんな魅力的なレトロ駅がたくさん残っています。鉄道に詳しくない人でも、そのノスタルジーに感銘を受けることは間違いないでしょう。

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