「強いキューバ兵」のイメージに傷

 2026年1月2日の深夜から3日の未明(アメリカ東部標準時)、アメリカはベネズエラの首都カラカスに対して大規模な武力行使を行い、ニコラス・マデュロ大統領夫妻を逮捕拘束し、アメリカへ連行しました。

【ヤバ…】これがベネズエラで破壊された「ロシア製防空システム」です(写真)

 アメリカのベネズエラに対する武力行使については賛否両論あるものと思いますが、ここでの戦いでは当事国のベネズエラ以外にも、有形無形の大きな損害を被ってしまった国があると、筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思います。

 その一つがキューバです。工業化に成功しているとは言い難く、経済難から高性能兵器を保有していない同国は、ベネズエラに兵器の輸出や供与をしていません。しかし、マドゥロ大統領とその前任の故ウゴ・チャベス大統領が推し進めてきた社会主義政策を信奉する中南米国家のリーダーを自認するキューバは、マデュロ大統領の警護隊やベネズエラ警察などに、少なからぬ人員を軍事顧問団として派遣する形でベネズエラを支援してきました。

 キューバは1970年代から80年代前半にかけて社会主義化した中米のグレナダにも、軍事顧問団と、建設労働者の名目で予備役軍人を派遣していました。

 アメリカは1983年にグレナダのビショップ政権を打倒するために軍事力を行使していますが、キューバから派遣された軍人は、この戦いでアメリカ兵19名の戦死、116名の負傷という少なからぬ損害を与え、キューバ兵の戦闘力の高さを実証しました。

 しかし今回のベネズエラへの武力行使では、アメリカの損害が兵士2名の負傷と軽微なものであったのに対し、大統領警護隊に派遣されていたキューバ兵は30~40名程度が死亡したと報じられています。

 この結果でキューバが経済的ダメージを受けるとは思えませんが、キューバ兵は強いというイメージと、中南米の社会主義国のリーダーというイメージについた傷は、小さなものではないと筆者は思います。

鳴り物入り中国製レーダーは沈黙

 社会主義を信奉するチャベス政権の誕生後、同じ社会主義国家である中国はベネズエラとの関係を強化しており、近年では「JY27」移動式レーダーの輸出も行っていました。
JY27はF-35戦闘機のような、レーダーに対して高いステルス性能を持つ目標を、40km以上の距離から探知できると喧伝されていました。

 アメリカ軍はベネズエラ攻撃にF-35やF-22戦闘機、RQ-170偵察用無人機などの高い対レーダーステルス性能を備えた航空機を投入しました。JY27が額面通りに機能すれば、F-35などの活動を妨害できたはずですが、JY27はまったくと言ってよいほど機能せず、ベネズエラ軍はF-35などに無人の野を行くが如き活動を許してしまいました。

 JY27が額面通りに機能しなかった原因については諸説あり、アメリカ軍が事前にJY27Aに電力を供給する送電システムを破壊していたためであるとか、ベネズエラ軍内部の反マデュロ派から、アメリカが事前に精密な情報を入手していたためであるなど、様々な報道がなされており、現時点ではその原因は明確ではありません。

 しかしいずれにせよ、JY27が機能しなかったことだけは確かで、それによって損なわれたJY27、さらに言えば中国のステルス性能の高い目標を探知できる各種センサー技術に対する評価を回復するのは、容易なことでは無いと筆者は思います。

SNSで拡散されるロシア製兵器の残骸

 筆者の知る限り、破壊されたJY27の画像はSNSなどに出回っていないようですが、ロシアが輸出した中・低高度防空ミサイルシステム9K37「ブーク」に至っては、ロシアの防衛産業の営業妨害と思えるくらいに、破壊された画像がSNSなどで拡散されています。

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イオージマでの着艦のイメージ(画像:アメリカ海軍)

 ベネズエラに輸出されたロシア製防空システムが機能しなかった理由も明確ではありませんが、ロシアのウクライナ侵攻に伴い防空システムの予備部品の国外供給が滞り、故障した状態のまま、アメリカの攻撃を受けてしまったのではないかとの報道もあります。

 元々ロシア製兵器のアフターサービスに関する評判は芳しいものではありませんでした。ウクライナ侵攻でさらに悪化しているのであれば、ロシア製兵器の市場での評価は、さらに悪化する可能性があると筆者は思います。

唯一の「勝ち組」は?

 アメリカのドナルド・トランプ大統領は、アメリカ主導でのベネズエラ産原油の増産に意欲を見せており、実現すれば原油価格が大きく下落する可能性があります。ロシアにとって兵器と石油を含めた天然資源は貴重な外貨獲得源なので、その二つを一度に損ねてしまったという意味では、ロシアが最大の「負け組」なのかもしれません。

 とはいえアメリカもベネズエラへの武力行使が国際法違反なのではないかという批判を受けていますし、日本を含めた自由主義陣営諸国も、アメリカを全面的には支持すれば、中国やロシアが行っている「大国の力による現状の変更」を容認してしまう可能性があることから、あまり歯切れはよくありません。

 1月15日付の「ニューズウィーク」は、ベネズエラの大統領代行となったデルシー・ロドリゲス副大統領が、表向きはマドゥロ政権の継承を標榜しているものの、水面下では「マドゥロ以後」についてアメリカと協議を行っていると報じています。

 仮にこの報道の内容が事実だとすれば、この戦いで唯一の「勝ち組」となったのは、ロドリゲス大統領代行と、その周辺なのかもしれません。

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