日本のどこにでもある風景。郵便配達員が坂道を駆け上がり、そば屋の店主がおかもちを揺らさず路地を抜ける。
【復刻すれば売れるかも?】これが元祖「スーパーカブ」です(写真で見る)
スーパーカブの誕生は1958(昭和33)年です。戦後の復興期、創業者の本田宗一郎は「人々の生活に役立つ、手軽な移動手段を提供したい」と考えていました。欧州視察を経て、日本の道や生活に合った全く新しい乗り物を作る必要性を確信しました。
開発チームに示されたのは「そば屋の出前持ちが片手で運転できるバイク」という、具体的で大胆なコンセプトでした。
この思想は、スーパーカブのDNAを決定づけた「4つの条件」とも言うべき開発要件に結実します。
すなわち、
1、高出力で静粛性と燃費に優れた4ストロークエンジン
2、女性も乗り降りしやすい車体のサイズと形
3、ギア操作でクラッチレバーを必要としないシステム
4、先進的で親しみやすく飽きがこないデザイン
これらが元になっています。
上記の4要件を満たすため、スカートを履いていても乗り降りしやすい「低床バックボーンフレーム」や、左手のクラッチ操作を不要にした「自動遠心クラッチ」、足元を守る「レッグシールド」といった数々の革新的な技術が生み出されました。
こうした技術が、スーパーカブを万人の乗り物へと「民主化」したのです。
「壊れない」伝説と世界への飛躍スーパーカブが世界で1億1000万台以上も生産され、愛される大きな理由。それはやはり「壊れない」という圧倒的な信頼性です。
新基準原付、“新型”スーパーカブ110プロ Lite(画像:ホンダ)
海外のテレビ番組で、エンジンオイルを天ぷら油で代用しても走ったり、ビルから落としてもエンジンがかかったりと、そのタフさを証明する逸話には事欠きません。
初代スーパーカブは、当時主流の2ストロークではなく、あえて高コストな「空冷4ストロークエンジン」を採用。これは、オイル混合の手間や焼き付きリスク、騒音や白煙といった「使う人の負担」を排除するためでした。
その「耐久性への執念」は現代のモデルにも受け継がれています。
例えば、現行エンジンに採用された「スパイニースリーブ」技術は、シリンダー外壁に突起を設け放熱性と真円度を高めるもので、“見えない部分へのこだわり”の象徴です。
そしてスーパーカブ最大の“発明”が「自動遠心クラッチ」。左手でのクラッチ操作を完全に不要にしました。まさに「そば屋の兄ちゃん」の現実に応えた技術です。
この「徹底した実用本位」は国境を越えました。1963年のアメリカでは「You meet the nicest people on a Honda」キャンペーンを展開。バイクのアウトローなイメージを覆し、カブを一般市民の乗り物として定着させ、大ヒットしました。
一方ベトナムでは、スーパーカブ・シリーズが人々の生活に欠かせない乗りものとなり、やがてベトナムの人々はメーカーを問わず、すべての二輪車を「ホンダ」と呼ぶようにまでなっています。
アメリカでは「レジャー」の、ベトナムでは「生活」の象徴となったと言えるでしょう。
スーパーカブは、もはや単なる工業製品ではありません。2014(平成26)年には、その形状自体が乗り物として日本で初めて「立体商標」に登録されました。形そのものがブランドであり、文化となったのです。
ホンダが掲げる「人間尊重」「三つの喜び(買う・売ること・創造の喜び)」から成る基本理念にも通じるのが、使う人の立場に立った実用本位のものづくりです。スーパーカブは、その考え方を長年にわたって形にしてきた存在といえます。

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