1970年代後半~1980年代序盤のミニバイク市場では、原付スクーターのヤマハ「パッソル」登場を機に、ホンダが開拓した「レジャーバイク」の人気が下火に。実用車種以外ではさまざまなモデルが模索されましたが、そんななかホンダが1980年2月に発売したのが「ラクーン」という極めて斬新な原付です。
【いいなあ、コレ!】これがラクーンに対抗した「男のソフトバイク」です(写真で見る)
当時、ホンダとヤマハは「HY戦争」と呼ばれた熾烈なシェア争いを繰り広げており、スクーターやファミリーバイクのほか、アメリカンなどの多種多様なモデルが次々とデビュー。ほか各社もこれに追随していきました。
そんな状況下でホンダが開発したラクーンは、それまで前例のない不思議なスタイリングとコンセプトを持ったモデルでした。ガソリンタンクとサイドカバーは、遠目で見ると一体型になったようなデザインであり、ヘッドライトとウインカーには、先進的な印象を受ける角型タイプが装着されていました。
また、フロントフォークはアメリカンのように長く、ハンドルもアップハンドルながら内側にやや捻られていて、まるで暴走族がカスタムしたバイクのよう。さらには大型のタックロールシートは700mmという低いシート高を持ち、リアフェンダー上部には地味にキャリアも備えていました。
どの既存ジャンルにも当てはめ難い、今見ると「なんじゃこりゃ」なモデルでもあるラクーン。実は、ホンダの狙いは“オシャレなバイク”であり、当時のプレスリリースには「若々しいファッショナブルなスタイル」と自信満々な説明が記されていました。広告では「原宿バイク」「ファッション・タウンでキラリ輝く。」「走りはのびのび!クロスオーバー。」といったキャッチフレーズが使用されています。
ちなみに「ラクーン」とはアライグマを意味する単語。「若者にファッション感覚で気軽に乗ってもらおう」という意図はよく伝わってくるのですが、一方、エンジンは縦型2ストローク、最高出力6馬力のユニットを搭載。最高速度は80km/hを超えることもあったようです。
軟派に見えて走りも意外と侮れないラクーンでしたが、いったい何用のバイクなのか、イマイチ理解されなかった感は否めません。また、ターゲット層だった当時の原宿界隈の若者のなかに、原付で徘徊する人間はそう多くなかったようで、わずか2年で生産終了。遊び心は詰まっていたものの、短命に終わりました。
ラクーンはブルーとレッドの2色をラインナップ(画像:ホンダ)
その一方、ホンダとしのぎを削っていたヤマハは、ラクーンに対抗するかのように翌月の1980年3月、「タウニィ」というこれまた前例のないミニバイクを発売します。
ラクーンは「原宿バイク」という触れ込みでしたが、タウニィは「男のソフトバイク」がコンセプトのモデル。「街は小さなク・ル・マがいい」と、ラクーンと同様のタウン向けモデルとしてアピールしました。タウニィはどことなくラクーンに通ずるユニークさのある外観だった一方、コンセプトはタウニィのほうが洗練されていた印象があり、ターゲットユーザーも比較的明快でした。
ラクーンは電動アシスト自転車に。タウニィは…?とはいえ、タウニィもラクーンと同様、「原付バイクとしては」1代限りのモデルに終わります。時代の過渡期に生まれた2車でしたが、興味深いことに、どちらも後年まったく違う製品として“転生”を果たしています。
ホンダが「ラクーン」というネーミングを再び使用したのは1994年。今度はオートバイではなく、電動アシスト自転車のモデル名として使用されました。
また、ヤマハ「タウニィ」の名前は、なんと電動車椅子のシリーズ名「タウニィジョイ」として復活しています。同シリーズは2025年4月に生産を終了しましたが、元祖「タウニィ」の登場から約45年ものあいだ使われた、息の長いブランド名となりました。
いずれにしても、1970年代後半から1980年代前半にかけての「HY戦争」期は、ラクーンやタウニィのような珍車的存在感を持ちながらも、実に興味深く愛らしいモデルが多数登場しました。当時のミニバイクのラインナップを見ると、今でもワクワクしたりクスッと笑えたり、楽しい気持ちになる人が多いのではないでしょうか。

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