2017年1月、東海道新幹線では大雪による遅延が発生しましたが、そのときN700A電車が「本領」を発揮。通常時とグラフで比較すると一目瞭然の走りで、遅れを取り戻しました。

最高速度285km/hが120km/hに

 2017年1月16日(月)、東海道新幹線は雪の影響で、米原地区において速度を落として運転。そのため、上下線の列車に遅れが発生しました。

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雪対策で設置されているスプリンクラーの散水を浴びながら疾走する、東海道新幹線のN700A(2015年12月、恵 知仁撮影)。

 この日、記者(恵 知仁:鉄道ライター)が新大阪駅から乗車した博多発東京行き「のぞみ32号」(N700A電車)も、好天の京都駅を定時の15時53分に発車したのち、雪が降りしきる滋賀・岐阜県内で速度を120km/h程度まで落として走行。次の停車駅である名古屋に到着したのは16時49分ごろと、約19分の遅れになっていました。東海道新幹線の最高速度は285km/hです。

 しかしこののち、東海道新幹線N700Aの「本領発揮」ともいえる走行が始まりました。その様子を「グラフ」でリポートします。なお、この記事における「N700A」には、改良でN700A(2013年デビュー)相当になったN700系(2007年デビュー)を含みます。

 記者が乗車した「のぞみ32号」は、定時ならば名古屋駅を16時32分に発車。次の停車駅である新横浜へ17時55分に到着します。所要時間は83分です。

 しかし2017年1月16日(月)の「のぞみ32号」は、名古屋駅を16時51分ごろに発車したのち、新横浜駅へ18時04分ごろに到着。所要時間は通常より約10分も短いおよそ73分でした。もちろん、決められている最高速度「285km/h」は守っています。

一目瞭然 大雪遅延の東海道新幹線、N700Aが「本領発揮」の疾走 ある装置が貢献か

定時で走る2016年12月13日「のぞみ26号」の走行状況をグラフにしたもの。縦軸が速度、横軸が距離(「カシミール3D」で作成)。

 東海道新幹線は、常に全力疾走しているわけではありません。2016年12月13日(火)、名古屋駅から品川駅まで定時運行中の「のぞみ26号」(N700A)に乗車したところ、ほとんどの区間で280km/hを下回る速度でした。

 しかし2017年1月16日(月)、大雪で遅れながらもそのエリアを抜け、名古屋駅を発車したあとの「のぞみ32号」は、違いました。

 なお本記事における列車の走行速度、発着時刻は、GPS受信機の表示によるものです。実際とほぼ同様と考えられますが、トンネルでは受信できないことなどから、必ずしも同じではないことをご承知ください。

グラフを見れば一目瞭然 所要時間が約10分も短くなったワケ

 2017年1月16日(月)の「のぞみ32号」は名古屋駅を発車したのち、長い区間で285km/hに近い速度をキープ。こうして、通常より約10分も短いおよそ73分で名古屋~新横浜間を駆け抜けたわけです。

名古屋駅発車時に約19分あった遅れは、新横浜駅到着時には約9分にまで縮まっていました。

一目瞭然 大雪遅延の東海道新幹線、N700Aが「本領発揮」の疾走 ある装置が貢献か

大雪で遅延した2017年1月16日「のぞみ32号」の走行状況をグラフにしたもの。縦軸が速度、横軸が距離(「カシミール3D」で作成)。

 他列車の運行状況にもよりますが、「のぞみ32号」がこうして走ることで遅れを回復できたこと、それは逆にいえば、東海道新幹線のダイヤは余裕を持ったものになっている、ということです。何事も、特に「安全」が第一の鉄道にとって、「余裕」が重要なことはいうまでもありません。

 なお、「のぞみ32号」の速度が駅付近で下がっているのは先行列車へ近づいたため、駅を通過したのちに上がっているのは、その駅で先行列車を追い抜いたことなどが考えられます。また熱海駅付近で落ち込んでいるのは、そこに新幹線としては急なカーブがあり、大きな減速が必要だからです。

一目瞭然 大雪遅延の東海道新幹線、N700Aが「本領発揮」の疾走 ある装置が貢献か

青線が定時で走る2016年12月13日「のぞみ26号」、赤線が大雪で遅延した2017年1月16日「のぞみ32号」(「カシミール3D」で作成)。

 ちなみに「のぞみ26号」(グラフ青線)は、名古屋~新横浜間を「のぞみ32号」より3分短い80分で走破するダイヤ。それが大雪で遅延した「のぞみ32号」(グラフ赤線)のように走ると、およそ73分になるわけです。

N700Aからのある装置、遅れ回復に貢献か 年間平均の遅延は0.2分

 2017年1月現在、名古屋~新横浜間を最短時間で駆け抜ける列車は、東京行き最終の「のぞみ64号」。同区間316.5kmを75分、平均速度253.2km/hで駆け抜けますが、雪で遅延した2017年1月16日(月)の「のぞみ32号」はそれより短い約73分、平均速度およそ260.1km/hで走破しています。

 このたび大雪で遅れた「のぞみ32号」が長い区間でスピードを維持し、遅延を約10分回復、通常最速の列車より短い時間で名古屋~新横浜間を駆け抜けたのは、N700Aに搭載されている「定速走行装置」が貢献したと思われます。線路の勾配やトンネルによる影響を予測しながら、列車の運行を自動的に制御するシステムで、クルマの「クルーズコントロール」に近いものといえるでしょう。信号などの状況に従って、安全に、速度を維持しての走行が可能です。

「定速走行装置」はこうした異常時にダイヤが乱れた際、遅れを速やかに回復するため、2013年デビューのN700A電車から搭載されました。その後、既存のN700系電車にも、それがN700A相当へ改良された際に搭載されています。

 東海道新幹線はこのように、しばしば雪や台風の影響で遅延することがありますが、そうした自然災害による遅延を含めて、2015年度の平均遅延時分は1列車あたり0.2分、つまりたった12秒です。言い換えれば普段、東海道新幹線は「定速走行装置」などの活用により、それだけ定時で運行されているということになるでしょう。

【写真】N700Aびしゃびしゃに 「放水ポイント」米原駅

一目瞭然 大雪遅延の東海道新幹線、N700Aが「本領発揮」の疾走 ある装置が貢献か

スプリンクラーの散水で、雪の舞い上がりを抑えている東海道新幹線。写真の米原駅やその周辺の各所に、スプリンクラーが設置されている(2015年12月、恵 知仁撮影)。

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