太平洋戦争序盤、日本は真珠湾攻撃とほぼ同時に、米英蘭が支配する東南アジアへの侵攻作戦を実行しました。この作戦は予想外の成功を収め、開戦からわずか1か月ほどで資源確保を前提とした攻略作戦に一定の目途が立ちます。
【写真】か、傾いていく…、これが、沈んでいく空母「レキシントン」です
その一環として、1942年1月29日付の「大海指第四七号」により、ニューギニア島およびソロモン諸島の攻略が決定されます。この作戦では、ニューギニア島東部のラエ、サラモアを攻略した後、同島南東部のポートモレスビーを陥落させるべく、4月から大規模な侵攻作戦を実施する予定でした。
3月8日、日本軍はラエおよびサラモアの攻略に成功します。しかし3月10日、アメリカ空母部隊による空襲で、作戦中の艦船18隻のうち4隻が沈没、残りの艦船もすべて損害を受けるという大打撃を被りました。このため、ポートモレスビー攻略は5月に延期されます。
この海域に展開していた日本の空母は「祥鳳」1隻のみで、搭載戦闘機は旧式の九六式艦上戦闘機でした。アメリカ空母部隊に対抗することは極めて困難な状況でした。
日本陸軍は、「祥鳳」だけではアメリカ機動部隊への対応は不可能であるとして、海軍に空母の増援を要請します。しかしこの時期、日本海軍はミッドウェー島攻略作戦に主力を向けることを考えており、当初は空母「加賀」1隻のみを増援に充てようとしていました。日本側は、アメリカ空母「レキシントン」をすでに撃沈したと誤認しており、小兵力で十分と判断していたのです。
しかし、第四艦隊から「兵力が少なすぎる」との意見が出され、最終的に空母「翔鶴」「瑞鶴」からなる第五航空戦隊(五航戦)が派遣されることになりました。
同海戦直前、4月18日に行われたアメリカ軍の「ドーリットル日本本土空襲」の追撃に「翔鶴」「瑞鶴」「祥鳳」が参加していたため、十分な訓練や事前の打ち合わせができないまま、本作戦に臨むことになりました。
一方アメリカ側は、暗号解読によって日本軍が珊瑚海方面に艦隊を派遣することを察知し、空母「レキシントン」「ヨークタウン」を迎撃に向かわせます。さらに、ドーリットル空襲に参加した第16任務部隊の空母「ホーネット」「エンタープライズ」も、4月25日に真珠湾で補給を終えた後、珊瑚海へ急行させました。
お互い意思疎通が困難でグダグダに史実では、日本軍の攻略船団を早急に阻止すべきだとの判断から、第16任務部隊の到着を待たずに戦闘が開始されます。しかし、あと2日待っていれば、アメリカ側は大型空母4隻体制となっており、日本側は兵力で圧倒される状況にありました。
殺到した艦載機に攻撃を受ける「祥鳳」(画像:アメリカ海軍)
日本軍は、「翔鶴」「瑞鶴」を主力とする五航戦を攻撃の中核とし、「祥鳳」は輸送船団の護衛に充てました。「祥鳳」は潜水母艦を改装した小型空母であり、当時から「小型空母1隻を船団に付けても意味がない」との意見もありましたが、日本軍は兵力を分散させる判断を下します。
5月5日午前10時、九七式飛行艇がアメリカ艦隊を発見します。日本空母艦隊は攻撃準備を整えて南下しますが、索敵の不備により、アメリカ空母部隊に約70浬(約130km)まで接近しながらも見逃してしまいました。
5月7日、日本軍はラバウルの陸上攻撃機、ツラギの飛行艇、空母艦載機を用いて索敵を行います。航空参謀は西方索敵を主張しましたが、原司令官は南方索敵を指示しました。実際にはアメリカ艦隊は西方におり、南方には補給部隊が存在していました。
しかし「翔鶴」の偵察機が「空母、油槽船、重巡洋艦を発見」と報告したため、日本軍は午前6時15分、78機の攻撃隊を発進させます。7時15分に敵艦隊上空へ到達した攻撃隊は、空母が存在しないことに気付き、周辺の再索敵を行いました。
8時50分、日本軍重巡洋艦の偵察機が西方で「サラトガ型空母」を発見したと報告します。10時35分になって、「翔鶴」の偵察機から「我が触接せるは油槽船の誤り」と訂正報告が入り、五航戦は混乱状態に陥りました。結局、日本軍は油槽船「ネオショー」を大破させ、駆逐艦1隻を撃沈したのみで、空母を取り逃がす結果となります。
アメリカ側では7時35分、「ヨークタウン」の索敵機が「空母2隻発見」と報告し、92機の攻撃隊を発進させました。さらに10時12分、B-17爆撃機が「空母1隻、油槽船10隻」などを発見したと報告します。
この空母1隻が「祥鳳」でした。「祥鳳」はアメリカ空母に対抗できず退避を試みますが、9時17分からの攻撃を受け、撃沈されてしまいます。
敵空母を発見できないまま「祥鳳」を失った日本軍の井上司令官は動揺します。その後、重巡「衣笠」の偵察機が敵艦隊を発見したとして、ラバウルから陸上攻撃機隊が発進しました。この部隊はアメリカ艦隊の戦艦を撃沈したと認識しましたが、実際の戦果はありませんでした。
13時15分に攻撃隊を収容した日本空母艦隊は、敵艦隊までの距離が遠いとして当初は攻撃を躊躇しました。しかし距離が縮まったと判断し、16時15分に攻撃隊を発進させます。この時刻での出撃は帰還が夜間となるため、極めて危険な判断でした。
日本艦隊は護衛戦闘機を付けずに27機の攻撃隊を発進させましたが、アメリカ側はレーダーでこれを捕捉し、戦闘機による待ち伏せを行ったため、攻撃は失敗に終わります。日本軍の艦爆の一部は味方空母と誤認してアメリカ空母に着艦しようとし、ここで初めてアメリカ機動部隊の存在が明確になりました。さらに夜間着艦の失敗も重なり、27機中21機を失う結果となります。
5月8日午前6時22分、日米両軍はほぼ同時に互いの空母を発見します。アメリカ軍は6時45分に73機、日本軍は7時30分に69機の攻撃隊を発進させました。
アメリカ軍攻撃隊は「翔鶴」に爆弾3発を命中させ、中破させます(なお、アメリカ側は撃沈したと誤認していました)。一方、日本軍攻撃隊は「レキシントン」に魚雷2発、爆弾2発を命中させ、この被害によるガソリン引火で大火災が発生し、「レキシントン」は自沈に追い込まれます。「ヨークタウン」も爆弾1発の命中により小破しました。
もし戦いが別の方向に進んでいたら?最終的に、日本側はポートモレスビー攻略を断念し、珊瑚海海戦は終結します。戦果としては大型空母を撃沈したことで日本海軍が大きな成果を挙げたように見えますが、本来の目的は達成できず、軽空母とはいえ「祥鳳」を失い、「翔鶴」も当面の作戦行動が不可能となりました。航空機の損害は97機に達し、アメリカ軍の損害69機を上回っており、戦略的には日本側の敗北と評価できます。
直撃を受ける「レキシントン」(画像:アメリカ海軍)
なお、日米双方ともに多くのミスを犯していますが、それでも日本海軍は幸運であったと言えます。空母戦力の分散や度重なる索敵失敗にもかかわらず、アメリカ側の失策に助けられ、先制攻撃を受けなかったからです。また、無理な夜間攻撃で21機を失いながらも、パイロットの奮戦によって「レキシントン」を沈めています。これは、海戦以前から高い練度を誇っていた搭乗員たちの功績とも言えます。
また、日本側が優勢で終わる「もしも」があるとすれば、「祥鳳」を分離せず、索敵機数を増やしていたケースが考えられます。5月7日の段階で日本軍がアメリカ空母を発見していれば、アメリカ側の索敵は失敗しており、一方的な勝利を収めていた可能性もあります。
さらに大きな「もしも」として、「米豪分断」と「ミッドウェー攻略」の戦略選択が挙げられます。史実では「ミッドウェー攻略」が優先されましたが、仮に「米豪分断」が優先されていれば、空母を温存する必要がなく、ポートモレスビー攻略に日本空母主力が投入された可能性が高いです。前述の通り、アメリカ軍は2日待てば空母2隻が増勢する状況であったため、日本側の空母数が多いと判断すれば、4隻が合流するまで待ったと考えられます。
この場合、日本軍空母6隻に「祥鳳」を加えた戦力と、アメリカ軍空母4隻が、基地航空隊の介入なしに交戦することとなり、日本側がかなり有利に戦闘を進められた可能性があります。仮にここで日本軍が大勝し、多くのアメリカ空母を撃沈していれば、ミッドウェー攻略で「敵空母の誘引撃沈」を狙う必要もなくなっていたでしょう。
もっとも、仮に大きな戦果を挙げたとしても、アメリカの工業力を考えれば、短期間で戦力が回復する可能性は高いです。太平洋戦争の局面を根本的に変えるには、ポートモレスビー攻略後、場合によってはハワイを制圧し、真珠湾の軍港機能を喪失させる必要があったと考えられます。しかし、この上陸作戦は極めて困難でした。
そもそもポートモレスビーは補給が困難な地形であり、攻略作戦そのものが大きな負担となっていた可能性も高いです。

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