新型軍艦はその国の海軍の方向性を示す大がかりなプロジェクトです。アメリカのトランプ大統領は派手好きなため、そういったことを鑑みると、宮殿のようなフロリダの私邸「マー・ア・ラゴ」で公表することは、それほど不思議ではないでしょう。
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しかし彼の口から「新しい戦艦を造る。名前はトランプ級(Trump-class battleship)だ」と出てくると、さすがにその信ぴょう性を巡って様々な憶測が飛び交うのは、しょうがないのかもしれません。まさか、自身の名を冠した軍艦を自ら発表するとは誰も予想していなかったからです。
一方で世界中の注目を集めたのが、「軍艦(Warship)ではなく戦艦(Battleship)と本当に言ったのか」という点です。その後、トランプ大統領が確信をもって「戦艦」と呼んだことがわかると、今度は「本当に戦艦を造るのか?」「トランプ級は戦艦と呼ぶべきなのか?」という、他の軍艦では出てこない“不思議な”議論がSNS含めて行われるようになりました。
なぜ、こうも「戦艦」というワードに敏感な反応をする専門家が多いのでしょうか。実は戦艦という種別には、軍事的にはかなり特殊で明確な定義があり、その定義自体に大きな国家的威信も関わってくるからです。
歴史的に見た場合、戦艦とは、艦隊の主力として敵主力艦と交戦し、勝利するために建造された軍艦を意味します。この場合の戦艦を、もう少し「兵器」として具体的に記すと、あらゆる敵戦艦の装甲を貫く主砲を搭載し、自らの主砲では破壊されない装甲防御力を有する戦艦が、最強の戦艦ということになります。
結果、戦艦は口径の大きな巨砲を積み、分厚い装甲をまとうために飛びぬけて大型化しました。これが「大艦巨砲主義」という軍事思想を導いただけでなく、強力な戦艦を数多く保有することが、国力と国際的地位の裏付けとなり、19世紀末から20世紀前半にかけて各国は覇を競ったのです。
「オワコン」になった戦艦そんな戦艦の地位は、第一次世界大戦で軍用機が実用化されると揺らぎ始めます。
主砲を斉射するアイオワ級戦艦4番艦「ウィスコンシン」(画像:アメリカ海軍)
もっとも、航空機も万能ではありません。航空爆弾や魚雷を使っているうちは、戦艦の強烈な対空砲火に突っ込まねばならず、ある程度の犠牲を覚悟する必要がありました。また当時の軍用機は天候に左右されやすかった一方、戦艦の主砲には関係ないというアドバンテージもありました。
実際、1950年の朝鮮戦争では、アメリカ海軍のアイオワ級戦艦が、強力な艦砲射撃で沿岸部一帯での陸軍の作戦を支援しています。イギリスやフランスも、最新鋭の戦艦のみ1950年代まで保有し続けていましたし、ソ連(現ロシア)海軍では第一次世界大戦時に就役したガングート級戦艦をバルト海と黒海で1950年代後半まで使用していました。このように欧米各国が戦艦を長らく使い続けていたのは、戦艦には大国の海軍のみ保有を許されている軍艦という、象徴的な価値があったからです。
しかし、軍用機のジェット化が本格化し、ミサイルが主要兵器になると、戦艦の価値は完全に失われます。戦艦の対空兵装は、ジェット機の速度には対応できません。加えて戦艦の主砲も、ミサイルの命中力と射程には及びません。そして自慢の重装甲も、ミサイルの威力の前には無力です。
こうして戦艦の長所がすべて否定され、戦艦はオワコンになりました。
トランプ級戦艦が「本当に戦艦なのか?」という問いには、一度オワコン化した過去の戦艦との比較が付いてまわります。ゆえに、世界中で冒頭に記したような「トランプ級は本当に戦艦なのか?」「戦艦と呼ぶべきなのか?」という論議が巻き起こったといえるでしょう。
すなわち、専門家などからすると「トランプ級は我々が知っている戦艦ではない」というわけです。
しかし「艦隊決戦の主力」であり、かつ「最強の攻撃力と防御力」を備えた存在という、戦艦の定義の根本に立ち返ると、見方が変わってきます。
21世紀の戦艦の条件まず、トランプ級が既存のミサイル駆逐艦ならびに巡洋艦が備えている水上艦としての戦闘能力を最高レベルで保有するのは、確実です。
湾岸戦争でトマホークを発射する「ウィスコンシン」(画像:アメリカ海軍)。
現在の艦隊決戦では、ミサイルの搭載数がものを言いますが、トランプ級のVLS(垂直ミサイル発射装置)は、128セルと最大規模です。さらに軍艦としては初めて、極超音速ミサイル対処専用の発射機を12セル備えています。これはアメリカ海軍のズムウォルト級駆逐艦だけが実現している兵装です。さらに核運用巡航ミサイル(SLCM-N)の搭載も想定されています。これらを鑑みると、攻撃力ではまさに最強のプラットフォームなのは間違いありません。
では、防御面ではどうでしょうか。
近未来の海戦において最大の不確定要素がドローン兵器の介入です。トランプ級はこれに対して、1000kW級レーザーを目標とする高出力レーザーを軸とした防御システムのほか、32メガジュール級のレールガンの搭載も目指しています。どちらもまだ検証段階ですが、これらの防御兵器を運用し、かつ自身も大量のドローンを展開するにはスペースと莫大な電力が必要となります。
冷戦期、大半の戦艦が急速に姿を消す中で、アメリカのアイオワ級戦艦だけが1990年代まで保持されたのは、その巨大な船体がミサイル搭載用プラットフォームとなり、巨大な電力を生み出せたことで、電子戦装備の更新が可能であったからでした。
トランプ級が実現した場合、現行の戦闘艦艇より、スペースと電力の余力がかなり大きな軍艦となります。この「余力」こそが「艦隊決戦の主力」と「最強の攻撃力と防御力」の裏付けとなるのです。
そう考えると、トランプ級は21世紀の国際関係と海洋戦略に合致する「戦艦」の姿を見据えている軍艦であると言えるのかもしれません。
とはいえ、最近のアメリカ海軍の新型艦プロジェクトは、中止もしくは遅延ばかりです。政権が交代すると調達が見直されるなんてことも海軍に限らず、陸軍や空軍の兵器調達でもザラです。
一方、トランプ大統領の任期は2029年で終了する予定です。トランプ級戦艦1番艦の就役はその後になると想定されるため、果たして彼の思惑どおりにプロジェクトが進捗し、就役までこぎつけるのか、注視する必要があるでしょう。

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