幻に終わった「貨物」と「夜行」

 2026年3月のダイヤ改正で、東海道新幹線に京都6時3分発・東京8時12分着の臨時「のぞみ548号」、博多19時18分発・品川23時59分着の臨時「のぞみ206号」が登場します。

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 これまで新大阪発の上り一番列車は6時発「のぞみ230号」、東京行き最終列車は23時45分着「のぞみ64号」でしたが、京都発、品川着を新設することで運転時刻の拡大に成功しました。

山陽新幹線の広島でも従来、23時54分着の「のぞみ89号」が最終でしたが、改正で23時59分着の臨時「のぞみ215号」が登場します。

 どの列車も「6時」「24時」のギリギリを攻めている形ですが、なぜ新幹線は6~24時の運行なのでしょうか。JR東海に聞くと「沿線環境への配慮」から「原則として6時から24時までの間に営業列車を運行」していると説明しますが、なぜ「門限」ができたかの答えとしては不十分です。

 新幹線は1964(昭和39)年の開業から一貫して6~24時の範囲で運行しています。これは東海道新幹線に貨物新幹線の運行計画があったため、旅客は早朝から深夜まで、貨物は深夜から早朝までと運転時間帯をはっきり分けたからです。

 貨物列車は東京~大阪間を約5.5時間で走破する計画だったので、旅客の運転終了後にちょうど走り切れる計算でした。夜間に大規模な線路保守を行う場合は貨物列車を運休して対応する計画だったようです。

 しかし実際に運行を開始すると、貨物輸送どころではないことが分かります。開業時、1時間当たり2本だったダイヤは、3年後の1967(昭和42)年に6本化。高速運転による設備の消耗は想定以上で、故障も頻発したため、夜間はメンテナンスを優先しなければなりませんでした。

 1972(昭和47)年に開業した山陽新幹線でも東京~博多間を10~11時間で運行する「夜行新幹線」の運行が計画されます。複線の一方を夜間保守作業、一方を単線で夜行運転する前提で設備は設計されましたが、こちらも構想止まりでした。

「門限」を決定付けた社会問題

 その要因の一つが騒音・振動問題です。建設時から不安の声はありましたが、列車本数が増えると都市部では日常生活もままならないほどの「騒音・振動公害」が発生し、新幹線の運行差し止めを求める訴訟が起こされるほどの社会問題となりました。

 公害・環境問題への関心の高まりを受けて1971(昭和46)年に環境庁が発足すると、1975(昭和50)年7月に公害対策基本法の騒音規制のうち新幹線鉄道騒音に係る基準を定めた「環境庁告示第46号」を告示。これは1993(平成5)年、2000(平成12)年の改正を経て、現在も適用されています。

 告示第46号の環境基準は、「I 主として住居の用に供される地域」が70デシベル以下、「II 商工業の用に供される地域等、I以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域」が75デシベル以下を基準値としています。

 測定は「新幹線鉄道の上り及び下りの列車を合わせて、原則として連続して通過する20本の列車について、当該通過列車ごとの騒音のピークレベルを読み取って行う」「当該地域の新幹線鉄道騒音を代表すると認められる地点のほか新幹線鉄道騒音が問題となる地点を選定する」「測定時期は、特殊な気象条件にある時期及び列車速度が通常時より低いと認められる時期を避けて選定する」など厳格な条件が付されています。

 新幹線はこの環境基準を満たさなければ走行が認められません。鉄道は運転速度が上がるほど騒音は大きくなりますが、基準値は1975年の制定から変化していないので、線路・車両の防音対策を施すことで対応しています。

 そして重要なのは、この基準は「午前6時から午後12時までの間の新幹線鉄道騒音に適用するものとする」と定められていることです。言うまでもありませんが、夜中の24~6時は無規制なのでどんな音も出し放題、という意味ではありません。24時以降は運転を前提とした基準が存在しないのです。

 6~24時としたのは、新幹線がすでにその範囲内で運行していたからです。

もし貨物新幹線や夜行新幹線が実現していたら、24~6時の基準も制定されたかもしれませんが、国鉄、JRともその必要がなかったので運転時間の拡大を目指さなかったのです。

 ちなみに「新幹線」を名乗りながら唯一、6時前に出発する列車が、山形新幹線の新庄駅5時40分発「つばさ122号」です。山形新幹線は法令上、東北新幹線東京~福島間と奥羽本線(在来線)福島~新庄間の直通運転なので、奥羽本線内は新幹線の騒音基準が適用されないのです。

 ただし新幹線も24時以降の運転が全く認められないわけではありません。事故や災害による輸送障害や深夜の試運転、また2002(平成14)年の日韓ワールドカップでは東海道新幹線、上越新幹線で深夜運転を実施した事例があります。これらはやむを得ない事情または事前に周知・承諾を得た上で行われるもので、上記基準の範囲外となります。

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