路線バスに乗る際、前方ドアから入ってすぐにある左側の最前列座席に座ろうとする人、案外多いのではないでしょうか。前方の景色がよく見えるため、一部のファンのあいだでは「ヲタ席」や「展望席」と呼ばれて親しまれてきた場所です。
しかし近年、この位置に座席を設けない仕様の車体が増えており、結果として「座席としては使わないスペース」になっている例も見られます。
いすゞによると、この座席をなくしたのは2015年の大型路線バスのフルモデルチェンジ時で、同社と同じくジェイ・バスから供給を受ける日野の車両でも同様の仕様が採られています。
よって、いすゞ並びに日野の一般的な大型路線バスでは、この左前方タイヤハウス上の座席がない仕様が標準になっています。
いすゞの説明では、大きな要因は燃料タンクを左前方タイヤハウス上へ移設したことにあり、結果として、車内スペースの使い方を見直す流れともつながっています。
また、バリアフリー対応の観点から、車いすやベビーカーなどに対応するフリースペース確保が重視されてきたことも、座席配置の考え方に影響しているとみられます。
そのなかで、一番前の位置に座席を設けず、事業者の運用として荷物置きスペースなどに活用される例もあります。
視界確保は「安全」への配慮。死角を減らすための新設計なぜ、乗客にとってなじみのある場所から座席が消えているのでしょうか。その理由のひとつとされているのが、運転士の視界、とりわけ左側を確保し、死角を減らす狙いです。
座席確保より視界確保(画像:写真AC)
実際に、座席をなくしたことで運転席から左側の視界が開け、巻き込み確認がしやすくなりました。運転士が目視で周囲を確認する際、遮るものが少ない構造は、事故を未然に防ぐための重要な要素となります。
一方、安全性については、座席の向きもこれに関係して改められています。
こうした車内全体の安全設計の見直しが、結果として最前列付近のレイアウト変更にも波及しているといえるでしょう。
さらに、2020年以降の新型コロナ禍では、運転士と乗客との距離を確保するために、最前列座席を一時的に使用不可としたバス事業者もありました。
こうした感染症対策としての措置も、最前列のあり方を見直すきっかけのひとつとなりました。
かつての特等席が姿を変えているのは、限られた空間で「安全」と「利便性」を両立させようとした、メーカーや事業者の工夫の結果です。
左側の最前列座席がなくなるのは、ファンやマニアにとっては寂しいかもしれませんが、「スムーズな運行と安全を守るための空間」が設けられるようになったと考えれば、前向きに捉えられるのではないでしょうか。

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