バスに「自家用」その意味とは?

※本記事は『トコトンやさしいバスの本』(成定竜一編著、井原雄人著/日刊工業新聞社)の一部を再編集したものです。

【え、これも!?】多彩すぎる「自家用」バスと「事業用」バス 見分けつかん…(写真)

 バスの中には、路線バスや貸切バスなど事業用のバスに加え、車体に「自家用」と書かれたバスもあります。

自家用と聞くと、バス愛好家など個人が保有するバスをイメージするかもしれません。しかし実際には、自家用バスは多くの人の身近にあり、社会で活躍しています。

 自家用バスの「自家用」とは、「事業用ではない」ことを指します。では事業用のバスとは何でしょうか。

 路線バス、高速バスなどの「乗合バス」や、修学旅行や旅行会社のツアーでチャーターされる「貸切バス」は、バス事業者が運行しています。バス事業者とは、民間のバス会社や、東京都交通局をはじめとする公営企業などのことです。

 この場合、バス事業者は乗合バスであれば乗客から、貸切バスはチャーター主から、運賃を受け取ります。バス事業者が提供する役務に対し対価が発生するので「事業」だといえます。

 それに対し、幼稚園が自ら保有するバスを、自らの職員が運転して園児を送り迎えするなら、それはバス事業でしょうか。

 例えば、町の八百屋さんが自分の軽トラックで野菜を仕入れに行くのは、もっぱら自分のお店の商品を運んでいるのであり、他人の荷物を運んでお金をもらっているわけではありません。

 宅配便の会社は顧客のモノを配送料を受け取って、つまり事業としてトラックを運行していますが、八百屋さんのトラックは自らのために運行するトラックです。しいていえば「業務用」ではありますが、トラックでモノを運ぶことそれ自体を「事業」としているわけではありません。

 それと同様に、幼稚園が、幼稚園のバスを、もっぱら幼稚園児だけを乗せて、幼稚園の従業員による運転で運行するなら「バス事業」とはみなされず、自家用のバスということになります。

だから「フツーのバス」と見分けがつかない「自家用」

 商業施設やホテルの無料送迎バス、工業団地や臨海部にある工場、物流センターなど企業の従業員送迎バスも、自らが保有するバスを自らの従業員が運転するなら、自家用バスです。ただし、運転業務については、運行管理請負業者が代わりに引き受けることもあります。

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養護施設の送迎バス。自家用と書いてある(乗りものニュース編集部撮影)

 少年野球チームから学校の部活動、さらにプロ野球やJリーグまで、選手の遠征のため自家用バスを保有する例も多くあります。警察や自衛隊の人員輸送車も自家用バスといえます。

 さらに、公共交通が不足している地域で、自治体やNPO法人が、自ら保有するバスを用い有償で乗客を輸送することも特例的に認められています。「村営バス」などと呼ばれ、このケースでは一見すると路線バスと区別がつきません。

 もちろん、数は少ないですが、バス愛好家が趣味で保有するバスもあります。

 これら自家用バスのナンバープレートは、一般の人の自家用車と同じ白色で、事業用バスの緑色とは区分されています(図柄入りナンバーなど例外はあります)。

 ちなみに「白バス行為」とは、バスの事業許可を取得していないレンタカー業者などが有償でバス輸送を引き受けることで、ナンバーの色から名づけられた違法行為です。しかし、ここまで挙げたような使い方であれば犯罪でもなんでもなく、ただ「ナンバーの色が白いバス」に過ぎません。

 なお、学校や企業からみると、児童生徒や従業員、来店客らの送迎業務を、プロのバス事業者に発注することもできます。送迎業務のアウトソース(外注化)です。主に貸切バスを通年で発注(1年分まとめてチャーター)するものですが、一部には「特定輸送」という契約形態もあります。

 いずれにせよ通年契約のケースが多いので、車両に、発注者(学校や企業)独自のカラーリングが施されることもあります。そのため、一見すると自家用バスなのか事業用バスを利用しているのか、ナンバーの色や車体表記くらいしか見分けようがないケースも生まれます。

「自家用」やめて温泉旅館が「バス事業者」になる例も!?

 事業者の視点でみると、事業用バスは運行管理体制などの規制が厳しいため、自家用の方が運行コストを抑えられます。運転手も、自家用なら「大型一種」免許で運転できますが、事業用だと「大型二種」が必要でハードルが上がります。

 そのため、マイクロバスを用い近場しか走らない場合、自家用バスが選ばれる傾向があります。ただ、運転手の採用、育成コストなどを考慮すると、台数が多く走行距離が長い場合などは、バス事業者に発注した方が結果として安上がりだともいえます。

 貸切バス分野は2000年に規制緩和があり、後発参入が認められました。それにより運賃(チャーター代)が下落し、自家用バスを使用していた学校や企業が、送迎バス業務を貸切バス事業者にアウトソースする事例が増えました。

 余談ですが、この規制緩和の際、それまで自家用バスで宿泊客を送迎していた温泉旅館などが、安全面のハードルをクリアして貸切バスの事業許可を得て緑ナンバーに切り替える例も相次ぎました。

宿泊客からバス運賃をもらわない無料送迎の場合、駅や空港から宿までの単純な送迎に限定されますが、宿泊客(主に社員旅行などの団体)から貸切バスの発注を受ける形だと、観光地に立ち寄ることも認められるからです。

「やっぱ自家用」再び増加 それでもいいの?

 さて、貸切バス業界で重要な市場に成長した送迎バス業務ですが、変化の可能性もあります。いったん下落した貸切バス運賃は、相次いだ重大事故などを受け新制度が導入され反転し、2025年にはさらに値上げされました。

えっ「自家用」バスなんですか? どう見てもフツーのバスだが… 意外と身近なバスジャンル 最近は「自家用へ逆戻り」現象も!?
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バス事業者が保有する車両でも、乗務員訓練用のバスは自家用登録(成定竜一撮影)

 送迎バス業務をアウトソースした企業や学校の中には、この値上がりを受けて再び内製化、つまり自家用バスに戻すことを検討し始める例も出てきました。

 コスト抑制が目的ですが、課題もあります。一つには、もちろん、たとえ白ナンバー(自家用)であってもプロの運転手には違いありませんから、緑ナンバー(事業用)と同様、事故を起こさないことが重要です。万一、重大な事故を起こしてしまうと、学校や企業の慣れない担当者が、被害者や警察、保険会社などの対応を引き受けるしかありません。

 もう一つ、“運転手に選ばれる職場環境づくり”も、成否のカギを握っています。

 国全体の労働力不足を受けバス運転手も引く手あまたのなか、給与水準や休日数などの待遇はもちろん、育成、教育体制や運転手個人のキャリアパスつくりなどの面でプロの事業者並みの環境を提供できなければ、運転手が定着してくれないからです。

 単にコスト削減だけを追求すれば、運転手確保に苦戦し、けっきょくは再びアウトソースを余儀なくされることが予測されます。

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