洞内を流れる川を歩いたり、手順どおりに体を通さないと進めなかったりするなど、「ふつう」とはひと味違う鍾乳洞を紹介します。
ふつうの鍾乳洞にはもう飽きた【本記事は、旅行読売出版社の協力を得て、『旅行読売』2016年11月号に掲載された記事「宮田珠己が行くニッポン偏愛観光地 その20」を再構成したものです】
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鍾乳洞は全国各地にあって、誰でも一度や二度は行ったことがあると思う。
ところが今年(2016年)、とても楽しい鍾乳洞にたてつづけに出会って、自分の偏狭さを恥じたのである。
最初に紹介したいのは、福岡県北九州市の平尾台にある千仏鍾乳洞だ。
川が流れている福岡県北九州市の千仏鍾乳洞。
平尾台は秋吉台と同じカルスト台地で、そういう場所にはきまって鍾乳洞が発達する。周辺に鍾乳洞は何か所かあるが、千仏鍾乳洞の特徴は、中に川が流れていてそのなかをバシャバシャと歩いていけること。
この鍾乳洞は国の天然記念物にも指定され、鍾乳石がいくつも垂れ下がる入り口はちょっとした見ものだ。中に入ると広すぎず狭すぎず、ちょうど廊下ぐらいの幅なのが妙に落ち着く。

千仏鍾乳洞内部は、ちょうど廊下のような広さ。
はじめのうちは濡れずに歩いていけるが、500mぐらい進むと細い流れの中を歩くしかなくなる。
やがて900m地点で照明が終わり、ほとんどの人はここで引き返すが、実はこの先も洞窟は続いていて、懐中電灯があればさらに奥へと進んでいける。四つん這いで地獄卜ンネルという穴を抜け、さらに300mぐらい進むと三つの滝があるそうだ。
さすがにひとりで入っていく勇気はなかったが、仲間とワイワイやってくれば楽しかったんじゃないかと思う。こんな鍾乳洞があったとは。
水の中をバシャバシャ歩ける鍾乳洞はほかにもある。
私はまだ行ったことはないのだが、福島県田村市にある入水鍾乳洞は、同じように途中から水に入って進むらしい。しかも早い段階からろうそくかライトが必要になるという。天井も低く相当濡れるというから千仏鍾乳洞以上にハードだ。さらにずっと奥には、ガイド付きで入れるコースもある本格派。ここは少々勇気が必要かもしれない。
だが、狭いという点ではもっとすごい鍾乳洞がある。
徳島県上勝町にある四国遍路の別格霊場慈眼寺(じげんじ)。ここに穴禅定(あなぜんじょう)なる修行の場があって、これがかなり狭い鍾乳洞なのだ。
境内には事前に洞内の幅を体験できる2枚の石の板があり、その間を通れない人は穴禅定に入れない。それを見る限り、肥満体の人は無理そうだ。
納経所で修行用の白衣を借りると、入洞前に不動明王に手を合わせ、片手にろうそくを持って、案内人の後について体の大きい人から順に入っていく。大きい人ほど通り抜けるのにアドバイスが必要になるからだ。

穴禅定入りロへ(画像:上勝町役場)。
穴は最初から狭く、体を横にしないと通れない。不自然な体勢のまましゃがんだり、後ろを向いてお尻から入ったり、左手ででっぱりを持って体を引き上げるなど、体を通す手順が決まっている。案内人の指示なしでは通り抜けるのはとても無理だ。
そうやってアクロバットのような体勢を次々に繰り出しながら進むこと約30分。
閉所恐怖症の人には無理そうだが、ふつうの鍾乳洞に飽きた人、そしてもちろん心の修行をしたい人におすすめである。

『旅行読売』2017年10月号。特集は「初めてでも大満足 あの名湯でひとり泊」と「元気な商店街」。
・旅行読売(Fujisan.co.jp)
http://www.fujisan.co.jp/product/2782/ap-norimono

徳島県上勝町にある鍾乳洞「穴禅定」。洞内は狭いため、事前にこの石板の間が通れないと中に入れない。