追突が連鎖していく「玉突き事故」は、ときに数十台が関係することもあります。損害保険の現場では、このような事故の責任はどのように考えられ、どのように処理されるのでしょうか。
追突事故が連鎖し、複数台が関係する事故へと発展することがあります。こうした事故は一般的に「玉突き事故」と呼ばれますが、この場合、事故の責任は誰が負うのでしょうか。
玉突き事故のイメージ(画像:Robert Crum/123RF)。
損害保険大手の損保ジャパン日本興亜(東京都新宿区)によると、一般的に「玉突き」と呼ばれる複数台が関係する事故も、ケースによって呼び名や考え方が異なるといいます。たとえばA、B、Cの3台が関係する事故では、Aに追突されたBが、その反動で前のクルマCに追突するケース(A→B→C)を「玉突き事故」、BがCに対し追突事故を起こしたところに、後続のAが突っ込むケース(A→〈B→C〉)を「順次追突」と呼ぶそうです。同社に詳しく話を聞きました。
――3台が絡む追突事故の場合、責任の所在の基本的な考え方はどのようなものでしょうか?
「玉突き事故」の場合は、最初に追突したドライバー、お話したA→B→Cの例ではAの責任になり、B、Cに賠償責任は生じません。一方、「順次追突」(A→〈B→C〉)の場合、BはCに対して、あとから追突したAは、BおよびCに対し賠償責任が生じます。
なお、高速道路でこのような「順次追突」が発生した場合は、BはAに対しても賠償することとなります。というのは、高速道路では道路交通法で高速走行が許容されていたり、駐停車が原則禁止されていたりと、一般道と異なる性質があり、前車の急ブレーキや追突事故が後続車の事故を引き起こす可能性が高いためです。追突された前車(上の例でいうとB)の過失が、一般道とくらべて大きくなります。
――10台くらいが関係する事故に発展した場合はどうなるのでしょうか?
「玉突き事故」の場合は、最後尾のクルマ、つまり最初に追突したドライバーの責任になります。
――A、B、Cの順で並んでいるとして、Bが急ブレーキをかけたことで後続のAが追突し、それによってBがCへ追突する「玉突き事故」の場合はどうなるのでしょうか?
Bの急ブレーキに理由がない場合は、AとBのあいだで責任割合が発生します。Cに対し、AとBがその責任割合に応じ共同して賠償することになります。
――たとえば渋滞中に前車が少し動いているような状況で、過失の割合は変わってくるのでしょうか?
通常、追突事故の場合は追突したドライバーが賠償責任を負います。よって、渋滞中に少し動いたり、停止したりをくり返していても、前車のドライバーに責任は生じません。ただし、前車が理由なく急ブレーキをかけた場合などは、前車にも追突した後続車に対する賠償責任が発生します。
――実際の保険金の支払いなどは、どのように処理されるのでしょうか?
相手のクルマを修理する保険は、加害者が加入している自動車保険の対物保険です。実務においては、当事者から事故状況をヒアリングし、それをもとに、事故車両の損害写真を確認し、「玉突き事故」か「順次追突」かを判断します。前者であれば、最後尾車両の対物保険で対応します。後者の場合は、最後尾と真ん中の車両の責任割合を決めて賠償する必要があるため、それぞれの対物保険で対応することが一般的です。
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警察庁の資料によると、2017年に発生した車両どうしの交通事故のなかでも、最も多いのが追突事故で、およそ4割を占めています。そのうちおよそ9割が、「進行中」以外、つまり停車中の車に後続車が追突してくるケースだそうです。
このような事故に遭遇した場合、どのように対応すればよいのでしょうか。損保ジャパン日本興亜は、「自動車保険にご加入されている場合は、事故発生現場で相手方から『すべて賠償してほしい』と言われても、必ず『保険会社と相談したうえで、のちほど連絡します』と答え、その場での約束は避けましょう」と話します。
【図】「玉突き事故」と「順次追突」のちがい

「玉突き事故」は、Aに追突されたBが、その反動で前のクルマCに追突するケース。「順次追突」は、BがCに追突したところにAが追突するケース(乗りものニュース編集部作成)。