運行時間が36分と短い、東武鉄道のSL「大樹」。しかし実際に乗車したところ、その思い出はとても濃いものになりました。

サービスの仕方にポイントがありそうです。

運良く乗れたSL「大樹」!

 日光・鬼怒川地区へ約58年ぶりに復活した蒸気機関車、東武鉄道のSL「大樹」に乗ってきました!

「明日、鉄旅がしたいなぁ」とふと思い立ち、日帰りできる範囲の観光列車を検索すると、朝一のSL「大樹」にだけ運良く空席を発見。スマホでネット予約して、きっぷは当日、しかも駅で受け取れるという便利さは、旅へ背中を押してくれますね。

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発車前にSL「大樹」と記念写真。

 いざ早起きして、SL「大樹」が発車する下今市駅(栃木県日光市)に到着すると、すでにホームには人だかりができていました。「シュ、シュ、シュ、シュ」と一定のリズムを刻みながらSLが入線すると、シャッター音と共に歓声があがります。

 先頭は、北海道からはるばるやってきたC11形蒸気機関車で、小型とはいえものすごい迫力。「カニ目」と呼ばれる、濃霧対策のために2つある前照灯がギラギラと光っていて、黒い車体と白い煙のなかにひときわ目立っていました。

 蒸気機関車のすぐ後ろには車掌車が連なり、常にC11と一心同体で走ります。車掌車といっても普段、車掌さんを乗せているわけではなく、安全な運行に欠かせない自動列車停止装置(ATS)をそこに搭載しているのです。

 続いて、青ベースに白のラインが入った懐かしい外観の客車が3両、そして最後尾に赤のディーゼル機関車DE10が連結されていました。

 発車前のホームでは、競うようにシャッター音が響きます。

私(小林未来:現役レースクイーン)も撮っていると、機関士さんが記念撮影してくれました。SL「大樹」のヘッドマークを模したプレートを持たせてくれたうえ、帽子までかぶせてくれた1枚はやはり嬉しく、心ある接客に感激しました。

車内販売はありがたい「プレゼンテーション」

 発車ギリギリになって乗り込んだ客車内は、初めてなのにどこか懐かしく、ホッとします。SLの全盛期を知らない私でも、何度となく資料や映像を目にしたり、思い出話を聞いたりしているうちに想像した雰囲気そのままで、タイムスリップしたような感覚になりました。座席にはリクライニング機能がついているものの、背もたれは倒す角度を調整できず、背中を離すと、同時にカチャンと音がして強制的に元の位置へ戻ってしまいます。この昔のリクライニングシートの感覚を味わえただけでも、来た甲斐があったと思えます。

 各車両にはアテンダントさんがいて、「寒いですよね。暖房もうすぐ効くので待ってね」と、3Dの記念乗車証を持ってきてくださいました。1日3往復で6種類、発車時刻により異なるデザインで、集めると枚数に応じてオリジナルグッズがプレゼントされるそうです。

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列車で異なるSL「大樹」の記念乗車証。
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座席に用意されている手書きのイラストマップ。
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SL「大樹」の車内販売で購入した「黒いアイスクリーム」。

 発車してすぐ、田んぼから手を振ってくれているおじいちゃんに気づき、私も振り返しました。座席のポケットに入っていた手書きのパンフレットにも、手を振るポイントがイラストマップで示されています。SL「大樹」がどれだけ愛され、大切にされているか伝わってきます。

 車窓からは鬼怒川も見え、この日はあいにくのお天気でしたが、わずかに残った紅葉が綺麗でした(乗車は2017年11月)。見惚れていると、プロカメラマンによる記念撮影の順番がまわってきました。「はい、『大樹』!」の掛け声でパシャリ!

 すると車内販売がまわってきたので、名物の「黒いアイスクリーム」をゲット。イチゴ味もバニラ味も「黒」ですが、いちばん違和感のないゴマ味を選びました。

 SL「大樹」の運行時間は36分と短めで、車内販売は、何度もまわる時間が無いこともあってか、ひとりひとり目を合わせておすすめしてくださる、まるでプレゼンテーションのようなもの。声をかけそびれてしまいがちな私には、ありがたいサービスでした。

差し出された石炭!

 車内から姿は見えなくても、蒸気の迫力、煙の匂い、揺れ、急勾配での苦しそうな音などSLならではの魅力を楽しんでいると、あっという間に発車から30分が経って、東武ワールドスクウェア駅に到着。車窓からも確認できる、ミニチュアパーク「東武ワールドスクウェア」のミニチュア東京スカイツリーは必見です。

 ここから終点までは、わずかの距離。

アテンダントさんの「ご乗車ありがとうございました」の挨拶で、車内にわーっと拍手が起きました。乗客の一体感を味わえるのも醍醐味です。

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SL「大樹」を後ろから押してサポートしたDE10形ディーゼル機関車と記念撮影。
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見せてくれた石炭。
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転車台で回転するC11形蒸気機関車。

 終点の鬼怒川温泉駅で降りると、SL「大樹」はしばらくそこで停車。たっぷり撮影する時間が取れました。後方のディーゼル機関車にもヘッドマークが付いていたり、ホームにはSL「大樹」のデザインを施した自動販売機があったりと、撮影ポイントを探してみるのも面白そうです。

 車掌車と客車の切り離しもしっかり撮影し、最後にもう一度C11を見せてもらおうと近づくと、機関士さんが石炭を見せてくれました。すごいサービス精神です! すっかりSL「大樹」のファンになってしまいました。

 最後のお楽しみは、SLの向きを変える作業です。改札を出るとすぐの駅前広場に、大きな転車台が見えてきます。

誰でも見学できるとあって、地元の方も待ち構えており、SLが入ってくると大盛り上がり! アトラクションのように楽しいアナウンス付きで、転車台の回転を途中で止めてシャッターチャンスを作ってくれるなど、最後まで全く飽きませんでした。

 初めてのSL「大樹」。いままで乗らなかったことを後悔するほど終始楽しく過ごせたのは、「おもてなし」というより、短い時間でもよりたくさん楽しんでもらうための、一歩踏み込んだ積極的なサービスによるものだと感じました。車掌さんも機関士さんも駅員さんも、SLを誇らしげに、嬉しそうに話してくださるのが印象的で、おひとりおひとりの想いが「大樹」を作っているのだと頼もしく思いました。

【写真】「カニ」のような蒸気機関車 C11形207号機

片道たった36分のSL列車「大樹」乗車レポート 短い時間だからこそのサービスとは?

濃霧対策でライトがまるで“カニの目”のようになったSL「大樹」のC11形207号機(2017年11月、小林未来撮影)。

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