イオンの電子マネー「WAON」による決済サービスが、北海道3社の路線バスに導入されます。いわゆる交通系ICカード以外での電子マネーで公共交通機関の運賃を決済するサービスですが、全国へと普及していくのでしょうか。
北海道のイオングループであるイオン北海道およびマックスバリュ北海道は2018年5月11日(金)、道内の路線バスで電子マネー「WAON」による決済サービスの実証実験を開始すると発表しました。
釧路駅前にある、くしろバスの乗り場。一部路線に「WAON」による運賃決済を導入する(画像:photolibrary)。
まず5月21日(月)から、十勝バス(帯広市)の「西地区コミュニティ路線」、くしろバス(釧路市)の「たくぼく循環線」に導入されます。この2路線はそれぞれ帯広、釧路市内を走る均一運賃路線ですが、2018年秋からは両社の多区間運賃路線(区間をまたぐごとに運賃が加算される)にも拡大されるほか、阿寒バス(釧路市)の多区間運賃制3路線にも導入される予定です。
イオン北海道によると、交通系ICカード以外の電子マネーによる多区間運賃決済は、全国初の取り組みだといいます。導入の背景を同社に聞きました。
――「WAON」での運賃決済は、これまでに例があったのでしょうか?
イオン本社がある千葉市の幕張地区を走る循環バスなどで「WAON」の導入例はありましたが、いずれも均一運賃制のバスです。多区間運賃制路線へは、2018年秋の導入が初となります。
――導入にはどのような経緯があったのでしょうか?
2017年10月に帯広市さんと地域活性化に関する包括連携協定を締結したことをきっかけに、道東地区ではバスが地域の重要な足であることから、各社に運賃決済サービスをご提案しました。今回導入する3社では、ICカード乗車券の導入を検討されている段階でもありました。
――バスへの「WAON」導入にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
お客様にとっては「WAON」を使える場所が増えることで利便性が高まり、当社にとっては来店促進につながります。
――交通系ICカードと、利用方法に違いがあるのでしょうか?
均一運賃の路線では1回、他区間運賃制の路線では乗車時と降車時に1回ずつ、ICカードリーダーにタッチして支払いますので、使い方の面では交通系ICカードと変わりありません。ただ、車内ではチャージに対応しておらず、決済のみです。チャージは「WAON」が利用可能な店舗で行っていただく形になります。
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交通機関におけるICカードの普及や利便性拡大は、国土交通省も推進している課題です。2015年2月には「交通政策基本計画」を閣議決定し、サービスレベル向上や訪日外国人旅行者の増加に向けた取り組みの一環としてこれを位置付け、2020年度までに「Suica」「PASMO」などの相互利用可能な交通系ICカードを、全都道府県で使えるようにするという目標を定めています。
交通系ICカードではなく、商業系ICカードの交通機関への展開については、どのように考えているのでしょうか。同省総合政策局公共交通政策部は、上記目標の具体化について検討した「交通系ICカードの普及・利便性拡大に向けた検討会」では特段取り上げていないものの、その立ち上げの前段階で議論はあったと話します。
「商業系ICカードとの共存は、システムの改修が必要で、早期の導入は困難だと判断したことから、検討会では議論の対象外としました。実際に『WAON』をコミュニティバスに導入している路線もありますが(編集部注:鳥取県の日ノ丸自動車と日本交通が運営するコミュニティバス『くる梨』、三重県の三岐バス『イオンモール東員線』など)、全国に存在する地域独自の交通系ICカードと同等のものとして捉えています。
イオン北海道は「WAON」の公共交通機関における今後の展開について、「事業者からお話があれば拡大したい」と話します。交通系ICカードとの相互利用も、現段階では考えておらず、市民の声があれば検討したいとのことです。
【画像】「WAON」はご当地モノも多数

イオンが発行する「ご当地WAON」の例。北海道では7種類が発行されている(画像:イオン北海道)。