陸上自衛隊の戦闘ヘリAH-1S「コブラ」の老朽化問題が深刻化しています。そこには、お金の問題だけではない、素直に新型へと更新できない事情がありました。

かつて戦闘ヘリの代名詞だった「コブラ」も引退のとき

 陸上自衛隊の航空部隊はいま、AH-1S「コブラ」対戦車ヘリコプターの後継を巡り大きく揺らいでいます。

陸自戦闘ヘリAH-1S、更新が捗らない理由 老朽化は深刻 お...の画像はこちら >>

TOW 有線誘導対戦車ミサイルを発射するAH-1S。後継機が決まらないまま老朽化が進んでいる(関 賢太郎撮影)。

 防衛省・防衛装備庁は2018年5月7日、新戦闘ヘリコプター導入を検討するための情報提供企業の募集を開始しました。本事業はAH-1Sの後継機を選定する準備段階として行われるものです。

 本来ならばAH-1Sの後継機はAH-64D「アパッチ・ロングボウ」となる見込みでした。2001(平成13)年にはAH-64Dを64機調達すると決定したものの、主力戦闘機並みの価格というあまりに高いコストから、わずか13機で計画はとん挫し調達打ち切りとなってしまいました。

 AH-1Sの老朽化は深刻であり、すでに少なくない機数が構造上の寿命を迎え実働部隊から退いていると見られます。しかしながらAH-64Dの調達失敗から実に10年以上にわたって、AH-1Sの後継機の座は空白のままとなっています。

 なぜAH-1Sを新型戦闘ヘリコプターに更新することができないのでしょうか。その要因は様々ですが、大きな理由のひとつに戦闘ヘリコプターの「生存性」、すなわち戦闘で生き延びるための能力の低さが世界的に大きな問題となっていることが挙げられます。

 特に戦闘ヘリコプターにとって脅威となっている存在が地対空ミサイルです。

かつて地対空ミサイルは撃破率が1%から2%、すなわち100発撃ってようやく1機から2機撃墜できる程度の信頼性しかありませんでした。しかし現代の地対空ミサイルは恐るべき進化を遂げており、妨害への耐性も強く、適切な状況下で発射された場合は「ほぼ命中を見込める」ようになりました。そのため十分な地対空ミサイルを持った軍隊を相手に戦闘ヘリコプターを投入することは、ほとんど自殺行為となっています。

深刻な生存性問題、イラク戦争の事例

 この問題は戦闘ヘリコプターだけではありません。A-10「サンダーボルトII」やSu-25「フロッグフット」のような低速の攻撃機においても同様であり、A-10は低空での機関砲掃射ができなくなりつつあります。

 また地対空ミサイルを持っていない相手に対しても、戦闘ヘリコプターはかなり厳しい戦いを強いられています。イラク戦争ではアメリカ軍によって、早期にイラク軍の地対空ミサイル防空網は無力化されました。それにもかかわらずイラク軍や民兵の必死の抵抗に直面し、アメリカ軍の戦闘ヘリコプターは大きな損害を受けてしまいました。

陸自戦闘ヘリAH-1S、更新が捗らない理由 老朽化は深刻 お金の問題だけではない事情

強力なAH-64D「アパッチ・ロングボウ」。陸自は現在12機を保有するも数が少なすぎ使いどころがさらに困難となっている(関 賢太郎撮影)。

 最も衝撃的であったのが2003(平成15)年3月24日夜の「ナジャフの戦い」です。アメリカ陸軍第11攻撃ヘリコプター連隊は保有するAH-64、32機全機を作戦に投入し、苛烈な夜間攻撃を加えました。

これに対しイラク軍は、レーダーに頼らない目視観測と携帯電話の使用で巧みに連携、自動小銃や機関銃といった小口径火器で反撃しました。その結果、驚くべきことにたった一夜の作戦で、32機のAH-64のうち31機が被弾、うち1機が被撃墜、1機は不時着後大破、残る29機が損傷により作戦不可能な状態へと追い込まれ、第11攻撃ヘリコプター連隊の稼働機はたった1機に減少し事実上壊滅したのです(とはいえ、その後わずか1週間で15機のAH-64を戦線復帰させたのはさすがのアメリカ軍と言えるでしょう)。

 アメリカ海兵隊が保有するもう1機種の戦闘ヘリコプター、AH-1W「スーパーコブラ」においても状況は同じでした。海兵隊は陸軍のように戦闘ヘリコプターを「深部攻撃」に使わず、おもに地上部隊を空から助ける「近接航空支援」を実施したことから多少は被害が少なかったものの、それでも約25日間に及ぶ戦闘において54機中46機が被弾し修理が必要となる壊滅的な被害を被っています。

ではもう戦闘ヘリは不要なのかというと…?

 現代の戦闘ヘリコプターは高度なセンサーやネットワークシステムを搭載し、優れた情報収集能力を持ちます。また機関砲、対地ミサイル、ロケット弾といった火力は非常に強力です。こうした能力は高度な防空網を持たないテロリスト相手には大いに役立ちます。

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アメリカ海兵隊のUH-1Y「ベノム」(写真奥)を護衛するAH-1W「スーパーコブラ」。エンジンが双発化されている(画像:アメリカ海兵隊)。

 しかしながら、相手が正規軍ともなると携帯型地対空ミサイルをはじめ車両搭載型の高性能地対空ミサイル、そしてレーダー連動の対空機関砲が待ち受けていることは必定であり、これらを先行してつぶさない限り、戦闘ヘリコプターはその使いどころが非常に難しくなっています。

 専守防衛を掲げる日本の防衛方針は対正規軍に重点が置かれており、高価すぎる割に生存性の低い戦闘ヘリコプターは非常に微妙な立場に追い込まれています。とはいっても戦闘ヘリコプターはうまく使えば強力であることに違いはありません。

また輸送ヘリコプターに帯同しこれを護衛する任務を速度差のありすぎる戦闘機に置き換えることは難しいため全廃するわけにもいかず、陸上自衛隊はAH-1Sの後継機をどうするべきか、最適な回答を求め苦慮しているようです。

【写真】一方ロシアは戦闘ヘリに兵員輸送能力も付与した

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ロシア(開発時はソ連)製Mi-24「ハインド」戦闘ヘリコプター。兵員輸送能力を兼ね備え汎用性の高さがウリ(関 賢太郎撮影)。

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