ひと口に軍艦といっても、そこには多種多様な艦種があります。空母、駆逐艦くらいまではわかりやすいかもしれませんが、では「フリゲート」とはどのような艦艇を指すのでしょうか。
三菱重工業は2018年11月1日、防衛省が2018(平成30)年度予算で調達した新型の3900t護衛艦2隻について、同省と建造契約を締結したと発表しました。
3900t型護衛艦(30FFM)のイメージ(画像:三菱重工業)。
海上自衛隊は現在運用している護衛艦について、諸外国での海軍における駆逐艦(Destroyer)と位置づけており、あきづき型のように対潜、対艦、対空戦闘のバランスが取れた護衛艦を「DD」と呼び、こんごう型のように艦対空ミサイルを搭載し、艦隊防空を主任務とする護衛艦にはGuided Missile(誘導ミサイル)の「G」を付けて「DDG」、いずも型のように搭載するヘリコプターを使用して対潜作戦などを担当する護衛艦にはHelicopterの「H」を付けて「DDH」、「DD」に比べて小型で、近海での活動を担当するあぶくま型などの護衛艦にはEscort(護衛)の「E」を付けて「DE」という艦種記号を、それぞれ与えています。DEのEscortは、護衛艦と意味が被っているように思えるかもしれません。
第二次世界大戦ごろまで、敵潜水艦への攻撃を主任務とする駆逐艦とは別に、商船などを敵の潜水艦から護衛する「護衛駆逐艦」という艦種がありました。海上自衛隊は創設期にアメリカ海軍から中古の護衛駆逐艦を貸与され、その後、国産の護衛艦を建造するようになったのですが、その際、国産護衛艦に比べれば小型の護衛駆逐艦に「DE」という艦種記号を与えています。その後、日本を5つの区域に分け、その区域の警備を担当する地方隊に配備する小型の護衛艦に「DE」という艦種記号を与えました。なお、2008(平成20)年に地方隊に配備されていたDEは護衛艦隊に編入され、現在の地方隊には護衛艦は配備されていません。
今回建造契約が結ばれた3900t護衛艦は、あぶくま型などを後継する艦と位置づけられていますが、基本排水量はあぶくま型の2000tから、その名が示すように3900tとかなり大型化しています。このため軍事雑誌などは3900t型を汎用護衛艦と位置づけ、調達年度(平成30年度)と合わせて「30DX」、「30DD」と呼んでいました。しかし海上自衛隊は3900t護衛艦を「フリゲート(FF)」と位置づけ、多用途(Multifunctional)の「M」と機雷(Mine)の「M」を合わせた「30FFM」という、新たな艦種記号を与えています。
そもそも「フリゲート」って?フリゲートという艦種がいつから存在していたのかについては、あまりはっきりしませんが、遅くとも15世紀には排水量1000t程度で速度性能の高い小型の軍艦が、フリゲートと呼ばれていたようです。
15世紀から17世紀ごろまでのフリゲートは艦隊決戦時の偵察や、敵国の商船の拿捕、味方の商船を襲う敵の軍艦の撃退など、様々な任務に使用されていました。当時イギリス海軍は敵の商船を拿捕すると乗組員に賞金が分配される仕組みとなっていたため、フリゲートでの勤務は将兵の人気が高かったようです。
その後、蒸気機関が開発されると、それまでフリゲートが行なっていた任務を担当する軍艦は「巡洋艦」に分類され、「フリゲート」という艦種名称は次第に使われなくなりました。フリゲートが復活したのは第二次世界大戦のことで、イギリス海軍はそれまで商船の護衛を行なっていた小型の軍艦「コルベット」では戦線の拡大に追いつかないことから、駆逐艦よりも小型でコルベットよりも大きく、量産性に優れた、リバー級と呼ばれる護衛艦を建造。このリバー級がフリゲートに分類され、ここで「フリゲート」という名称が復活しました。ちなみに海上自衛隊も草創期に、アメリカ海軍が第二次世界大戦中に大量建造したタコマ級フリゲート18隻の貸与を受けて、くす型護衛艦として運用しており、くす型には「PF(Patrol Frigate)」という艦種記号が与えられていました。
フリゲートという艦種を復活させたリバー級は満載排水量1900tから2180t、タコマ級フリゲートも満載排水量2250t程度の軍艦でしたが、第二次世界大戦後に建造されたフリゲートはサイズが大きく、武装も強力になっています。

石油タンカーと衝突し、徐々に水没しつつあるノルウェー海軍のフリチョフ・ナンセン級フゲート「ヘルゲ・イングスタッド」(画像:ノルウェー軍)。
2018年11月8日に石油タンカーと衝突して、ほぼ水没状態となったノルウェー海軍の「ヘルゲ・イングスタッド」は、同国のフリチョフ・ナンセン級フリゲートにあたりますが、このクラスの満載排水量は5375tで、これは1920年代に日本海軍が建造した軽巡洋艦である球磨型(満載排水量5926t)と大差ありません。武装も主砲と対艦ミサイル、短魚雷発射管に加えて、イージス戦闘システムと、海上自衛隊のあきづき型護衛艦にも搭載されている対空ミサイル「ESSM」の発射装置を装備しており、高い対空戦闘能力を備えています。
将来はDDを代替か海上自衛隊が導入する30FFMはフリチョフ・ナンセン級などとは異なり、対空戦闘能力にはそれほど重きが置かれておらず、平成30年度予算で建造される2隻は短距離対空ミサイル「Sea RAM」ランチャー1基の搭載に留めています。これまで建造されたほとんどの護衛艦は、艦首に潜水艦を捜索するためのソナーを搭載していましたが、30FFMは艦尾から曳航する可変深度ソナー(VDS)と戦術曳航ソナー(TASS)の搭載に留めています。

30FFMに主砲として搭載される「Mk.45 MOD.4」62口径127mm単装砲。写真はアメリカ海軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「ラッセン」の主砲(竹内 修撮影)。

30FFM唯一の対空兵装となる「RAM」ミサイルランチャー。写真は海上自衛隊の護衛艦「いずも」のもの(竹内 修撮影)。

ノルウェー海軍のフリチョフ・ナンセン級フリゲート「ヘルゲ・イングスタッド」。2016年撮影(画像:ノルウェー軍)。
その一方で主砲はフリチョフ・ナンセン級が76mm単装砲1門であるのに対し、30FFMはより強力な62口径5インチ(127mm)単装砲1門を装備します。30FFMには島嶼防衛作戦などで、艦砲射撃による火力支援能力が求められているため、フリチョフ・ナンセン級よりも小型の艦であるにもかかわらず、強力な砲を搭載したというわけです。
30FFMは機雷の掃討(処理)という、他国海軍のフリゲートではあまり例の無い能力にも重きが置かれています。このため30FFMには機雷を探知するためのソナーが搭載されているほか、機雷を探知するUUV(無人潜水艇)と、UUVが発見した機雷を処理する無人機雷排除システム、UUVと無人機雷排除システムを搭載するUSV(無人水上艇)も搭載されます。また逆に機雷を敷設するための、簡易敷設装置も装備されるようです。
30FFMは平成31年度防衛予算の概算要求でも2隻の建造費が計上されており、防衛装備庁が2018年8月31日に、2037年までに合計22隻を建造する計画を発表しています。
当面、30FFMはあぶくま型などの後継として配備が進められますが、将来的には能力向上型がはつゆき型やあさぎり型といった、「DD」に分類される汎用護衛艦の後継となるのではないかと筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思います。
【写真】1隻目は戦艦「武蔵」も建造された三菱重工業長崎造船所にて

三菱重工業が契約した「30FFM」は、同社の長崎造船所にて建造される(2014年2月、恵 知仁撮影)。