ラーメンも戦車も「全部のせ」が最強かどうかは議論の分かれるところですが、ミサイルも撃てる「最強」戦車の開発はかつて、東西両陣営で取り組まれていました。東側の盟主たる旧ソ連の、ひと味違う兵器開発がそこにあります。

武器は載せれば載せただけ強い…のか?

 ロシア・ソ連は時々「こんなもの本当に作っちまったのか」と思わせる、西側とは違う発想の“ゲテモノ兵器”を登場させます。

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BMP-3歩兵戦闘車。3本の砲身は真ん中が100mm砲、左側に30mm機関砲、右側に短い7.62mm機銃。写真はアラブ首長国連邦陸軍の車両(画像:月刊PANZER編集部)。

 旧ソ連時代に「BMP-3」という装甲車が作られました。これは「歩兵戦闘車」と呼ばれる装甲車で、歩兵を運び、歩兵の戦闘を支援するのが任務ですが、その武装にびっくりさせられました。砲塔は小さいにもかかわらず、100mm砲に同軸の30mm機関砲と7.62mm機銃という三連装で、しかも主砲の100mm砲は砲身から砲弾のみならず対戦車ミサイルまで発射できる「ハイブリッドガン」だったのです。つまり四種類の武装を載せているわけで、長射程の対戦車ミサイルから威力のある大砲、連射の効く機関砲、機関銃と、見かけは「全部載せ」、最強の武装です。

 旧ソ連の設計者は、あらゆる敵に対抗できる「万能兵器」を夢見たのです。いまでは歴史のかなたに消えた「多砲塔戦車」でも見られるように、ひとつの車体になるべく多くの武装をさせ、多機能を持たせようというのは、いつの時代も設計者や用兵家の理想のようです。

「戦車+ミサイル=最強!」を本当にやった西独、米、旧ソ連 使いものにはなったのか?

アメリカと当時の西ドイツが共同開発した試作戦車MBT70。大きな口径152mmのXM150砲が目立つ(画像:月刊PANZER編集部)。

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MBT70のXM150砲で使用するMGM51「シレイラ」ミサイル。こまめな整備が必要な精密品だった(画像:月刊PANZER編集部)。
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車内から見たXM150砲の砲尾(画像:月刊PANZER編集部)。

 ミサイルが実用化され始めた1960年代、将来は、狙えば必ず命中する「必殺」のミサイルが登場し、大砲は時代遅れになってすべてミサイルに替わるという、SFチックな「ミサイル万能論」の唱えられた時期がありました。そうしたなか、戦車にもミサイルを載せようと考え出されたのが、普通の砲弾とミサイルが両方撃てる、前出の「ハイブリッドガン」です。

 やがて、アメリカと当時の西ドイツが1964(昭和39)年から共同開発していた試作戦車MBT70に、「XM150砲」というハイブリッドガンが載せられました。XM150砲の口径は152mmという大口径で、各種砲弾と専用の対戦車ミサイル「MGM51『シレイラ』」が発射できました。

ミサイルと大砲両方撃てれば最強! のはずが

 しかし案の定というべきか、ハイブリッドガンであるXM150砲は、砲弾とミサイルふたつの照準と誘導システムを組合せた、複雑な構造で故障の多い難物でした。

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砲身から「シレイラ」ミサイルを発射するM551「シェリダン」空挺戦車(画像:アメリカ陸軍)。

「シレイラ」ミサイルもつねにメンテナンスが必要な精密品で、当時の技術では目標命中まで誘導し続ける必要があり、最大射程は3000mでしたが、目標に到達するまで10秒以上かかりました。命中率は大砲より良いとはいえ、とても「必殺」と呼べるレベルの代物ではありません。しかも、ミサイルの価格は砲弾の20倍以上でした。

 冷静に考えると、わざわざ二重の複雑な射撃統制装置を開発するより、通常砲弾専用の高度な射撃統制装置を開発して、砲弾の命中率を高めたほうが実用的でした。結局、西ドイツはハイブリッドガンの開発を諦めます。そしてMBT70戦車の開発自体も放棄されてしまいます。

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アメリカが完成させたハイブリッドガンM81砲(画像:月刊PANZER編集部)。
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M551「シェリダン」空挺戦車(画像:月刊PANZER編集部)。
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M60A2戦車。太く短い砲身が特徴。砲弾よりもミサイルを中心に使う予定だった(画像:月刊PANZER編集部)。

 一方のアメリカは「ミサイル万能論」にこだわり続け、「シレイラ」ミサイルが使えるハイブリッドガン「M81砲」をなんとか完成させました。このM81砲はM551「シェリダン」空挺戦車とM60A2戦車に搭載されました。しかし複雑な構造による不具合は解決されず、M60A2は1966(昭和41)年の採用決定から部隊配備まで6年もかかってしまいました。配備後も故障の多さに悩まされ続け、現場部隊の評判も芳しくなく、結局、西側陣営においてハイブリッドガンはモノにはなりませんでした。

ところがロシアでは完成していた

 ロシアでは、ハイブリッドガンが正式に使われています。先に挙げたBMP-3は、100mm砲から9M117ミサイルを発射できます。また、ロシアの主力戦車T-72やT-80の口径125mm砲で使用できる、無線誘導式ミサイル9M112(NATOコードネーム:AT-8「ソングスター」)とレーザー誘導式ミサイル9M119(NATOコードネーム:AT-11「スナイパー」)を完成させています。全てのそれら戦車が装備しているわけではなく、バリエーションのひとつとなっているようです。おもに通常砲弾を使い、ミサイルは補助的な役割で、対戦車用のほか攻撃ヘリコプターを狙うとも言われ、最大射程は5000m。戦車のミサイルで攻撃ヘリコプターに反撃しようなど、西側陣営には無い発想です。

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BMP-3。100mm砲と30mm機関砲が連装になっている(画像:月刊PANZER編集部)。
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ロシアの2K22「ツングースカ」対空戦車(画像:月刊PANZER編集部)。
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陸上自衛隊の87式自走高射機関砲。武装は25mm機関砲を連装(画像:月刊PANZER編集部)。

「全部載せ」BMP-3も、失敗かと思いきや、どっこい成功作となりロシアから他国へも輸出されています。

この砲塔だけでも分割販売するという、ヒット商品になってしまいました。

 また、ひとつの車体に大砲とミサイル両方を載せてしまった、「またこんなもの作っちまったのか」というゲテモノ戦車も存在します。2K22「ツングースカ」という対空戦車です。なんと、9M311対空ミサイル8発と30mm機関砲を四連装という重装備です。ちなみに日本の対空戦車で、「ガンタンク」の非公式愛称でも知られる陸上自衛隊の87式自走高射機関砲は、35mm機関砲が2連装です。これに比べると「ツングースカ」は、外見だけでもゲテモノ感がたっぷりです。

「ツングースカ」は限られた車内容積のなかに、ただでさえ複雑な射撃管制システムを、ミサイル用と機関砲用の2種類も詰め込んでいます。30mm機関砲の四連装は、砲弾の装填、排莢機構だけでも相当複雑になっていることが想像できます。存在が確認された1980年代当時、西側諸国では実用性に懐疑的でした。見掛け倒しの失敗作かと思いきや、どっこいロシアの主力対空戦車になっています。

 しかも「ツングースカ」の廉価版として、96K6「パンツィリ」という車両が1995(平成7)年に登場します。これはミサイルと機関砲の砲塔をトラックに載せたもので、2018年現在もシリアに派遣されており、実戦で無人機やドローンを撃墜する戦果も挙げています。

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インド陸軍の2K22「ツングースカ」。銀色に塗装されているのがミサイルランチャー、機関砲は黒く塗られている(画像:インド国防省)。
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96K6「パンツィリ」。車体は大型トラックで装甲はされていない(画像:月刊PANZER編集部)。
「戦車+ミサイル=最強!」を本当にやった西独、米、旧ソ連 使いものにはなったのか?

96K6「パンツィリ」の砲塔アップ。左右に分かれた12本のミサイルランチャーと4連装の機関砲が分かる(画像:月刊PANZER編集部)。

 西側諸国では、ハイブリッドガンおよび「全部載せ」のゲテモノ兵器は技術的試行錯誤の一段階で「夢の産物」に終わりましたが、ロシアでは立派に日の目を見ています。かの国には、まだ“ゲテモノ技術”が隠れているかも知れません。

※一部修正しました(12月20日11時15分)。

【写真】100mm砲から発射可能、9M117対戦車ミサイル

「戦車+ミサイル=最強!」を本当にやった西独、米、旧ソ連 使いものにはなったのか?

BMP-3の100mm砲から発射できる9M117対戦車ミサイル(画像:月刊PANZER編集部)。

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