空自F-15J/DJ戦闘機は、おおむね半数ずつの旧型と新型に二分されます。改修困難な旧型がF-35戦闘機で代替される一方、新型はさらなる能力向上改修を受けることが、新しい「中期防衛力整備計画」で示されました。

F-35Bやいずも型空母化が注目される一方で

 防衛省は2018年12月18日(火)、今後およそ5年間でどのような政策を行ない、どの防衛装備品をどれだけ調達するかを示した「中期防衛力整備計画」(以下「中期防」)を発表しました。この新しい中期防には、現在、航空自衛隊が運用しているF-15J/DJ戦闘機20機に対し、能力向上改修を行なうことが盛り込まれています。

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航空自衛隊のF-15J戦闘機(画像:航空自衛隊)。

 航空自衛隊は2018年12月の時点で、F-15J/DJを201機保有しています。同隊は1980(昭和55)年から1999(平成11)年までに、F-15J/DJを213機導入していますが、1985(昭和60)年以降に引き渡された機体と、それ以前に引き渡された機体のうち事故修理の際に改修を受けた1機には、処理能力が向上したセントラルコンピューターの搭載や、ミサイルなどの兵装の制御盤をアナログ式からディスプレイに変更するといった、段階的な能力向上が施されています。この能力向上型のF-15J/DJは「J-MSIP(Japan-Multi-Stage Improvement Program)」機、そうでないF-15J/DJは「Pre-MSIP機」と呼ばれて区別されています。

 2018年12月の時点で、航空自衛隊において99機が運用されているPre-MSIP機は、発射後に母機からの誘導を必要としないAAM-4空対空ミサイル(99式空対空誘導弾)が使用できず、急速に近代化した周辺諸国の戦闘機戦力へ対抗することが困難になりつつあります。

 このため政府は2018年12月18日、前述の中期防に沿って、将来的に(STOVL〈短距離離陸・垂直着陸〉型ではない基本型の)F-35A戦闘機63機と、F-35のSTOVL型であるF-35B戦闘機42機を、Pre-MSIP機の後継機として導入することを決定しています。12月24日(月)付の日本経済新聞は、政府がPre-MSIP機をアメリカに売却して、F-35を導入するための資金の一部にすることを検討すると報じており、今後の推移が注目されます。

J-MSIP機への新たな改修は3項目

 一方102機のJ-MSIP機は、全機に対してではないもののこれまでに、より高性能なレーダーへの換装や、ヘルメット装着型照準装置の追加といった改修が施されており、現在でも周辺諸国の戦闘機へ対抗できる能力を備えているため、今後も長期に渡って運用される見込みとなっています。今回、中期防に盛り込まれた能力向上改修は、このJ-MSIP機に対して行なわれます。

 防衛省は、2018年8月31日に発表した平成31年度防衛予算の概算要求で、F-15J/DJのJ-MSIP機における新たな能力改修の内容について、空対空ミサイルの搭載数を増やす「搭載弾数の増加」、敵の攻撃を回避して生存性を高める「電子戦能力の向上」、敵防空システムの射程外からの攻撃能力を持たせる「スタンド・オフ・ミサイルの搭載」という3項目を上げています。

空自F-15J/DJ戦闘機、新たな改修でどう変わる? 新中期防、まずは20機から実施

「JA2018」にボーイングが出展した、AIM-120空対空ミサイルを18発搭載するF-15の大型模型(竹内 修撮影)。

「搭載弾数の増加」について、そもそもF-15J/DJは、胴体下のステーション(兵装装着部)に4発、左右両主翼のステーションに各2発、合計8発の中距離空対空ミサイルを搭載できます。F-15のメーカーであるボーイングは、アメリカ空軍のF-15C戦闘機に対し、能力向上改修案「F-15C 2040」を提案していますが、この案には胴体左右に設けられた増加燃料タンクのステーションにAIM-120「AMRAAM」空対空ミサイルの2連装ランチャーを、左右両主翼下のステーションにAIM-120の4連装ランチャーをそれぞれ装着し、空対空ミサイルの搭載数を16発に増加させる計画が含まれています。またボーイングは2018年11月に東京ビッグサイトで開催された「国際航空宇宙展2018東京」(以下「JA2018」)に、AIM-120を18発搭載するF-15の模型も出展しています。

ミサイルもりもり、電子戦装置やレーダーの換装も

 航空自衛隊のF-15J/DJは増加燃料タンクを装着していません。また、一部の機体は胴体側面に、敵のレーダー波などをキャッチして電波妨害とチャフ・フレアの発射を自動的に行なう、統合電子戦装置「IEWS」のアンテナを追加装備しているため、そもそも増加燃料タンクの装着が不可能です。このためJ-MSIP機における「搭載弾数の増加」は、胴体に搭載するミサイルの数はそのままで、両主翼下のステーションに4連装ランチャーを搭載して、中距離空対空ミサイルの搭載数を12発に増加させる形になるのではないかと、筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

 J-MSIP機は通常、中距離空対空ミサイルとしてAAM-4を搭載していますが、能力向上改修を受けたJ-MSIP機は、AAM-4のほかAIM-120の搭載も検討されているようです。

空自F-15J/DJ戦闘機、新たな改修でどう変わる? 新中期防、まずは20機から実施

「JA2018」にエルビット・システムズが出展した「F-15先進コクピットシステム」(竹内 修撮影)。

「電子戦能力の向上」については、前述した「IEWS」の追加を軸に検討されることになるのでしょうが、BAEシステムズが開発した最新型の統合電子戦システム「DEWS」が採用される可能性もあると思われます。レーダーの換装も計画されており、一部のメディアは、F-15の戦闘攻撃機型であるF-15Eの近代化改修計画にも採用された、レイセオン製の「AN/APG-82(V)1」レーダーを採用すると報じています。

改修の先にF-15J/DJの新たな役割

 前にも述べたようにJ-MSIP機は、一部の計器盤をアナログ式からディスプレイに変更していますが、後述する「スタンド・オフ・ミサイルの搭載」にあたっては、コクピットのさらなる改修も必要になると思われます。

たとえば、イスラエルのエルビット・システムズは「JA2018」に、大型カラーディスプレイを使用する「F-15先進コクピットシステム」を出展しています。このような近代的なコクピットには、アナログ計器の削減による重量低減に加えて、パイロットの負担を減らせるというメリットがあります。

空自F-15J/DJ戦闘機、新たな改修でどう変わる? 新中期防、まずは20機から実施

「JA2018」にて、欧州ミサイルメーカーMBDAのF-15模型。両主翼下に地中貫通型巡航ミサイルKEPD350、胴体下に長距離空対空ミサイル「ミーティア」を搭載(竹内 修撮影)。

 敵防空システムの、射程外からの攻撃能力を持たせる「スタンド・オフ・ミサイルの搭載」については、すでにF-15への搭載に向けた調査が行なわれている、空中発射型巡航ミサイル「JASSM」(Joint-Air-to-Surface-Missile)と長距離対艦ミサイル「LRASM」(Long Range Anti-Ship-Missile)の採用が検討されているようです。加えて、これらを搭載するための改修を加えたJ-MSIP機には、航空自衛隊がF-35用の対艦ミサイルとして導入する「JSM」(Joint-Strike-Missile)や、移動目標への攻撃能力を持つ誘導爆弾「ストームブレーカー」、地中貫通型巡航ミサイル「KEPD350」などの搭載も可能になります。

 F-15J/DJは、これまで空対空戦闘を主任務としてきましたが、ここまで述べてきたような能力向上改修を受けたJ-MSIP機は、空対空戦闘能力がさらに向上するだけでなく、空対艦、空対地戦闘も可能な「マルチロールファイター(多用途戦闘機)」へと生まれ変わり、今後も日本の空を守っていくことになります。

【写真】アナログ計器ズラリ、F-15初期型のコックピット

空自F-15J/DJ戦闘機、新たな改修でどう変わる? 新中期防、まずは20機から実施

F-15初期量産型である、F-15Aのコックピット。1970年代に生産されていた型で、アナログ計器が主体(画像:アメリカ空軍)。

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