国際線の飛行機や一部の高速バスなどに設置されているシートモニター。テレビや映画などを楽しむことができますが、スマートフォンやタブレット端末が普及するなかで、これらを廃止する動きもあります。
国際線の飛行機では、座席の背面に設置されたシートモニターで映画などのコンテンツを楽しめることがありますが、近年、このモニターを廃止する動きがあります。
ANAが2017年に導入したエアバスA321neo普通席。国内線仕様ながらシートモニターがある(2018年4月、恵 知仁撮影)。
たとえばアメリカン航空、ユナイテッド航空などが、国際線の新型機にシートモニターを導入しない方向を打ち出しています。ある航空関係者によると、シートモニターはコストがかかるうえ、故障すれば1席だけでなく複数の席で視聴できなくなる場合もあるなど、維持管理や運用上の負担は小さくないとのこと。
一方、日本の航空会社ではシートモニターを廃止する動きは見られません。JAL(日本航空)では、基本的に国際線の飛行機ではシートモニターを完備しており、廃止の予定はないといいます。またANA(全日空)では、2017年に導入したエアバスA321neoで初めて、国内線仕様機において全席にモニターを装備。国内線主力機のボーイング777、787にも順次設置していくといい、むしろ拡充傾向にあります。
「シートモニターは年配の方からお子様まで簡単に操作ができ、お楽しみいただけます。しかし、スマートフォンやタブレットといった個人のデバイスで音楽や番組を楽しみたいというニーズもあります」(ANA)
こうしたなか、いま世界の航空各社が注力しているのが、乗客が持つスマートフォンやタブレットなどに機内コンテンツを配信するサービスです。ANAもモニターの設置を拡充していく一方で、「ANA Wi-Fiサービス」を通じて乗客が自分の端末でも映画などを楽しめるようにしています。
ANAによると、「座席モニターとWi-Fiの両方を提供することにより、お客様がご自身の過ごし方を選ぶことができ、新しい空の旅を実感いただけると考えています」とのこと。JALでも同様のサービスを実施しており、国内線用には、時間の短いコンテンツを選んでいるそうです。
高速バスでもシートモニター廃止の動き 新規の設置は無理?シートモニターは、一部の高速バスでも存在。たとえば2019年1月現在、平成エンタープライズ(埼玉県志木市)が運営する「VIPライナー」の一部車両や、海部観光(徳島県美波町)が東京~徳島間で運行する「マイ・フローラ」でシートモニターが搭載されており、映画やテレビ、あるいは現在の走行位置表示などが配信されます。
一方、シートモニターを2018年に全廃したのがウィラー。2列シート「コクーン」や、4列シート「リラックス」の一部などに導入されていました。
それを今回全廃することとなったのは、老朽化にともなう各車両の更新が理由ですが、「近年、衝突時を想定した車両の安全基準が強化され、新しい車両では座席裏に固定式のモニターを設置することが難しくなっています」(ウィラー)とのこと。
ウィラーもやはり、乗客自身のスマートフォンやタブレット端末に映画などのコンテンツを配信するサービスに切り替え、東京~山形線を皮切りに、今後は昼行の全便へと提供路線を拡大していくといいます。同様のサービスは、平成エンタープライズ「VIPライナー」の一部の便でも導入済みです。
なお、固定されたシートモニターではなく、タブレット端末を各座席に用意しているバスも。JRバスの「ドリームルリエ」(東京~大阪)や、西日本鉄道「はかた号」(東京~福岡)の一部座席で、その端末から各種コンテンツを楽しめるサービスが提供されています。

JR夜行高速バス「ドリームルリエ」では、座席ごとに置かれたタブレット端末で映画などを視聴できる(2017年3月、恵 知仁撮影)。
飛行機でも高速バスでも、機内や車内におけるエンターテインメントコンテンツを充実させていく動きはあるものの、「シートモニターは必ずしも必要ない」という考えや、法規の関係でそれを設置することが難しくなっているという状況が生じています。乗客が自身の端末でコンテンツを楽しむための施策として、ANAでは充電用USBポートの設置も拡充していくとのこと。そのような電源を各座席に整備していく動きは高速バスでも同様です。
ちなみに列車でも、皇族が乗る列車や団体専用列車に使われるE655系電車には、各座席のひじ掛け内にモニターが格納されています。1988(昭和63)年に登場したJR九州の783系特急形電車のグリーン車など、座席裏にシートモニターがある列車もありましたが、それらはすべてモニターが撤去、あるいは車両が引退しています。