神戸市営地下鉄と一体運行されている北神急行電鉄北神線が、実質的な「神戸市営」になるかもしれません。「平成」は「民営化」の時代でしたが、なぜいま「公営化」なのでしょうか。

そこにはメリットも、デメリットも考えられます。

高額な運賃設定で低迷

 2018年末、神戸市は北神急行電鉄北神線の実質的な「市営化」を目指して、北神急行の親会社である阪急阪神ホールディングスと協議を開始することに合意したと発表しました。

 北神急行は神戸市北部の大規模開発に対応すべく、神戸電鉄の谷上駅から神戸市営地下鉄の新神戸駅まで約7,5kmを結ぶ路線で、全ての列車が新神戸駅から地下鉄西神・山手線に直通運転しています。阪急電鉄の主導により整備が進められましたが、建設費がかさんだことで、高額な運賃設定となり利用者が低迷。現在は黒字化しているものの、なお279億円という累積欠損と400億円以上の長期負債を抱えています。

 資産譲渡の条件は明らかになっていませんが、神戸市は北神線を市営化して市営地下鉄と一体的に運行することで、運賃を値下げして通勤者を増やし、神戸市北部の開発を加速させる狙いがあるとみられます。

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北神急行電鉄7000系電車(2010年2月、恵 知仁撮影)。

 思い返せば「平成」とは、三公社(国鉄、電電公社、専売公社)民営化の流れを受けた「民営化」の時代でした。「小さい政府」「官から民へ」をスローガンに、道路公団、郵政公社など様々な事業の民営化が推進され、鉄道では帝都高速度交通営団が2004(平成16)年4月に東京メトロへ、大阪市営地下鉄が2018年4月に大阪メトロへ改組されました。

 しかし、民営の鉄道を公営化する動きはほとんどありません。「民営化」と「公営化」には、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

80年前から「公営」には手厳しい意見も

 日本では、鉄道事業は独立採算制が原則とされています。

鉄道会社は運賃収入の範囲で鉄道を運行し、設備の維持・更新をしています。かつての国鉄も建前上は独立採算制の公社でしたし、各都市の公営地下鉄が独立会計で運営されているように、実はこの部分については公営鉄道、民営鉄道ともに大きな差はありません。

 鉄道事業は、多額の初期投資と長期にわたる整備期間を必要とします。民営鉄道は株主からの出資や、金融機関からの借り入れによって調達した資金で鉄道を建設し、鉄道が生み出した利益で利息分を含めた借金を返済していきます。利益が少なすぎたり、利息が高すぎたりすると事業が成り立ちません。

 国や自治体が運営する公営鉄道は、信用力を背景に多額の資金を借りたり、自ら債権を発行して資金調達したりできるため、民営鉄道では事業が成り立たない路線でも整備が可能になることが、最大のメリットです。

民営化進んだ平成、逆行するような北神急行線の公営化 メリットあれど、懸念もある?

北神急行は、六甲山の北側にある谷上駅で神戸電鉄に接続(2010年2月、恵 知仁撮影)。

 しかし、これは反面でデメリットにもなり得ます。民間鉄道会社は増収努力とコスト削減が企業存亡に直結するため、単価の0.1円、金利の0.1%まで気を配らなければなりません。ですが、利益追求を目的としない公営鉄道はそのような感覚に乏しく、建設費や経費が私鉄よりも割高になったり、サービス向上の取り組みが遅れがちになったりします。

 こうした指摘はすでに80年以上前からされており、東急グループを作り上げた経営者の五島慶太は、数年で異動する役人が、永遠の命を持つ事業経営の責任など持つわけがないと、手厳しいコメントを遺しています。

実は「民営」も「公営」も、やってることは同じ?

 東急電鉄や阪急電鉄に代表される私鉄は、駅を中心とした沿線開発やターミナル駅での百貨店経営など、「日本型私鉄経営」と言われる独自のビジネスモデルを構築したことで知られています。

「鉄道」という巨大なインフラが生み出す価値とは、移動サービスによる時短化、省力化だけではありません。人々が暮らす、集まる、移動することで生み出される価値を、関連事業を通じて利益に変えたのです。

 こうした企業努力は公営鉄道と対照的に語られがちですが、実は公営鉄道もやっていることは同じです。たとえば自治体は都市計画と一体的に鉄道整備を進めることで、道路渋滞の緩和、都市機能の分散、人口増加や商業活性化による税収増など、民営鉄道会社では利益に換算できない価値を生み出しています。

 冒頭に紹介した神戸市の事例は、北神急行の鉄道事業が赤字になったとしても、運賃を値下げすることで沿線開発が進めば、神戸市全体では利益につながると考えているわけです。

 しかし本当に計画通り、うまくいくのでしょうか。結局、公営ではそこが一番難しいところで、風が吹けば桶屋が儲かるようなどんぶり勘定になりがちです。結果が出る頃にはトップは交代済みで、最終的に利用者へツケが回るような失敗が繰り返されたことは見逃してはなりません。今後の交渉の行方に注目です。

【地図】全線ほぼトンネル 北神急行線が走る場所

民営化進んだ平成、逆行するような北神急行線の公営化 メリットあれど、懸念もある?

神戸市の海側と山側を結ぶ北神急行電鉄北神線。そのほぼ全線が、六甲山地を貫く全長およそ7.3kmの北神トンネルだ(国土地理院の地図を加工)。

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