クルマの「幼児置き去り検知システム」が開発されました。車内放置による子どもの死亡事故は、日本だけでなく海外でも多発しており、しかも意図しない置き去りによるケースが多いそうです。
フランスを拠点とする自動車部品メーカーのヴァレオが、「幼児置き去り検知システム」を開発しました。2019年5月22日(水)から24日(金)までパシフィコ横浜で開催中の「人とくるまのテクノロジー展」(主催:公益社団法人 自動車技術会)において、日本で初めて出品しています。
後部座席で眠る子どものイメージ(画像:jes2ufoto/123RF)。
これは、車内の天井部に設置するレーダーセンサーにより、体温などから車内の生体反応を検知するというシステムです。車内に人が取り残されたまま、一定時間が経過した場合などに、ドライバーへスマートフォンなどを通じて警告を発します。なお、幼児だけでなくペットなども検知可能です。
ヴァレオの日本法人であるヴァレオ・ジャパンによると、カメラでドライバーの状態をモニタリングするシステムはすでにあるものの、ほかの乗員を対象としたシステムは、これから開発が進む分野だといいます。
「後部座席の子どもがブランケットをかぶっているなどすると、カメラでは見つけにくくなることも考えられます。生体反応を認識するシステムであれば、より確実性が高いでしょう」(ヴァレオ・ジャパン)
ヴァレオ・ジャパンは今後、自動車メーカーと仕様について詰めていく必要があるとしたうえで、将来的には車内温度を検知するシステムと連動し、車内温度が高い状態で置き去りの幼児がいた場合などに、自動でエアコンを作動させるといった機能も考えられるといいます。
日本では、パチンコ店の駐車場で車内に置き去りにされた幼児が熱中症で死亡するといった事故が後を絶ちません。全日本遊戯事業共同組合連合会によると、そうした車内放置死亡事故は、2008(平成20)年からの10年間で8件発生しており、関係団体らが注意を呼び掛けているほか、窓ガラスを割るなどの手段で救出作業を行うとしています。
こうした事故は日本だけに限りません。
アメリカの非営利団体キッズアンドカーズ(KidsAndCars.org)によると、同国では年平均で38人の子どもが、車内に放置され熱中症で命を落としているとのこと。その当事者となった親のうち、子どもの存在を「知っていて放置した」と答えているのは13%である一方、「知らずに放置した」と答えている親は56%に上ります。
日本でも2016年に栃木県で、父親が保育園に送るため後部座席に乗せていた2歳の子どもの存在を忘れ、そのまま仕事に行き、放置に気づかず死なせてしまったという事例があります。ヴァレオ・ジャパンによると、タワーパーキングで子どもが置き去りのまま駐車しているケースが稀にあり、それを予防したいという駐車場関係者からの声も寄せられているそうです。前出のキッズアンドカーズも、後部座席の子どもが寝ているなど、何かのはずみで親がその存在を忘れてしまうようなことは、誰にでも起こり得るとしています。
またヨーロッパでも、こうした事故を防止すべく2022年から、幼児の車内放置を検知してドライバーや救急などに通知するシステムが「ユーロNCAP」(消費者団体により実施される自動車安全テスト)の評価対象になります。ヴァレオが今回のシステムを開発したのも、そのような動きに対応するためです。ユーロNCAPの内容は、北米や日本などの先進国にも反映される可能性が高いといいます。

ヴァレオが開発した「幼児置き去り検知システム」。乗員とその生体反応を検知する(2019年5月22日、中島洋平撮影)。
ヴァレオ・ジャパンは、将来的に自動運転が普及すると、このような乗員を検知するシステムの重要度が、さらに高まると見ています。
「たとえばバスにおける乗客の数や、立っている人、降りようとしている人の存在などを、自動運転ではクルマ自体が認知し、状況にあった運転を判断する必要が生じるでしょう」(ヴァレオ・ジャパン)
今後、こうしたシステムが「幼児の置き去り検知」だけでない様々な機能に発展するかもしれません。