高齢ドライバーによる交通事故の報道が相次ぐなか、各都道府県警では無料の「運転適性相談」について、体制を強化しています。どのような相談ができ、どのようなアドバイスが受けられるのでしょうか。

相談者宅に出向いて行うことも

 各都道府県の免許センターなどに窓口がある、無料の「運転適性相談」件数が増加しているようです。たとえば鳥取県警では県東部、中部、西部3か所の免許センターで実施しており、相談件数は2013(平成25)年に年間514件だったのが、2018年には1231件と、年10%以上の割合で増えているとのこと。全国では2016年に年間8万4420件と、2012(平成24)年に比べ2倍以上になっています。

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高齢運転者のイメージ(画像:Akhararat Wathanasing/123RF)。

「運転適性相談」とは、どのようなアドバイスが受けられるのか、鳥取県警免許課に聞きました。

――どのような方を対象に、どのような対応をするのでしょうか?

 おもには、統合失調症やてんかん、認知症といった免許の取り消し事由に該当する「一定の病気」にかかっている人から、運転免許の取得、更新、継続に関する相談を受け付けています。相談の内容により、医師の診断を求め、その診断結果によっては免許の停止・取り消しもあります。

 また、高齢者の家族から「小さな事故を繰り返していて危ないので、運転をやめさせたいが、本人が納得しない。どうしたらよいか」といった相談が寄せられることもあります。その場合、タブレット端末を用いた「スクリーニング検査」(言語や図形の認識能力などを測るプログラム)などを通じて、運転者本人に認知機能の低下を自覚させつつ、免許の自主返納をうながしていくことも行っています。相談者が身体的な理由などで窓口に足を運べない、あるいは家族が自主返納を勧めていても本人が応じない場合などには、こちらから相談者宅へ出向いていくこともあり、地域包括支援センター(自治体が設置する地域の保健・福祉の拠点)とも連携しています。

病気対策から高齢者対策へ、拡大した役割

――若者でも相談できるのでしょうか?

 可能です。

てんかんなどの病気は年齢にあまり関係なく、本人が担当医に勧められるなどして来られる場合もあります。

※ ※ ※

 鳥取県警が窓口を開設し、本格的に運転適性相談を開始したのは2007(平成19)年のこと。もともとは病気や障害を抱えた人向けの運転適性相談という側面が強かったそうですが、近年は、高齢者による事故を防止する観点から、より広く、手軽に相談できる体制を整えてきたといいます。

「2011(平成23)年に栃木県鹿沼市や、翌年に京都の祇園で相次いで起こったてんかんの運転者による死傷事故を背景に、2014(平成26)年、このような『一定の病気』対策を柱とする改正道交法が施行されました。さらに、2017年3月には高齢運転者対策を柱とした改正道交法が施行されたこともあり、相談件数が増加の一途をたどっていると考えられます」(鳥取県警運転免許課)

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鳥取県警による運転適性相談の広報チラシ(画像:鳥取県警)。

 運転適性相談は、免許の自主返納をためらう高齢者の背中を押す役割も大きいといいます。鳥取県警運転免許課は、「最も多いのは、ドライバーご本人が身体能力の衰えを自覚できないケースです。そうした方にスクリーニング検査などを行い、ご家族にも理解を深めていただき、納得して返納いただくためにも、相談が重要です」と話します。

知らない人多い? 相談窓口、PRが課題か

 2019年4月に東京・池袋で発生した87歳のドライバーによる死傷事故を皮切りに、6月現在も、全国の高齢ドライバーによる事故が連日のように報道されています。こうしたなか、東京などでは免許を自主返納する人が急増しているともいわれますが、鳥取県では「微増に留まる」とのこと。

「地方では公共交通機関が発達していないこともあり、免許返納により日常の足を失うことへの不安が非常に強いです。運転適性相談では、免許返納後に受けられるタクシーチケットの配布やバスの割引といった支援策も案内しています」(鳥取県警運転免許課)

 警察庁も、高齢者事故の防止に向け、運転適性相談の強化を全国の警察に通達しています。

ただ、警察庁が過去に行った一般向けのアンケートでは、6割の人が相談窓口の存在を知らなかったという結果も。池袋の事故以降、鳥取県警のほか、たとえば群馬県警や熊本県警でも免許返納の件数は増加したものの、運転適性相談の件数はほとんど変わっていないと口を揃えます。

 鳥取県警運転免許課は、「医師会や地域包括支援センター、指定自動車教習所などの関係機関を通じて、周知は進んでいると認識しています。県民の皆様に対しては『運転に不安を覚えたら、まずは相談』『運転適性相談イコール免許の自主返納ではない』といったところをアピールしたいと考えています」としています。

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