屋根から吊り下げられた給油機器を使っているガソリンスタンドが、数を減らしているといわれます。給油口の位置に関係なく給油でき、クルマも移動しやすいといったメリットもありますが、確かに採用されなくなっているようです。

昭和の東京オリンピックごろに開発された懸垂式

 ガソリンスタンドの屋根から吊り下げられた給油機器、これを「懸垂式計量機」といいますが、最近少なくなっているといわれます。実際にはどうなのでしょうか。

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懸垂式ガソリン計量機の例。東京23区内にて(2019年6月、乗りものニュース編集部撮影)。

 計量機メーカー大手のタツノ(東京都港区)は、「懸垂式はスペースの制約がある都市部で多く採用されているもので、地上に据え付けられる固定式の計量機と比べて、もともと数は少ないです」と話します。懸垂式計量機は、同社が世界で初めて開発し、特許を取得しているものだそうですが、近年の固定式計量機との出荷比率を勘案すると、採用されているのは全体の5%ほどではないかといいます。

「懸垂式計量機を最初に発売したのは1963(昭和38)年です。当時、東京オリンピックの開催を翌年に控えて道路の整備が進められ、SS(サービスステーション=ガソリンスタンド)の開業も増加していましたが、都市部では地価の高騰により広い敷地が確保できない、狭い敷地内で計量機と車両の動線が交錯し、スムーズな出入りができない、といったことが懸念され、省スペース化を実現するために開発しました」(タツノ)

 懸垂式は現在も、敷地の確保が難しい都市部のガソリンスタンドや、自家給油所(運送会社などが自前で設けるガソリンスタンド)で採用されているとのこと。狭い敷地を有効活用できるだけでなく、車両の動線上に障害物がないので見通しがよく安全、給油可能範囲が広く停車位置を気にする必要がない、といった点がメリットだそうです。

「セルフ」では採用されない

 もともと少数派の懸垂式計量機、それがことさら近年、見かけなくなっているといわれるのは、セルフ式スタンドの増加にあるかもしれません。タツノによると、懸垂式は法令的には、客が自ら給油するセルフ式スタンドでの運用も認められているものの、実際にそうしているスタンドはないといいます。

 日本エネルギー経済研究所 石油情報センターによると、1998(平成10)年に解禁されたセルフ式スタンドは、2018年度末時点で全国9928か所まで増加しています。

一方、資源エネルギー庁によると、ガソリンスタンドの数自体は1994(平成6)年の6万421か所をピークに、2017年度末には3万747か所と、ほぼ半分まで減りました。スタンドの減少は東京をはじめとする都市部で特に顕著です。

ガソリンスタンドのぶら下がってる給油機器、見なくなったワケ 背景にセルフの普及か

タツノが販売している懸垂式計量機では、店内の標示装置のほか、手元のノズルでも給油量が確認可能。大型車に標示装置が隠れてしまっても安心して給油できるという(画像:タツノ)。

 また、タツノによると、固定式の計量機は1台に給油のシステムが集約されているのに対し、懸垂式の場合は、地下の貯蔵タンクからガソリンをくみ上げるポンプ装置や動力制御装置、給油量や値段を示す標示装置、屋根に吊り下げられた給油ホースの格納部が分散しており、システムを構築するために配管工事費などが発生するため、どうしても費用が高くなるとのこと。近年増えている郊外の大規模なセルフ式スタンドなどでは、懸垂式を選ぶ利点は小さいのかもしれません。

 とはいえ、特に東京都内のガソリンスタンドでは、いまだ懸垂式のシェアは比較的高く、タツノも安全性や操作性をさらに高めた新型の開発を進めています。日本から始まった懸垂式計量機、いまではインドやフィリピン、中国、韓国、タイといった海外の採用例もあるそうです。

【画像】懸垂式ガソリン計量機の仕組み

ガソリンスタンドのぶら下がってる給油機器、見なくなったワケ 背景にセルフの普及か

地下の貯蔵タンクからガソリンをポンプでノズルまでくみ上げる。ノズルの昇降は店内に据え付けられたボタンで行う(画像:タツノ)。

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