トイレの個室に忘れ物をすると音声で知らせたり、個室の内鍵が小物置き場になっていたり……高速道路SA・PAのトイレがいま、忘れ物対策を進化させています。背景にはトイレならではの事情がありました。
2019年7月29日(月)に移転オープンした東北道の蓮田SA(埼玉県蓮田市)上り線では、トイレが“しゃべる”ことがあります。個室の便器の後ろに荷物棚があり、そこに物を置いて個室から立ち去ろうとすると、「お忘れ物はございませんか」と、スピーカーから声がするのです。
2019年7月に移転オープンした東北道 蓮田SA上り線のトイレ。個室に「トイレ忘れ物防止システム」が導入されている(2019年7月、恵 知仁撮影)。
この「トイレ忘れ物防止システム」は、NEXCO東日本の関連会社であるネクスコ東日本エンジニアリング(東京都荒川区)が開発しました。荷物棚の端に設置された赤外線のセンサーが物を感知し、それが置かれた状態で個室の扉が開きスイッチが入ると、スピーカーから音声を流すという仕組みです。仮に、その人が荷物棚の物を持ち帰らなかった場合、次に個室へ入った人が立ち去る際には、音声は流れません。これにより「忘れ物」か「ゴミ」かも判断できるといいます。
「従来から、看板やチラシなどで忘れ物への注意喚起を行っていましたが、数が大きく減りません。そこで、物理的にアクションを起こす仕組みを導入しました」(NEXCO東日本 関東支社)
このような仕組みはNEXCO中日本も一部のPAで導入しています。こちらはトイレの天井に設置したセンサーが人や物の動きを輪郭から検知し、個室内での人の倒れ込みや忘れ物をAI(人工知能)が推定するというものです。
この「アウトラインセンサー」は、個室ドアの開閉と連動して、入室後に一定時間が経過しても人の動作に変化がなければ「倒れ込み」と判定、あるいは退室時に10×5cm程度の物が残っている場合は、瞬時に「忘れ物」と判定し、やはり「忘れ物はありませんか」と音声が流れます。
これらシステムが開発された背景には、個室トイレにおける急病人対応の難しさ、そして遺失物の問い合わせ件数の多さがあります。個室内での急病人は、発見まで相応の時間が経過してしまう場合があるほか、遺失物に関する問い合わせはNEXCO中日本管内で2017年度に2万件を超えており、その多くがトイレ内で発生しているそうです。
「トイレで忘れ物をして、その場所を覚えていないというお問合せがあった場合は、SA・PAのエリアキャスト(清掃スタッフ)やコンシェルジュ(休憩施設の案内係)が1室1室開けて調べることもあり、時間を要します。この業務の削減とともに、お客さまの忘れ物防止に役立つことができればと考え、『アウトラインセンサ-』の開発をスタートしました」(NEXCO中日本)
NEXCO中日本がSA・PAのトイレに導入している「アウトラインセンサ-」の概要(2019年7月、恵 知仁撮影)。
ちなみにNEXCO東日本北海道支社は道内のSA・PAにおいて、トイレ個室の内鍵のノブそのものを9×17cmの小物置き場にした「忘れ物防止トレイ」を導入しています。スマートフォンの忘れ物が多いことに着目し、個室を出ていく際に必ず見て触れる内鍵をその「置き場」にしてしまうという発想ですが、これにより忘れ物が減り、回収業務に要していた時間は従来の半分以下になったそうです。
NEXCO東日本は、先の「トイレ忘れ物防止システム」や、この「忘れ物防止トレイ」の導入拡大も視野に、「SA・PAのトイレにおける忘れ物の処理には時間がかかるので、忘れ物そのものをなくす発想で、対策を検討しています」と話します。

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