遅延を気にして、高速バスの利用を避ける人もいるかもしれません。確かに突発的な渋滞に巻き込まれることもありますが、予測できる渋滞は以前よりも回避しやすくなっているなど、バス会社も様々な対策を取っています。

大きく「ふたつ」に分かれる遅延対策

 高速バスを利用する際、多くの方は渋滞による遅延が気になることでしょう。バス事業者は、遅延に対してどのような対策を打っているのでしょうか。

「高速バス=遅延が心配」払拭なるか 利用者も知っていると役に...の画像はこちら >>

高速バスは渋滞にどう対策しているのか。写真はイメージ(画像:photolibrary)。

 ひと口に遅延対策と言っても、「遅延そのものをいかに減らすか」と、遅延したとしても「いかに乗客らにストレスを感じさせないよう工夫するか」という、ふたつの対策に分かれます。前者のほとんどは高速道路会社(NEXCO東日本、中日本、西日本など)によるもので、たとえば、東名高速に対する新東名、名神高速に対する新名神の建設による「ダブルネットワーク」化が挙げられます。

交通が分散し渋滞が発生しづらくなるほか、どちらかが事故や工事で不通になったとしても、もう一方を利用することで、渋滞を回避できるようになります。

 そのうえで、バス事業者ができる対策としては、渋滞時の迂回運行が挙げられます。高速バスは、法令上は乗合バス(路線バス)ですから、原則として国から許可・認可を受けたルートしか走ることができません。ただし、迂回運行が想定されるルートも事前に路線申請しておくことで、渋滞を避けて運行することができます。

 以前は、事故や災害による通行止めのほか、実際に渋滞が発生している場合にのみしか迂回が認められていませんでした。しかし2012(平成24)年の制度改正により、「渋滞が予測される」場合も迂回運行が可能になり、渋滞対策として、本来の経路を大きく変えるようなケースも見られるようになりました。

東北道が渋滞していないのに「常磐道へ迂回」も

 たとえば、仙台を日曜昼に発車する東京行きの場合、出発の時点では東北道上り線の道路状況は「順調」なのが一般的です。しかし、夕方へ近づくにつれ蓮田SA(埼玉県蓮田市)付近などで渋滞が始まり、バスが東京に近づいた頃には大渋滞、ということが予測されます。制度改正により、実際にはまだ渋滞が発生していない仙台発車の時点で、渋滞が比較的少ない常磐道経由に切り替えることができるようになったのです。

 なお、事故や災害による高速道路の通行止めなどにより、本来のルートを全く走行できない場合は、一定の範囲で、迂回路として申請していない経路でも迂回することが認められています。

「高速バス=遅延が心配」払拭なるか 利用者も知っていると役に立つ渋滞対策

八潮PAに停まる茨城交通のバス(2018年12月、中島洋平撮影)。

 また、終点手前の停留所で鉄道などへの乗り換えを促し、都心部の渋滞を避ける利用法を勧めるケースもあります。

茨城交通や関東鉄道などが運行する常磐道経由の高速バス各路線(東京~日立、東京~水戸など)の上り便では、首都高6号線の上り線が渋滞している際、乗客の希望があると、本来は停留所ではない首都高の八潮PA(埼玉県八潮市)に立ち寄ります。ここから、つくばエクスプレス八潮駅へは徒歩6分と便利です。つくばエクスプレスへの乗り継ぎ乗車券を、100円(八潮~秋葉原の通常運賃は480円)でバス乗務員から購入することができます。

渋滞免れぬなら「時刻表を変えてしまう」!

 一方、遅延が発生してしまった場合に、高速バス事業者が乗客や出迎え客にわかりやすく情報を伝える努力も行われています。

 高速道路における渋滞のなかでも、平日の朝、都心部に向かう通勤ラッシュ渋滞は、天候などにより多少の変化はあるものの、毎日一定の規模で発生します。そこで、一部の路線では朝の上り便を中心に、ほかの時間帯と所要時間に差を設けているのです。

 たとえば、京王やアルピコ交通などが運行する新宿~松本線は、朝ラッシュ時に新宿へ到着する上り便のみ、あらかじめ40分ほど所要時間が長く設定されています。また、京成バスや関東鉄道、ジェイアールバス関東による東京~鹿島線の上り便(東京駅行き)は、平日・土曜日と日曜・祝日とでダイヤを分けており、朝のラッシュ時を中心に、所要時間が最大で20分、異なります。

「高速バス=遅延が心配」払拭なるか 利用者も知っていると役に立つ渋滞対策

東京駅八重洲南口に発着する鹿島神宮行き高速バス。本数は関東でもトップクラスで、通勤利用も多い(2016年9月、中島洋平撮影)。

 このように、明らかに予測される渋滞をあらかじめ見越して到着時刻を設定することで、乗客としては、それを元に予定を組むことができます。前出の松本~新宿線では、朝の上り便は渋滞を前提に、休憩場所も本来の双葉SA(山梨県甲斐市)から談合坂SA(同・上野原市)に変更しており、乗客も乗務員も、適切な間隔で休憩を取ることができています。

重要なのは遅延の「見える化」 実はかんたんにできる

 ただし、事故などによる渋滞や通行止めなどは、事前に予測できないものです。そこで、出迎えの人などに対し遅延状況をリアルタイムに伝える取り組みが重要になります。たとえばジェイアールバス各社などは、ウェブ上でバスの現在地や遅延状況を確認できる「バスここ」を導入しているほか、西鉄天神高速バスターミナル(福岡市中央区)の降車ホームには、出迎えの人向けに、到着便の現在地を表示するディスプレイが設置されています。

「高速バス=遅延が心配」払拭なるか 利用者も知っていると役に立つ渋滞対策

西鉄天神高速バスターミナルの降車ホームでは、到着予定便の運行状況がリアルタイムで示される(2018年11月、成定竜一撮影)。

 厳密にいうと高速バスではありませんが、京浜急行バスの空港連絡バスは、最新の運行状況とともに、各路線の時間帯別平均所要時間をウェブサイト上で公開しています。「どれくらい遅れるか」という予測を公表することは難しいのですが、「ふだんはこのくらいの所要時間で運行している」という事実を公表することで、乗客は参考にすることができるのです。

 実は、もっとかんたんにできる取り組みもあります。これまでSAなどで休憩が終わって発車したあと、乗務員が「現在、〇分遅れて運行しています」などと車内アナウンスする会社が中心でした。その放送を、休憩の前に行うことで、乗客は休憩中に車外から待ち合わせ相手や出張先の会社に電話し、待ち合わせの調整やタクシーの手配が可能になります。

 年末の帰省ラッシュに向けて、高速バスの利用を検討する人が増えるでしょう。2019年末は、12月28日(土)の午前が帰省ラッシュのピークになると思われ、27日(金)発の夜行便も遅延が予測されます。乗車日をずらすだけで渋滞の影響は大きく異なりますので、高速道路会社から事前に発表される渋滞予測を参考に、帰省や旅行の日程を決めることも重要です。