ドイツはその工業技術と、陸軍国という背景から、これまで優れた戦車を多数生み出してきました。特に第2次世界大戦では、いまに名を残す名戦車が多数誕生し、その戦車技術は世紀をまたいで現役で使われ続けています。
第2次世界大戦中、ドイツの戦車技術は常に世界をリードしていました。特に大戦中盤以降、ネコ科の名前を付けるようになった一連の戦車、いわゆる「ティーガー(タイガー)」や「パンター(パンサー)」、「ティーガーII(キングタイガー)」などは優秀な性能を持つ戦車としていまに名を残しています。
フランスのソミュール戦車博物館が所有する、2019年現在、稼働する「パンター」戦車(2019年6月、柘植優介撮影)。
特に「パンター」戦車については、戦車の性能を測るうえで重要な指標となる走攻防の3要素が、高い次元でバランスがとれていたことから、第2次世界大戦後も近隣諸国で使われ、21世紀になった現在もその技術は生き続けています。
そもそも、ドイツの「パンター」は1942(昭和17)年に開発がスタートし、1943(昭和18)年から量産が始まった重量約45tの戦車で、1945(昭和20)年5月の敗戦までに各タイプ合わせて約6000両生産されました。
「パンター」は対ソ連の東部戦線、対米英の西部戦線の両方で用いられましたが、両方の戦線とも鹵獲された車両が、ソ連軍とイギリス軍で使用され、母国ドイツに対して今度は牙をむくようになりました。
自国技術がないならドイツの技術をパクッてしまえソ連軍はドイツと激しい戦車戦を1941(昭和16)年から繰り広げており、III号戦車やIV号戦車など含めて鹵獲したドイツ軍戦車を自軍装備として用いていました。「パンター」も「V号戦車」という型式名から、「T-5(もしくはT-V)」という自軍名称で運用しています。

第2次世界大戦後の1946(昭和21)年、ルーマニア国内をパレードするルーマニア陸軍の「パンター」戦車。
西部戦線では、イギリス軍が戦場で鹵獲した「パンター」に連合軍所属であることを示す白星を描いて、自軍戦車として用いました。
ソ連とイギリスの使用期間は、あくまでも第2次世界大戦中に限定されましたが、戦後もパンターを運用した国がありました。それはフランスとルーマニア、ブルガリアです。
とくにフランスは、鹵獲した車両に加えて、戦後、自国の戦車工場で予備部品を再生産させ、国産戦車が登場するまで自軍の戦車部隊で運用していました。
しかもフランスは、第2次世界大戦中、本土がドイツに占領されていたため、その間、戦車開発が途絶えてしまったことから、米英ソといったほかの戦車開発国に手っ取り早く追いつくために、なんと「パンター」の技術コピーまで行いました。
たとえば戦車砲。第2次世界大戦後、フランスはAMX-13軽戦車や、装輪式のEBR戦闘偵察車などを開発しましたが、これらに搭載された75mm砲の原型となったのが、ドイツの「パンター」戦車が搭載していた7.5cm戦車砲でした。「パンター」と比べて車体が小さい両車に搭載するために、砲身長こそを短くしたものの、それ以外の構造はほぼ一緒でした。
21世紀になってもなお生き続けるドイツ戦車技術さらにイスラエルやエジプトは、自軍が装備する中古のM4「シャーマン」戦車の火力を強化するために、AMX-13軽戦車の75mm砲を移植し、独自の改良型を各々生み出しました。イスラエルは主砲のみの換装でしたが、エジプトは砲塔ごと移植し、M4「シャーマン」の車体と合体させました。いわば、敵国同士であった米独戦車の融合です。

戦後フランスが開発したEBR戦闘偵察車。同車の75mm砲は「パンター」の7.5cm砲が原型(2017年6月、柘植優介撮影)。
その後AMX-13軽戦車は、火力強化のために主砲を90mm砲に換装しますが、この90mm砲は、前述の75mm砲の口径アップ型で、「パンター」の7.5cm砲の進化版といえるものでした。
AMX-13軽戦車は小型高性能な戦車として輸出にも成功し、世界20か国以上で採用され、いまだにペルーやインドネシア、モロッコなどでは現役です。
「パンター」戦車が生まれてからすでに75年以上経っています。しかし21世紀に入った今日においてもなお、パンターの技術は現役で使われ続けています。