海中の島や河川の対岸に攻撃する際、上陸部隊とともに水上を渡って行ける戦車があったら……というのはやはり誰しも考えたようで、これまで各国でさまざまな水陸両用戦車が開発されてきました。そのなかから5つを見ていきます。

日本の水陸両用戦車は小型船?

 戦車は、各種戦闘車両のなかでも比較的高い機動性を有していますが、優れた悪路走破性を持っていても越えていけないのが水面です。川や海を越えるために輸送船やはしけなどが用いられますが、その一方で戦車自体に水陸両用性能を付与し、水上航行できるようにしてクリアした「水陸両用戦車」も、各国で研究されてきました。

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太平洋戦争終結後、南太平洋にあるニューブリテン島ラバウルでオーストラリア軍の調査を受ける旧日本海軍の特二式内火艇(画像:アメリカ海軍)。

 水陸両用戦車は、潜水して海や川を渡る「潜水戦車」と、船のように水上航行で渡る「浮航戦車」に分類されますが、実戦に投入されたのはほとんど後者です。

 ただし浮航といっても、大重量の車体を水に浮かべ航走するために、各国が採用した車体構造は多種多様でした。専用設計だけでなく、既存車体の改造もあり、推進方式もスクリューやウォータージェットだけでなく、履帯の回転によるものもありました。そのなかから、おもな5車種について見ていきます。

特二式内火艇(日本)

 旧日本海軍が、上陸作戦用に開発した水陸両用戦車が「特二式内火艇」です。「内火艇」とは、艦艇に搭載するエンジン付きの小型船のことで、そのような名称がつけられたのは、新型兵器として実態を秘匿するためでした。

 主砲は37mm砲で、このほかに7.7mm重機関銃2丁を装備し、潜水艦による水中輸送を考慮して車体は水密化が図られていました。車体後部には水上航行用に2基のスクリューを装備しており、浮力を確保するために車体の前後には着脱式フロート(浮き)を付けますが、これらは上陸後に車内からの操作で外れるようになっていました。

 終戦までに約180両が完成し、一部は1944(昭和19)年のフィリピン戦において、進攻してきたアメリカ軍を攻撃するために、海軍陸戦隊員400人とともに強襲逆上陸を実施しています。

英の水陸両用戦車はあのノルマンディー作戦へ投入

 上陸作戦を行う際、火力支援のために戦車がいると非常に心強いです。

シャーマンDD(イギリス/アメリカ)

 第2次世界大戦中、イギリスがノルマンディー上陸作戦の前に、既存のアメリカ製M4「シャーマン」戦車を改造する形で生み出したのが「シャーマンDD」戦車です。

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「シャーマンDD」を後方から見た写真。車体後方下部に増設されたスクリューが確認できる(画像:帝国戦争博物館/IWM)。

 浮力を確保するための折り畳み式「防水スクリーン」と、車体後部に2基装備したスクリューが特徴です。水上航行時はスクリーンを砲塔の上まで伸ばし、横からはバスタブ状のものが浮いているように見えます。そのため、原型のM4戦車と同じ75mm戦車砲を搭載していましたが、水上で主砲や機銃を撃つことはできませんでした。

 ノルマンディー上陸作戦では、イギリス軍以外にカナダ軍やアメリカ軍でも使われ、高波などで沈没した車体もありましたが、上陸に成功しフランス内陸部に向けて進撃したものもありました。

PT-76(ソ連)

 PT-76は、第2次世界大戦直後に旧ソ連が開発した戦後型の水陸両用戦車で、フロートやスクリーンの展張が必要ない船型車体に、ウォータージェット推進構造を採用していました。

 主砲は76.2mm砲で、ほかに7.62mm機関銃を2丁装備しています。1951(昭和26)年からソ連海軍歩兵などに配備が始まりましたが、安価な軽戦車として数多くの友好国に供与された結果、水陸両用戦車というニッチな車体ながら約1万2000両もの大量生産が行われました。

水陸両用戦車も主砲の大口径化が続く

 国土の各地に湖沼が広がり、バルト海を挟んで旧ソ連と対峙していたスウェーデンの、第2次世界大戦後に独自開発した水陸両用戦車がIkv 91です。

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ボービントン戦車博物館で動体展示されるスウェーデンのIkv 91(柘植優介撮影)。

 フロートやスクリーンを使わず、浮力を確保するため重量の割に大柄な車体で、航行時は車体前部へ波切り板を立て、推進力は履帯の回転によって生み出します。主砲は90mm砲で、このほかに7.62mm機関銃2丁や、71mmてき弾発射機2門を搭載し、さらにNBC防護装置も装備していました。

 1975(昭和50)年から210両が生産されましたが、旧式化により現在は全数退役しています。

05式水陸両用戦車(中国)

 2020年現在、世界で最も新しい水陸両用戦車は、中国の「05式水陸両用戦車」です。中国が独自開発した水陸両用戦車で、水上航行はウォータージェットで行います。

 主砲は対戦車ミサイルも発射可能な105mm砲で、このほかに12.7mm重機関銃と7.62mm機関銃を1丁ずつ装備します。また輸出にも成功しており、ベネズエラでの運用が確認されています。

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 なお、空挺戦車として知られるアメリカのM551「シェリダン」も、水上航行が可能な戦車のひとつです。

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