フリーきっぷ「都区内パス」を購入のうえ、大崎駅からJR山手線の始発電車に乗り、外回りを2周しました。出発から約2時間、早朝の電車が徐々に通勤電車に変わっていく様を、利用者の人間模様とともに観察しました。

都区内パスを購入し、大崎駅始発でJR山手線を2周

 2月上旬のまだ真っ暗な午前4時、東京都品川区の大崎駅には、こうこうと明かりがついていました。まだ誰もいるまいと予想した筆者(蜂谷あす美:旅の文筆家)を裏切り、そこには先客が3人、シャッターの下ろされた改札口前で時間を過ごしています。また、シャッターから少し離れた場所にも人の姿が見られました。週の半ば水曜日の、始発電車が走る前の光景です。

午前4時 山手線一番列車に乗ってみる 交錯する「朝の人」と「...の画像はこちら >>

日中のJR山手線を走るE235系電車。始発の様子は普段の光景とはひと味違う(画像:写真AC)。

 4時12分、きしんだ音とともに改札口のシャッターが上がっていきます。開ききるよりも早く入場する人もいました。私は東京23区内の普通列車が乗り降り自由になるきっぷ「都区内パス」を購入し、ホームに向かいます。

 大崎駅の始発電車は外回りのJR山手線です。「まもなく4番線に当駅始発、渋谷・新宿方面行きがまいります」とアナウンスが流れ、4時16分には見慣れた11両編成の電車がホームへ入って来ました。しかしドアはまだ開きません。

見渡せば、車両ごとにひとり、ふたりがホーム上に待機しています。

 ドアが開いたのは4時22分、発車時刻の5分前でした。私は6号車に乗り込みます。発車メロディに合わせて周囲を確認すると、同じ車両に乗り合わせたのは私を含め4人でした。

 五反田駅、目黒駅、恵比寿駅と進んでいくなかで席はだんだんと埋まり、空席は残り3割といったところです。大きなスーツケースを持った4人組は並んで座れず、ばらばらに着席していました。

主要駅のたび入れ替わる客層 空港へ向かうと思われる人も

 動きがあったのは渋谷駅です。一気に20人以上が乗り込んで来ました。その大半は、深夜の街を楽しんだと思しき若い人。夜の延長を過ごしている人と新しい朝を迎えた人が混ざり合っている空間には、立ちながら眠りこける人も見られます。

 その後、新宿駅で10人ほどが下車しました。うとうとしていた人が発車メロディに起こされ、慌てて降りていきます。

 電車は進み、池袋駅で20人ほどが下車しました。渋谷駅から乗車した女性ふたり組の片方が、もうひとりの名を呼びホームへ連れ出していきます。入れ替わるように新たに乗り込んだ学生風のふたり組は、「チーフが云々」と小声で喋っていたので、きっと居酒屋バイト帰りなのでしょう。車内は再び閑散とします。

午前4時 山手線一番列車に乗ってみる 交錯する「朝の人」と「夜の人」 その人間模様

改札口のシャッターが開く前の大崎駅(2020年2月5日、蜂谷あす美撮影)。

 巣鴨駅から70代前後と思われる4人組が乗車し、にぎやかなお喋りを始めました。服装からハイキングに行くことがうかがわれます。

 次に大きな動きがあったのは5時4分の日暮里駅です。スーツケースを引っ張る人、親子連れ、リュックを背負った人たちが駅到着前に立ち上がり、ドア付近に移動、一斉に下車していきます。きっと京成線に乗り換えて、成田空港を目指すのでしょう。

 気づけば周囲の年齢層は高めになっており、ツアーバス車内のような雰囲気になっていました。にぎやかな4人組が東京駅で下車すると、向かいに停車したJR京浜東北線から3人が乗り換えて来ます。

さらに次の有楽町駅では通勤姿の7人が乗車。パンの入ったコンビニ袋を提げている人もいます。

通勤ラッシュ前 まだすっきりとしている車内

 新橋駅では15人ほどが下車したのに対し、乗車したのは5人ほどでした。また車内が空いてきます。そろいの作業服に身を包んで乗り込んだ4人組は、その日の仕事について語り合っていました。

 日暮里駅で見かけた人たちよりも小ぶりなスーツケースを携えた人たちが、5時23分に浜松町駅で下車しました。同駅からは東京モノレールが発着しているので、目的地は羽田空港でしょうか。

午前4時 山手線一番列車に乗ってみる 交錯する「朝の人」と「夜の人」 その人間模様

大崎駅の始発はJR山手線の外回りで、午前4時27分発(2020年2月5日、蜂谷あす美撮影)。

 山手線を1周し、スタート地点の大崎駅に戻って来たのは5時32分でした。4人で始まった6号車の車内は、30人ほどに増えていました。まだ夜は明けていません。都区内パスを持っているので、もう1周することにします。

 約1時間前は大勢が乗り込んで来た渋谷駅ですが、2周目に観察していると、乗車したのはたった4人でした。遊び疲れた若者は最早、見られません。きっとこれまでに発着した列車で、帰宅の途についたのでしょう。そのせいか車内は1周目よりもすっきりとしています。原宿、代々木を静かに発着していくなか、カバンを抱えて眠るスーツ姿の人もいます。通勤ラッシュ前、まだ余裕で座れる時間帯です。

 新宿駅でも乗客数にさほど変化はなく、ラクロスのラケットを背負い、朝練に向かうのであろう女子大学生ふたり組が乗り込んで来たくらいでした。

JR山手線は徐々に「通勤電車」の様相へ

 各ドアから5、6人ほどが乗り込み、座席がすべて埋まったのは5時52分の高田馬場駅でした。立ち客も10人以上見られます。

 池袋駅では15人ほどが乗り込み、以降は東の空が白んでいくのに合わせて、山手線は早朝の電車から「通勤電車」へと様相を変えていきます。夜の延長上の人たちやハイキングに向かう人たちによって醸成された1周目の牧歌的な雰囲気はすでにありません。周りの人は皆、新聞を読んだり、スマホをいじったり、あるいは眠っていたり、自分だけの時間を過ごしています。

午前4時 山手線一番列車に乗ってみる 交錯する「朝の人」と「夜の人」 その人間模様

通勤ラッシュを控え混雑するJR山手線も、約2時間前の始発電車はガラガラだった(2020年2月5日、蜂谷あす美撮影)。

 6時34分、車内から眺める品川駅のホームには整列乗車の列が形成され、各ドアから10人以上が乗り込んで来ました。いよいよ東京の通勤ラッシュが始まるのだと実感します。きっとこれからは、列はどんどん伸びていくのでしょう。

 仕事に向かうであろう人たちと入れ替わりで、私は6時37分に大崎駅で下車しました。コンコースには、乗り換えのために早足で移動する人もいれば、6時45分オープンのそば店に並ぶ人も。6時15分から営業している駅ナカのカフェは席の8割ほどが埋まり、駅にはにぎやかな平日朝の空気がありました。

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