砲兵は「戦場の女神」と呼ばれることもありますが、まさに神のごとく敵の頭上を飛び回り、砲弾を降らす飛行機があります。その名はAC-130。

「毒針」や「幽霊」などと名付けられた攻撃機は、いったいどんなものなのでしょう。

アメリカ空軍にしかない唯一無二の特殊な攻撃機 AC-130

 装備も人員も世界最大規模であるアメリカ空軍は、他国の空軍では装備しないような特殊機も多数運用しています。それら特殊な機体のなかでも異色なのが、AC-130攻撃機でしょう。

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対空ミサイル妨害用のフレアを射出しながら飛ぶAC-130(画像:アメリカ空軍)。

 AC-130は、航空自衛隊や海上自衛隊も運用するC-130「ハーキュリーズ」輸送機の対地攻撃機型です。機体各所にりゅう弾砲や機関砲を搭載し、空から砲弾の雨を降らしますが、このような特殊な攻撃機を、アメリカ空軍は2020年現在、30機以上も装備しています。

 すでに最初のタイプが誕生してから半世紀以上の歴史があるAC-130ですが、現役なのはAC-130W「スティンガーII」およびAC-130J「ゴーストライダー」で、両者は武装が異なります。前者は30mm機関砲を1門だけなのに対して、後者は30mm機関砲1門に加えて105mmりゅう弾砲を1門装備しています。AC-130はりゅう弾砲や機関砲に加えて各種対地ミサイルや精密誘導爆弾を投射できる能力を持っており、ミッションに合わせて使い分けたり、組み合わせたりします。

 AC-130Jが搭載する105mmりゅう弾砲は、威力こそ30mm機関砲を凌駕するものの、発射速度が遅く最大でも1分間に10発しか撃てません。それに対し、30mm機関砲は1分間に最大200発、連射できます。

 もちろん使い方も異なり、105mm砲弾は着弾地点を中心に半径20mから30mの範囲を爆風や破片によって破壊する、いわゆる面制圧的な攻撃用途なのに対して、30mm機関砲はピンポイントの貫徹力が高く、敵の装甲車両や強固な建造物を連射で破壊するといった用途です。

 ちなみに30mm機関砲については、空軍のA-10「サンダーボルトII」攻撃機が装備する30mmガトリング砲と弾薬の互換性があります。

AC-130開発の発端はベトナム戦争 すでに半世紀以上の実績

 AC-130を開発する契機になったのはベトナム戦争でした。ベトナム戦争は、ジャングルのなかでのゲリラ戦が主体で、密林にひそむ敵を攻撃するためには、従来の攻撃機のように高速で一撃離脱するやり方では効果が薄く、目標上空にとどまり連続して攻撃を加えられる機体が求められました。

 またゲリラの活動は夜間が主体だったため、夜間作戦能力も必要とされ、長時間滞空可能で、なおかつ夜間飛行できるものとして、ヘリコプターではなく輸送機改造の攻撃機が誕生したのです。

上空から放たれる圧倒的火力 105mm砲搭載のガンシップ「AC-130」 その性能とやらは?

薄暗いなか、105mm砲を発射するAC-130H(画像:アメリカ空軍)。

 最初に開発されたのは双発のC-47輸送機を改造したAC-47「スプーキー」でした。1964(昭和39)年8月に最初の機体が作られ、最終的に53機が製作されましたが、C-130A輸送機をベースにした新たな対地攻撃機の開発が始まったため、繋ぎの機体として使用され、1969年末で全機運用を終了しています。

 このほか、C-47よりも大きな輸送機の流用で作られた、AC-119「シャドウ」やAC-123「ブラック・スポット」が1960年代後半に登場し、これらはAC-130の数がそろうまで使われました。

 1967(昭和42)年6月、C-130Aベースの対地攻撃機AC-130Aがベトナムで実戦テストを開始、7.62mm機関銃4丁、20mmバルカン砲4門を搭載し、高い戦果を挙げます。この結果を受けAC-130の増備が決定され、新型のC-130EをベースにしたAC-130E「ペイブ スペクター」が開発されました。同機は1973(昭和48)年の改良で、より強力な105mmりゅう弾砲が搭載され、こうして史上類を見ない大火力を搭載した攻撃機が生まれました。

AC-130の個性は足の遅さと屈指の火力

 AC-130は輸送機ベースのため、ほかの攻撃機と比べてスピードの遅さが欠点ですが、目標上空にとどまって攻撃を加え続けられるという唯一無二の長所があります。

この長所は、敵が強力な戦闘機戦力や対空火器を装備していない場合には大きなメリットで、それゆえにベトナム戦争後も、マヤグエース(マヤゲス)号人質救出作戦やグレナダ侵攻、パナマ侵攻、湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争などに参加しています。

上空から放たれる圧倒的火力 105mm砲搭載のガンシップ「AC-130」 その性能とやらは?

最新型のAC-130J。赤い楕円で囲った中の手前が30mm機関砲、後方が105mm砲(画像:アメリカ空軍)。

 なお2020年現在は、前述の通りAC-130WとAC-130Jの2タイプありますが、AC-130Jの増備が進められ、近い将来AC-130Wは退役する予定です。

 ちなみに前述した最初の機体AC-47「スプーキー」は、当初FC-47という型式でした。なぜならAC-47という型式は、すでに別のタイプ(飛行点検機)に振られていたからです。しかしアメリカ空軍の戦闘機パイロットのあいだから、FC-47は戦闘機ではないと反対を受けます。そこでアメリカ空軍は、わざわざAC-47をEC-47に型式変更し、FC-47をAC-47に変えました。

 その経緯がなければ、もしかしたらAC-130はFC-130になっていたかもしれません。

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