先端技術のかたまりともいえる現代の旅客機の多くは、自動操縦で巡航、そして着陸までこなせます。しかし、自動操縦での離陸はいまのところ、実用化されていません。

エアバスと航空科学博物館に理由を聞いてみました。

ほとんどの場面で活躍の「自動操縦」 なのになぜ離陸は手動?

 乗りもののなかで、最も自動化されているもののひとつが旅客機でしょう。「先端技術のかたまり」ともいえる旅客機では、巡航中など多くの場面で自動操縦(オートパイロット)を用いるのが一般的です。アメリカのメディアCNNによれば「操縦士が手動で飛行機を飛ばすのは平均すると10分間にも満たない」とされるほど、空の世界は自動化が進んでいます。

 そして着陸時も、誘導装置のILS(計器着陸装置)など設備が十分に整っている空港では、自動操縦での着陸を選択できる飛行機のモデルが多く、パイロットは状況に合わせて手動と自動を使い分けているそうです。特に自動着陸は、悪天候で視界が十分確保できないときなどに効力を発揮します。

 ところがそうしたなか、オートパイロットの導入されていない動作のひとつが、離陸です。オートスロットルなど補助的なものはありますが、人の手を介して行われています。JAL(日本航空)によると、ボーイングやエアバスなど航空機メーカーから提供されるフライトマニュアルで「このモデルはこの高度、もしくは時間に達するまでは自動操縦を使ってはいけない」というルールがそれぞれ決まっているそうです。

旅客機の「自動操縦」なぜ「離陸」はないの? 巡航 そして着陸...の画像はこちら >>

伊丹空港を離陸するボーイング767型機(2019年12月、乗りものニュース編集部撮影)。

 横幅45mから60mが一般的な滑走路の幅に、ピンポイントで降りなければならない着陸は、自動でも行うことが可能な一方で、なぜ離陸は同じようにできないのでしょうか。成田空港 A滑走路末端のかたわらにある航空科学博物館(千葉県芝山町)に聞きました。

「離陸操作は、条件や周囲の環境がほかの操作より複雑です。そのなかで機長は、自らの意思で判断や決定を行い、副操縦士とふたりで離陸手順をこなさなければならないので、地上から離れるまでは、手動で対応します」(航空科学博物館)

 離陸操作、実は着陸操作などに比べ、難しい点が多いようです。

離陸操作の難易度が「ハード」な理由 「自動着陸」技術的には可能?

 航空科学博物館は、離陸操作の難しさを次のように解説します。

「地上にいるときの飛行機は、他機と近くで絡む可能性が高いのです。たとえば出発前に着陸待ちの飛行機が滑走路に進入してくるなど、自分のすぐそばにいるたくさんの飛行機の動きを考慮にいれたうえ、自分も動かなければなりません」

 また同博物館によると、特に離陸は、乗客数、機体の重さ、燃料の搭載量、その日の気象といった条件がフライトごとに異なり、それらすべてを考慮したうえ、機長が自分の意思で離陸を続けるか続けないかを判断しなければならず、そうした理由から現状は「離陸していったん地上を離れるまでは手動で」というのが一般的なのだそうです。

旅客機の「自動操縦」なぜ「離陸」はないの? 巡航 そして着陸も自動化進む現代だが…

エアバスA350-1000型機。同モデルが「画像認識を用いた自動離陸」テストを担当(画像:Phil Guest[CC BY-SA〈https://bit.ly/2HOQrR3〉])。

 ただし同博物館は、少なくとも現在就航している多くの飛行機は、能力的に自動操縦ができないわけではないともいいます。

 たとえばエアバスでは、技術研究を目的とした飛行機の自律技術テスト「ATTOL(Airbus Autonomous Taxi,Take-Off&Landing)」というプロジェクトが進行しています。2020年1月には同社のA350-1000型機で、画像認識を用いた自動離陸のテストを成功させています。

 この「自動離陸」機能は、画像認識のためのカメラの装備やフライトコントロールコンピューターの調整なども別途必要ですが、2020年2月現在、世界各国で飛行している同モデルへも、ソフトウェアのインストールを行えば付与可能とのことです。

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