最大速度988km/hのはずのボーイング747-400型機が、対地速度1327km/hに達し「音速を超えた?」と話題になりました。数字だけ見れば尋常ではない記録です。
2020年2月8日(現地時間)、ニューヨーク発ロンドン行きのブリティッシュ・エアウェイズ BA112便(ボーイング747-400「ハイテクジャンボ」)が、同路線において亜音速機の所要時間としては史上最短となる4時間56分で到着、これまでの5時間13分の記録を大幅に塗り替えました。
ブリティッシュエアウェイズのボーイング747-400型機。同社は2020年2月現在、32機の747-400を保有、運航している(画像:ブリティッシュエアウェイズ)。
BA112便は予定よりも1時間22分早く到着し、旅客便運航情報サイト「フライトレーダー24」によると、途中の大西洋上、巡航高度約10500m(35000フィート)において、最大対地速度1327km/hに到達したことが明らかとされています。音速(マッハ1)は1224km/hですから、ボーイング747が音速に達したのではないかと大きな話題になりました。
この記録的な速度は、大型低気圧「シアラ」が作り出した強烈なジェットストリーム(ジェット気流)による「追い風」が原因でした。
空気中を伝わる音の速度「マッハ」は気圧や温度、湿度等の条件次第によって大きく変化するため、「標準大気」と呼ばれる指標が定められており、高度0mにおいて1224km/hであった場合、空気の薄い10500mではおおむね1080km/hとなります。ボーイング747の巡航速度はマッハ0.85で918km/hですから、BA112便は計算上409km/hもの追い風を利用し1327km/hもの速度に達したと見られます。2月8日の観測におけるジェットストリームの風速は、最大418km/hでしたからほぼ一致しています。
強烈な追い風とはいえ、なぜ亜音速機である747が音速を超えたように見えるのでしょうか、また、このような速度を出すことによって安全上の問題はなかったのでしょうか。
BA112便になにが起きていたのか? 「ジャンボ」が音速超えのカラクリ結論から言えば、BA112便は音速を超えておらず安全上の問題も全くありません。

300km/hで走行する新幹線の乗客が進行方向へ4km/hで歩いた場合、外から見れば304km/hで動いているように見える。写真はイメージ(画像:写真AC)。
私たち人間は地球の表面上で生活しているため、「速度」を認識する場合どうしても地面を基準にしがちです。しかしながら本来、速度には絶対的な基準はなく、すべては相対的なものでしかありません。飛行機は地球の表面を離れ空気の塊の中を飛行するため、飛行機における速度とは、周囲の空気を基準とする速度「対気速度」が用いられます。
BA112便は空気を基準とした対気速度において、ボーイング747の設計上の巡航速度であるマッハ0.85、918km/hで飛行していたはずです。新幹線車内を歩く人にとって、新幹線の対地速度が200km/hであろうと300km/hであろうと新幹線は常に静止しているように見えるように、BA112便から見れば、風速がどんなに速くとも、止まっている空気の塊の中をいつも通りに飛行したにすぎないのです。
航空機の速度記録はどう計測する? SR-71「ブラックバード」の場合見方を変えれば、空気の塊は静止していたのに、「地球表面が空気の塊に対し、BA112便の針路とは反対向きに400km/hもの相対速度で動いていた(この場合、地球の自転とは無関係)」ためにBA112便は1327km/hもの対地速度を記録した、と言い換えることができます。

アメリカ空軍のSR-71「ブラックバード」。ロッキード(当時)が開発した戦略偵察機(画像:ロッキード・マーチン)。
なおジェット飛行機における最大速度記録は、1976(昭和51)年7月28日、SR-71「ブラックバード」偵察機がマークした3529.56km/hです。
同じコースを2度、方向を変えて飛ぶことで、ストレート15/25kmコースでは風速の影響をゼロとみなすことができます。SR-71の巡航高度はボーイング747の2倍近いため一概にいうことはできませんが、もしBA112便と同じ状況下で飛行した場合は3900km/h以上に到達できたはずです。