旅客機は同じシリーズで胴体を伸ばし増席を図ったモデルを出すことが多く、そのようなモデルのなかで、エアバスが唯一、胴体最長記録を作ったのがA340-600型機です。その異形ともいえる長い胴体は、どのように作られたのでしょうか。

そこまで「長い」わけではなかったA340の初期型

 旅客機は、同じシリーズのなかでいくつかのモデルを出すことが一般的で、後発モデルには、胴体を伸ばし、席数の増加を図ったモデルが見られるというのも、ひとつのお約束のようなものです。

 2020年4月現在、航空会社に導入されている世界最長の旅客機は、ボーイング747-8型機の76.25mですが、その前に記録をもっていたのがエアバスのA340-600型機です。同社の飛行機のなかでは、唯一の「胴体最長記録」保持機でもあります。

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ルフトハンザ航空のエアバスA340-600型機(画像:ERIC SALARD[CC BY-SA〈https://bit.ly/3f9YbME〉])。

 A340シリーズは、エアバスにとって初となる4発エンジン機です。このシリーズは、1987(昭和62)年ごろから同社の双発機A330シリーズと並行して開発が始まり、胴体は同じものを使い、コックピットも高い共通性があります。これはエンジンの数で航続距離の使い分けを目指したもので、A340シリーズはエンジン数を増やすことで長距離の飛行に適したモデルとされました。

 このシリーズの初期モデルは、標準型で全長59.40mのA340-200型機、長胴型で全長63.69mのA340-300型機という2モデルで、-300型機の方が先に1991(平成3)年、初飛行をし、そののち、1993(平成5)年に航空会社での運航がスタートしています。この初期モデルは、まだ他社とくらべて圧倒的な長さを持つものではありませんでした。

 このころライバルであるボーイングは、長距離路線の市場で「ハイテクジャンボ」こと747-400型機が好調な売れ行きを見せていたほか、1990(平成2)年ごろから、400席超クラスの次世代双発機、いわゆる「777」の開発に着手しています。初期型は777-200型機で、こちらは1994(平成6)年に初飛行を迎えていますが、その前から、ボーイングでは777の長胴型を作る計画が進んでいました。

ライバル ボーイングに勝つため開発された新モデル 顛末は

 そして1995(平成7)年、ボーイングは777シリーズの長胴型、777-300型機の製造を決定します。

その全長は当時、最長の旅客機であった「ジャンボ」こと747型機の70.6mを上回る、73.9mです。座席数は双発機ながら747型機に匹敵する500席超を設置可能で、航続距離も1万km以上と、多くの人を遠くまで一度に運ぶことができます。

ライバルに勝つため胴体を伸ばしたら「世界最長」に エアバス「A340-600」の顛末

JALのボーイング777-300型機(2019年12月、乗りものニュース編集部撮影)。

 このように長距離大量輸送の市場では、いってしまえばボーイングの独壇場となっていたなか、エアバスはA340シリーズの航続距離延長型と、長胴型での新モデルの開発を計画します。1997(平成9)年、前者はA340-500、そして後者はA340-600として開発が始まりました。

 新モデルの長胴型であるA340-600型機は、初期モデルの-300型機の胴体を約9m延長したもので、座席数はクラス編成次第で450席超を搭載でき、航続距離も-300型機を上回る1万5000kmに迫ります。そしてその全長は75.36mになり、ボーイング777-300型機の記録を更新しました。A340-600型機は2001(平成13)年に初飛行、その翌年に航空会社での就航が始まります。

 ただ、このころの航空業界では、長距離の路線でも双発機を投入することが多くなっていました。ボーイングは777-200型、-300型の航続距離延長モデルを相次いでリリースし、一部はA340-600型機がデビューしたころから、航空会社で実際に投入されています。

 そうなるとエンジンが多いぶん、それらに比べてコストパフォーマンスの点で不利なA340-600型機の売れ行きは順調とはいえず、最終的に100機にも満たない製造機数で生産終了となりました。

 ちなみに、その後ボーイング747-8型機が塗り替えた最長記録は、2020年に初飛行したボーイング777シリーズの最新モデル、777-9型機が航空会社に納入されれば更新される見込みで、その全長は76.73mに上ります。

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