戦車は自動車と違い、車輪ではなく履帯、いわゆるキャタピラで走るため、車輪に角度を付けて曲がるようなことはほぼ無理です。とはいえ、戦車は進行方向を自在に変えられます。
一般的なクルマの場合、駆動方式にかかわらず、前輪の向きを変え、左右に曲がります。しかし、戦車は履帯(いわゆるキャタピラ)で走るため、ごく一部の特殊な戦車を除くと、履帯前部を曲げて右左折するということは、まず無理です。
陸上自衛隊の10式戦車が超信地旋回を披露しているところ。地面が大きくえぐられている(柘植優介撮影)。
では戦車はどのように右左折するかというと、曲がりたい方向に対し内側になる履帯を止め、外側の履帯だけを駆動させることで曲がっています。右折ならば右側の履帯を止め、左側の履帯だけ動かす、左折ならばその逆です。
いうなれば、コンパスで円を描くように戦車は方向転換しており、このような回り方を「信地旋回(しんちせんかい)」といいます。この動きを大きく行えば戦車もUターン可能です。
信地旋回は、初期の戦車以降、使われている方向転換(旋回)方法ですが、日本の10式戦車をはじめとした現代の戦車は、さらに一歩進んだ「超信地旋回(ちょうしんちせんかい)」と呼ばれる方向転換が可能です。これは簡単にいえば、その場で右回りおよび左回りするというもので、前述した信地旋回の際に止めている方の履帯を後方へ回す、すなわち左右の履帯を互いに逆方向へ駆動させると、その場で180度旋回ができるのです。
信地旋回が止まっている方の履帯を軸に回るのに対し、超信地旋回は車体の中心を軸に回転するといえるでしょう。
超信地旋回は、左右の履帯を各々違う方向に回すため、トランスミッション(変速機)やステアリングシステム(操向装置)がそのぶん、複雑で高性能になります。
第2次世界大戦中に誕生したドイツのティーガーI重戦車。超信地旋回が可能な数少ない大戦型戦車(柘植優介撮影)。
また履帯自体の強度も高くないと難しいため、実験はフランスなどで1920年代初頭から行われていましたが、実用化されたのは第2次世界大戦で登場したイギリスのチャーチル歩兵戦車やドイツのティーガー戦車などが端緒で、各国の戦車に普及したのは大戦後のことです。
日本戦車で初めて超信地旋回ができるようになったのは、陸上自衛隊の74式戦車です。74式戦車は、それ以外にもエンジンとトランスミッションの一体化、いわゆるパワーパック化や、トランスミッションのセミオートマチック化など、技術的にようやく世界の潮流に追いついたといえるものでした。
一方で、旧ソ連やロシア、中国の戦車などは、試作は別にして、超信地旋回の可能な量産戦車が登場したのは21世紀に入ってからです。
超信地旋回ができるか否か、それだけで戦車の性能を決めつけることはできませんが、それができるということは、少なくとも優れた基礎工業力のもとに作られた戦車だということは判断できます。
超信地旋回をデモンストレーションで披露する、もしくは逆に見せない(見せられない)というのは、実は理由があることなのです。

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