アメリカではF-1(フォーミュラ1)に勝るとも劣らない人気を誇るという自動車レース「インディ500」。出場車両のなかにアメリカ空軍のマークを付けた車両があります。
世界3大レースのひとつにも挙げられるアメリカの「インディアナポリス500マイルレース」(以下インディ500)において、2020年8月23日(日)、佐藤琢磨選手が2017年以来、3年ぶり2度目の優勝を果たしました。彼はインディ500において史上20番目の複数回優勝者となり、その快挙は日本でも話題になりました。
インディ500は1911(明治44)年に初開催され、100年以上の歴史を有するモータースポーツですが、2020年の今季、アメリカ空軍も車両2台で参戦していたのです。
ピット作業で第47号車のタイヤ交換をするメカニック。彼らが被るヘルメットもオレンジ色の国籍マーク入り(画像:エド・カーペンター・レーシング)。
世界最強の空軍と形容されるアメリカ空軍とはいえ、自動車レースの世界でも無敵というわけではありません。そのため、アメリカ空軍は強豪チーム「エド・カーペンター・レーシング」とタッグを組みました。
このチームは、2013年、2014年、2018年の3度にわたりインディ500においてポールポジションを取ってきたエド・カーペンター選手が率いています。アメリカ空軍はこのチームが所有する第20号車と第47号車、2台のスポンサーとなり、彼とチームメイトであるコナー・デイリー選手が乗り込む形で、2020年のシーズン開幕当初から参戦したのです。
片方は在日米軍に由来 もう片方は世界初の超音速機に由来エド・カーペンター・レーシングに属する第20号車と第47号車は、ボディの両サイドに大きく「USAF」と描き、併せて白星をモチーフにした国籍マークを軍用機のように書き込んでいました。
しかし、ベースのカラーリングは異なっており、第20号車は濃淡2色のメタリックグレーなのに対し、第47号車は鮮やかなオレンジでした。

エド・カーペンター・レーシングの第20号車。横田基地に所在する第5空軍にインスピレーションを受けてデザインされたそう(画像:エド・カーペンター・レーシング)。
なぜ、それぞれ違うカラーリングなのかというと、第20号車は日本の横田基地に司令部を置く第5空軍にインスピレーションを受けてデザインしたものだそうで、サイドポンツーン(車体両脇側面)手前に描かれたシャークマウス(サメに見立てたペイント)は、かつてのP-40「ウォーホーク」戦闘機や、現用のA-10「サンダーボルトII」攻撃機のタイガーシャークをイメージしたものとのこと。
さらにリアウイングの両サイドに入る稲妻は、アメリカ空軍士官学校をフィーチャーしたものだそうです。
一方の第47号車は、車両のナンバーである「47」にかけたカラーリングです。アメリカ空軍は、1947(昭和22)年9月18日にアメリカ陸軍から独立する形で誕生しました。その約1か月後の10月14日には、ベルの有人ロケット機X-1が世界で初めて音速を超えました。
そこから、X-1がまとっていたオレンジ色のカラーリングを受け継いで47号車はそのような配色になっているのです。ちなみにベルX-1は、小説「ザ・ライトスタッフ」やそれを基にした映画「ライトスタッフ」でも描かれており、首都ワシントンD.C.にあるスミソニアン航空宇宙博物館にはオレンジ色のX-1が保存展示されています。
NASCARも米空軍がスポンサー なぜ?では、なぜアメリカ空軍はインディ500のスポンサーになったのか、それはPRとリクルート活動のためです。アメリカ本土においてインディ500は、F-1(フォーミュラ1)に勝るとも劣らないほどの人気を博しています。そこでの広報効果は大きいものがあると考えているからとのこと。

2020年のシーズン最終戦では、第20号車はアメリカ宇宙軍がスポンサーになったため、カラーリングも変えていた(画像:エド・カーペンター・レーシング)。
アメリカ空軍はインディ500に限らず、NASCAR(ナスカー)などでもスポンサーにつくなどして、若者へのリクルート活動へつなげています。
自国民に人気のあるイベントへ積極的に参加し、親近感や興味を持ってもらおうとする姿勢は、ある意味で日本の自衛隊が「ゆるキャラ」を作ったり、それに関連するイベントに参加したりするのと同じなのかもしれません。
なお、横田基地のアメリカ第5空軍に関連した塗装が施されていた第20号車ですが、最終戦となった8月23日の決勝では、新設間もないアメリカ宇宙軍のカラーリングに改められ、「USSF」の表示や同軍のシンボルマークを付けて走っていました。