コロナ禍から平時に移行するなかで、再建型法的整理や準則型私的整理など抜本再生に向けた動きが活発化している。再生局面では資金繰りの維持が重要だが、かつて「信用不安企業への新規融資はご法度」との認識が金融界で定着していた。
三菱UFJ銀行(TSR企業コード: 299000052)は2023年4月に専門チームを立ち上げ、再生局面にある企業の支援を加速させている。東京商工リサーチ(TSR)は、コーポレート情報営業部・佐藤友部長、同部再生ファイナンスチーム・後田太盛次長(特命担当)、熊谷大樹調査役に取り組み推進の意図などを聞いた。
―「再生ファイナンスチーム」立ち上げの意図、経緯は
(佐藤)2023年4月にコーポレート情報営業部の中に再生ファイナンスチームを新設した。長年にわたり再生局面にある企業向けファイナンスについて研究し、どういった取り組みを目指すべきかの議論を行内で重ねてきた。コーポレート情報営業部は様々なステージにある企業様に寄り添ったサポートに取り組んでいる。
時代の移り変わりとともに、成長産業領域のスタートアップ支援や事業承継への取り組みも本格化してサポート領域を広げた。
昨今、コロナ禍を経てバランスシートは痛んでしまったものの、事業力自体は傷ついておらず、今後の成長が期待される企業は少なくない。こうした企業がバランスシートを綺麗にすることで復活を果たし、産業を担う存在として再び発展してもらいたいとの想いは、過去のリーマンショックなどの経験を経て、長年かけて醸成されたものだ。
佐藤 友 コーポレート情報営業部長
―チームの体制は
(佐藤)企業と向き合う接点となるフロントラインの担当者は3人。ドキュメンテーションなどバックオフィスや弁護士も含めると総勢11人だ。
―再生人材の育成には時間がかかる。また、再生局面におけるファイナンスの打診は「銀行名」より「担当者との信頼関係」が重要との声が再生実務家の中にはあると聞く
(佐藤)高い専門性が求められるので、そうした声はあるだろう。
※1 「自律的な行動変容」を促すことを目的とした三菱UFJ銀行独自の制度。2024年4月から専門性の活用・向上を希望する行員を対象に「エキスパート資格」を導入する
―「再生ファイナンス」の定義は
(後田)私的整理中の「プレDIP」、法的整理中の「DIP」、手続き終了時の「EXIT」の3つと位置付けている。リスケ局面からスポンサーへの事業譲渡を検討するステージに移る場合は、我々(再生ファイナンスチーム)がお役に立てると考えている。
―チーム立ち上げ後、「再生ファイナンス」の取り組み実績は
(熊谷)検討は約20件、実績は約10件。約7割は当行と取引がなかった「純新規」の相談だ。
(佐藤)中小企業活性化協議会、再生弁護士からのご相談を中心に、想定以上にご相談頂いているとの受け止めだ。このペースが続くならチームの陣容の拡大も考えたい。
―「再生ファイナンス」にビジネスとしての旨味はあるのか
(佐藤)「再生ファイナンス」のみで短期的に収益があがるとは考えていない。再生ファイナンスの対象となる企業のビジネス全体を考えると、仕入先や販売先など影響を与えるステークホルダーが広範にわたる。その意味で窮境局面への支援の効用は大きい。また、再生ファイナンスによって事業が好転すると、お客様との関係も非常に深くなり、再生後はメイン行もしくは意味のある重要なポジションでお付き合いをさせていただく可能性が広がる。
―再生局面のファイナンスは他行でも取り組みが進んでいる。差別化は
(佐藤)現在は案件の対応数を積み重ねて、我々の中で何ができるのか、レパートリーの幅を増やしていくことが重要だと考えている。
(後田)まずは三菱UFJ銀行として「再生ファイナンス」に力を入れていると認知いただくことも重要だと思っている。
後田 太盛 次長(特命担当)
他行との違いを聞かれることも多いが、それは当行への期待の裏返しだと受け止めている。再生ファイナンスは踏み込んだリスクファイナンスである以上、慎重かつ適切な組み立てにより回収可能性を確実にする設計が必要だ。
ただ、スピード感には非常にこだわっている。取り組みの特性上、スピードは事業価値の維持やその後の再生可能性に直結する。
―取り組みを推進するなかで大切にしていることは
(後田)情報遮断を徹底している。再生ファイナンスチームは、通常の融資審査の部署とは事業所を分けて業務にあたっている。「再生ファイナンス」審査ラインも専用で別に設けている。
(熊谷)取引先企業への秘密保持契約書提出に加えて、再生ファイナンスチーム担当者は銀行に対して情報の目的外利用をしない、第三者に伝達しない旨の誓約書も提出している。
(後田)再生ファイナンスの経験やノウハウをしっかりと組織に蓄積させ、サステナブルなビジネスになるよう発展させていきたい。
―案件の特性上、いわゆる「倒産村」との繋がりが重要だ
(佐藤)フロントラインの後田、熊谷を中心に、精力的に再生実務家とのコミュニケーションを強化している。
(熊谷)チーム設立以来、約320名の再生実務家の方にご挨拶に伺った。
熊谷 大樹 調査役
(後田)FA(フィナンシャルアドバイザー)、コンサルタントなどの再生実務家は、準則型私的整理に入る前にチームで案件に対応しているので、大手を中心にコミュニケーションを取っている。最終的な依頼は再生弁護士からくるケースが多いが、その前段階でのキャッシュフロー分析や再生計画の立案、債務免除額の算定などは彼らが担当する。個別案件を通じ我々がスピーディに案件対応をできることを示し、実績を積んでいきたい。
―プレDIPファイナンスの場合は全行同意が基本になるが、他行との関係は
(熊谷)事前に適切な説明をすることは当然として、設定額をむやみに大きくし過ぎない、既存取引金融機関にもご納得いただける金額・条件にするなど注意を払っている。現時点(※2)で我々が取り組んでいる案件で全行同意が取れなかったケースはない。
※2 2023年12月中旬にインタビュー実施
―今後の展開について
(佐藤)三菱UFJフィナンシャル・グループとしての動きになるが、2024年1月営業開始の(株)MUFGストラテジック・インベストメント(TSR企業コード: 860519279、以下MUSTI)とともにグループ全体で再生領域でのプレゼンス拡大を目指す。MUSTIは、MUFGとの既存取引有無に拘わらず、エクイティ・メザニンの資本性支援を行う投資専門子会社。第1号ファンドは500億円規模だ。
―再生ファイナンスチームとMUSTIとの連携は
(佐藤)いま正に検討している最中だ。MUSTIとの連携は抜本再生を目指すお客様に、より踏み込んだソリューションを提供していくことができる点で期待は大きい。
―倒産が増加傾向にあり、過剰債務を訴える企業も多い。再生ファイナンスチームが目指すポジショニングは
(佐藤)我々が強い領域、全幅の信頼を寄せていただける領域を確立し、より多くの案件をご相談頂けるチームを作り上げたい。そうした取り組みを積み重ねて、MUFGが日本を代表する再生ファイナンサーとして皆さまにご評価頂けるよう活動して参りたい。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年1月5日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)